「生きもの係」の薄ちゃんは自分とタカの疑いを晴らせるか? ー 大倉崇裕「アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係5」

動物や植物の関する事件や、飼い主が事件に巻き込まれて飼育できなくなったような時、動物愛護の立場から、それらをお世話する役目を担っている、警視庁総務部総務課動植物管理係、通称「警視庁生きもの係」に勤務する、動植物オタクの薄巡査部長と、刑事部出身で捜査上の怪我のためリハビリ兼窓際の須藤警部補の二人組が繰り広げる動物ドタバタミステリー「警視庁いきもの係」シリーズの第5弾が『大倉崇裕「アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係5」』。

前巻までで、「ギヤマンの壺」という新興宗教団体のテロ行為を防止して都民の多くの生命を救った二人組なのだが、そのせいでその団体から生命を狙われる羽目になったのだが、そんなことは一向に気にかけない、薄ちゃんのノーテンキさが光る第5弾である。

【収録と注目ポイント】

収録は

「タカを愛した容疑者」
「アロワナを愛した容疑者」
「ランを愛した容疑者」

となっていて、第一話の「タカを愛した容疑者」は、山梨県との県境に近い山村でおきた殺人事件の謎解き。その被害者となった老人は、全身を殴られて撲殺されていて深い恨みからの犯行では、と推測されるのだが、なぜか顔には傷がついていない状況。もともと、酒ばかりを飲んでいる偏屈な老人で、近所の評判も芳しくないのだが、一頭のシーズーを可愛がっていて、その犬が最近行方不明になった、ということで近所に住む女性と揉めていたところが目撃されている。その女性は大きなタカの世話をしていて、殺された老人の言い分では、そのタカがシーズーを襲ったのだ、という。そして、なんと、その女性というのが、いきもの係の薄巡査部長。彼女は知り合いの大学教授に頼まれて、その教授の家に泊まり込んでタカの世話をしていた、という経緯なのだが、老人殺しの疑いと子犬を襲ったタカの疑いを晴らさないといけなくなり・・・、という筋立てです。殺された老人の以外な正体が事件の鍵ですね。

第二話の「アロワナを愛した容疑者」は熱帯魚ブームの中でも、一段と目立つ存在である「アロワナ」、しかも以前にシンガポールの大富豪のもとから盗み出された珍品中の珍品の赤色の「アロワナ」を密輸して飼育していた男が殺される、という事件。
通常なら単純な輸入禁止の熱帯魚の密輸とそれをめぐっての殺人事件として処理すればよいのですが、そのアロワナを昔盗まれてた大富豪がアロワナを奪還するのと盗難の復讐を企んで殺し屋を派遣してくることと、いきもの係の二人を狙って「ギヤマンの壺」の残党たちが再び動きはじめ、「蜂に魅かれた容疑者」で登場した「ギヤマンの壺」の宿敵の鬼頭管理官だけでなく、薄と須藤の生命も狙われることになって、一大アクションが展開されることになります。

第三話の「ランを愛した容疑者」は、このシリーズには珍しく「植物」が事件のアイテムとなります。事件のほうは大手印刷会社の社長が階段から落ちて事故死します。この社長は、妻を亡くしてから、彼女が好きで世話をしていたランの栽培を引き継いでたくさんのコチョウランを育てているのですが、捜査終了まで、そのコチョウランの世話を頼まれた生きもの係の薄巡査部長が、その世話にムラがあることに気づきます。その社長が本当にランを愛していたのか、薄が不思議がるうちに、亡妻の残したランの鉢の中から、妻の浮気の現場とも思える写真が発見されます。ひょっとして、その社長の死は事故死ではなく・・・、といった展開です。少々ネタバレすると、浮気のもつれと思わせておいて、実は社内の権力争いという筋立てですね。

【レビュアーから一言】

いつもノーテンキで平和な言動の多い薄巡査部長なのですが、今話の「アロワナを愛した容疑者」では、生きもの係の二人を狙う「ギヤマンの壺」のヒットマンを相手にアクションシーンを繰り広げます。花火店に売っている「煙玉」や、水をパンパンに詰めた「コンドーム」や廃ビルの中に落ちていたガラスの破片を使った即席ナイフを武器にした立ち回りなのですが、彼女のかなり手練な技にびっくりすることうけあいです。

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