四人の女子中学生はカルチャースクールで羽ばたくー円居挽「その絆は対角線」

都内にあるカルチャースクールの体験授業で偶然であった、大人しくて、スポーツもそこそこ、勉強もそこそこという、平凡過ぎる「暮志田千鶴」、明るい性格で勘が鋭いが、見た目は小学生と間違えられる「先崎桃」、お調子者をきどりながら実は計算高くて要領のよい「蒲原真紀」、スタイルバツグンの美女ながら、かなりKYなお嬢様「三方公子」という四人の中学生が、カルチャースクールで起きる「日常の謎」を反発し合ったり、協力し合ったりして解決していく青春ミステリー「日曜は憧れの国」シリーズの第2弾が本書『円居挽「その絆は対角線」(創元推理文庫)』です。

収録と注目ポイント

収録は

「その絆は対角線」
「愛しき仲にも礼儀あり?」
「胎土の時期を過ぎても」
「巨人の標本」
「かくも長き別れ」

となっていて、前巻で全てのお試しチケットを使ってしまってからの4人の女の子たちの、それぞれのカルチャースクール生活が描かれるのが本書です。

第一話「その絆は対角線」

第一話の「その絆は対角線」で、トライアル終了後、千鶴は、「中学・高校では教えない経済学」を受講、真紀は人気講座の抽選合格待ち、公子は小説創作の自主練中という状況なのですが、桃だけが三人への連絡もなく、スクールもカタログも取りに来ないという状況となってます。

なんとか桃にもスクールに復帰してもらい再び、4人で仲良くツルみたい、千鶴は真紀に、桃を説得して復帰させようと持ちかけるのですが、桃の家庭は三人ほど裕福ではなく、しかも祖母が入院して物入りということがわかり、真紀は千鶴の呼びかけに及び腰に。ここで、千鶴の説得が、スクールに再び通いたいのですが、家計を心配して親に言い出せない「桃」の反発を買ってしまいます。これがもとで、もともと反りの合わなかった千鶴と真紀の関係が険悪になり・・、という筋立てです。

千鶴と真紀の関係修復には、沈着冷静な「公子」が、「桃」の説得には、千鶴が受講している「中学・高校では教えない経済学」講座を担当している「エリカ・ハウスマン」という金髪碧眼の女性が、絶妙な役割を果たすことになるのですが、その説得文句がイケてます。ちなみにこの「エリカ・ハウスマン」という女性は、日英混血でイギリス育ち、アメリカの起業経験あり、というバリキャリ。幼い頃に父親の事業が破綻したせいで苦労したようで、とてもビジネスライクなのですが、このあたりは今巻のあちこちで重要なポイントになるので覚えておいてくださいね。

第二話「愛しき仲にも礼儀あり?」

第二話の「愛しき仲にも礼儀あり?」ではエリカのアドバイスで再びカルチャースクールに通うことにした「桃」が受講している「マナー講座」で起きた事件を中心に展開します。

その講座は、「スチュワーデス」と呼ばれていた時代のCAの経験を持ち、現在は企業研修などでマナーを教えているベテラン講師が担当しているのですが、マナーについての解釈の違いで、お嬢様学校の高校生二人が講師に厳しく叱られた後、「出禁」になるという事件が起きます。彼女たちは「オフ会でのマナー」について講師に質問したことが原因のようですが、そのことをSNSにあげたあたりから、騒動になっていき、とうとう講座が閉鎖されるという事態につながり・・、という展開です。

ネタバレをしておけば、講師も女子高生も「喧嘩両成敗」という顛末ですね。ちなみに、この話の最後のほうで、公子とエリカの「バチバチ」が本格的に始まりますね。

第三話「胎土の時期を過ぎても」

第三話の「胎土の時期を過ぎても」では、要領よく生きている現代っ子「神原真紀」が心のうちに抱えている「悩み」の解決編です。

謎解きのほうは真紀がようやく受講を決めた芸術系講座の講師の知り合いの美術収集家が、所有する「銀漢天目茶碗」を割った後に脳溢血で死亡したということがおきます。事件性は見当たらないのですが、彼は本物と偽物の「銀漢天目茶碗」を持っていて、本物のほうは割って、偽物のほうは残すという奇妙な行動をしています。しかも、その偽物のほうは、自分でつくったものなので、偽物と本物を間違えようもないのですが・・という筋立てです。

真紀の悩みは、自分が「偽物」で、桃や公子のような「本物」にはどうしても敵わないという劣等感に悩まされているのですが、自分と同類と思っている千鶴に最後は救われることになるですが、ここはちょっと「ほんわか」するシーンですね。

第四話「巨人の標本」

第四話の「巨人の標本」は、優等生で小説家志望の「公子」が尊敬している作家・奥石衣が主催している小説の「創作講座」での出来事です。その講座では、小説家になることを目指している才能がある受講生たちを集めて、特別講座として自作を批評しあう合評会を通常講座の後に開催しているのですが、ある時、講師の奥石が出版社のベテラン編集者を「評者」として連れてきます。

彼女としては、小説家志望者たちが、プロ編集者のアドバイスをもとに作品をブラッシュアップすることを狙っていたようですが、その編集者・信楽の批評は辛辣な上に的を射ていて、公子をはじめ作家志望者たちは、もうズダボロ状態になってしまいます。

ところが、その合評会に誰のものかわからない「巨人の標本」という作品が提出されていて、それを読んだ信楽は驚嘆。すぐにでも出版できるレベルだとべた褒めし始め・・・という展開です。話の筋としては、この作品の作者は誰だ、というものなのですが、今回は「公子」が自信をこなごなにされてしまうのがちょっとかわいそうですが、おそらく、彼女は立ち上がると思います。

第五話「かくも長き別れ」

最終話の「かくも長き別れ」では、この巻でバリキャリ・キャラで千鶴や桃、真紀や公子にアドバイスをふりまいて、信頼を得る一方、同じくらいの反感をもたれていた「エリカ・ハウスマン」が、ラジオ番組からテレビへと大躍進をしていくのですが、その結末が焦点です。

彼女が成り上がることになって、お別れ講演会を開くことになるのですが、その会場で、彼女がタブレットが盗まれたことを、付き人で雇われた白人女性を厳しく咎めるのを4人が目撃します。冷静に利益の出る方向を見定めるのが常であった彼女のいつもと違う様子に違和感を持つ4人なのですが、ここらあたりから、「公子」がエリカの隠している秘密に気付いていきますね。

それは彼女の、イギリス育ちで、アメリカ企業で成果をあげたという「バリキャリ」キャラに関係するものなのですが、詳細は原書のほうで。

レビュアーから一言

主人公の4人は中学生なのですが、2巻目になると、やけに大人びてきている印象があります。それにつれて、自分の意志を外に出し始めた「千鶴」であるとか、小説家になろうという自信を何度も挫かれなかがらも、立ち上がっていく「公子」であるとか、ひょっとすると作者の分身では、と思える女の子たちの奮闘に思わず声援を贈りたくなる一冊ですね。

Bitly

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