二十年前、彦矢山中でおきた幼女の死は事故?殺人?=生馬直樹「夏をなくした少年たち」

二十二年前、小学生だった少年が、いつもつるんでいた仲間たちと花火見物に登った山で、連れてきていた幼い女の子を置き去りにしたことが原因で生じた悲劇の謎を、ある一人の男の死をきっかけに、成長して刑事となっていた主人公が贖罪のため、真相を明らかにしていく「誰もが通る少年の日々を瑞々しく描」いたヒューマン・ミステリが本書『生馬直樹「夏をなくした少年たち」(新潮文庫)』です。

出版社コメントによると「胸を締め付ける瑞々しい情景描写が選考会で絶賛された第3回新潮ミステリー大賞受賞作です。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第一部
1 陽のない山
2 さよなら、少年
第二部
1 再会
2 笹舟の方向

となっていて、まずプロローグのところで、主人公の「僕」こと「梨木拓海」が司法解剖が行われた大学病院の遺体安置所で、阿佐ヶ谷南の公衆トイレで絞殺された一人の男性の遺体と向き合っているところから始まります。

その死体を見て、梨木は「そうか、結局、死んだのか」と思うのですが、この言葉をきっかけに、この男性を殺した犯人探しと22年前におきた一人の女の子の遺棄死亡事件の真相究明に単独で乗り出すこととなります。

まず第一部は、この事件の遠い原因ともいえる、22年前、梨木たちが小学生の時に還ります。彼はこのころ、新潟県の燕市のはじっこに住み、そこの小学校に通う小学六年生。不良ではないのですが、集団から外れて悪さをする「榊雪丸」という男子のお守りを学校側から、同級生の紀本啓とともに押し付けられ、雪丸の監視とともに少々の悪さをする「悪ガキ」たちです。これに、少しおとなしくて、いつも妹の「智里」が金魚のフンのようにくっついている「三田村国実」がいつもまとまって行動している、という設定です。

ただ、このグループの仲がとてもいいか、となるとそうでもなくて、乱暴者の雪丸は、妹がくっついてくるせいで、グループ全体の動きが規制されてしまうのがイヤで、国実のことを邪慳のすることが多く、これがこの物語の悲劇が起きる一因ともなりますね。

物語のほうは、雪丸+拓海+啓に国実と彼の妹・智里のメンバーでクラスの女子と喧嘩したり、祭りの縁日で騒いだり、とまああまり害のない「悪ガキ」ぶりを発揮しています。彼らにいつも絡んでくるのが少し年上の「東堂聖剣」という不良で、グループの中の誰かを標的にしているようなのですが、彼らから10円づつカツアゲして、千円を不良のボスの上納するという「人のいい不良」です。

このあたりの様子は、昔の悪ガキたちの妙な明るさ、古い映画でいえば「スタンド・バイ・ミー」みたいな感じがあって、あっけらかんとした気分になれます。特に、国実を慕ってどこでもついてくる彼の妹・智里の「チーのにーたん、世界一」という口癖には思わずニンマリしてしまう人も多いかとおもうのですが、ここで過度に感情移入すると、あとで手酷い目にあうので要注意です。

そして、このグループを襲う悲劇はふいにやってきます。雪丸の行動で、秘密裏に計画していた自転車旅行ができなくなり、代わりに彦矢町で行われる花火大会を彦矢山の頂上からみようと、夜の登山を試みるのですが、当初、家で留守番させておくはずの「智里」がついてきてしまいます。どうしても、足手まといになる智里に、雪丸がキレて、彼女を途中で置き去りにしてしまうのですが、その間に彼女は何者かに襲われてしまい・・と山腹で死体となって見つかります。さらに、彼らの絡んでくることの多かった「東堂聖剣」も近くで、頭を割られて血まみれで倒れてるのが発見され・・という展開です。

智里を殺した犯人を警察は必死に捜査するのですがみつからず、自分たちの置き去りで智里を死なせてしまった拓海たちのグループのつながりはばらばらになり・・という筋立てです。

続く第二部では成長して、警視庁杉並署の刑事となっている「拓海」は、阿佐ヶ谷南の公衆トイレで見つかった「東堂聖剣」の遺体と対面し、二十年間封印してきた、智里死亡事件と聖剣傷害事件の真相を明らかにするため、親の葬式と嘘をいい、長い間帰っていなかった郷里・新潟へと向かいます。

そして、拓海は、故郷で警備会社を経営している「啓」をはじめ同級生や当時の関係者から聞き込みを始めるのですが、そこで、「啓」の愛娘が誘拐されるという事件がおき、と物語が動いていきます。

この誘拐事件と22年前の山中の事件との関わりは、そして、智里の死亡と「聖剣」の殺人事件の真相は・・という展開なのですが、謎解きのほうは原書でどうぞ。

夏をなくした少年たち(新潮文庫)
その男の死体が発見されたのは8月21日だった。「そうか、結局死んだのか」梨木刑Ө...

レビュアーの一言

最終的には、この事故や事件は最近お決まりの「サイコパス」的な犯人や、異常性愛的な人物の登場もなく、不幸にも犯罪を犯した者が勧善懲悪的に罰を受ける形で終結していくのですが、その分、一所懸命、兄の後を追ってきて、不条理に死んでいった「智里」の哀れさが強調され、ちょっとやりきれないところは残るのですが、どう思われますか?

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