東京仕込みの敏腕美人弁護士が、まったりとした事件に挑むー友井羊「さえこ照ラス」

弁護士不在地域や弁護士が少ない地方などで、弁護士を雇えない低所得者の救済や司法相談といった司法サービスを受けやすくするためにつくられた法律版駆け込み寺である「法テラス」の沖縄の事務所を舞台に、住民から持ち込まれる雑多でまったりとした法律相談を、パンツスーツが似合う東京からやってきた美人の弁護士が、ばったばったと片づけていく「弁護士ミステリー」が本書『友井羊「さえこ照ラス」(光文社文庫)』です。

収録と注目ポイント

収録は

「オバァの後遺障害認定事案」
「軍用地相続の調停事案」
「モアイの相談」
「誘拐事件の国選弁護」
「ユタの証明」
「親権問題の調停事案」
「オジィとオバァの窃盗事件」

となっていて、今シリーズの主役となるのは、東京で一流の法律事務所で企業弁護士をやっていたのですが、事情あってそこを辞め、沖縄に流れ着いていた腕利きの美人弁護士「阿礼沙英子」、シリーズの語り役で、居酒屋がつぶれてプータローをしているところを法テラスの事務方として勤めることになった「大城」、京都生まれで沖縄にやってきた、無駄のない仕事をする寡黙な事務員「西村」 といった三人の」メンバーがメインキャストとなります。

まず第一話は、冒頭の公設市場のサーターアンダギーの店で行列に割り込んで、沙英子とトラブルを起こした金髪青年が持ち込んできた自分の祖母の交通事故の後遺症の認定に関する相談ですね。青年の祖母は半年前に交通事故にあい、右足に打撲をうけたのですが、半年たっても、痛みが治まらないのに後遺症として認定されない、というものです。いつまでも打撲の痛みを訴える老女に「詐病」の疑いがかかるというものですね。沙英子の疑念から思ってもみなかった病気が発見されることになります。

第二話は、沖縄の特有のアメリカ軍や自衛隊の基地として借り上げられている土地の相続問題の」関わる相談事です。本書によるととこの「軍用地」は管理はアメリカ軍などがしてくれて定期的に借地料が入ってくる土地なので、なまじ入居者の苦労の多いマンションよりは人気のある相続物件のようですね。この土地をめぐって、実子と庶子が相続を争うことになり、庶子の方の代理人を沙英子たちが引き受けることになります。しかし、途中で、被相続人との「血縁関係がない」ことが明らかになって・・・という展開です。相続の問題と絡んで、太平洋戦争後の沖縄の事情も絡む複雑なものが関係してくる仕立てとなってます。

第三話はこれまた沖縄に多い、民間の「講」のシステムである「モアイ(模合)」に伴うトラブルです。法テラスの事務をしている大城くんの小学校当時の同級生の女性が、モアイのお金を持ち逃げされたと相談にやってきます。どうやら彼女の恋のライバルっぽい女性がモアイのお金を一番に受け取ってそれ以後、姿をくらましてしまったということのようです。ちょうど、そのころ沙英子弁護士のほうは、老人から金品をだまし取る詐欺集団の相談をうけていたのですが・・ということで、この二つがクロスしてくる展開です。

第四話の 「誘拐事件の国選弁護」では、人のよい「オバァ」が中学二年生の女の子を誘拐したという事件の国選弁護を引き受ける話です。この女性は、その女の子が小さい頃に亡くした娘に似ていたので、可愛くなり脅して連れまわしたということで、身代金も要求せず、翌日にはその女の子と一緒に出頭しています。
この誘拐犯の国選弁護を引き受けた沙英子なのですが、女の子の体にある傷と、女の子の母親の言動に、この誘拐事件についてそもそもの疑念を抱いて・・・、という筋立てです。

第五話は、沖縄の心霊ものでは定番の「巫女」的な役割をする「ユタ」に関する揉め事です。九州の福岡から移住してきた依頼人の妻(この奥さんは沖縄出身のようですね)が「ユタ」を名乗る女性から魔除けとされるものを高額な値段で売りつけられているので金を取り返してほしいという依頼です。沙英子がその「ユタ」に会うとお金は返還するという約束をとりつけるのできます。しかし、簡単にお金を返す裏にはなにか企みがありそうで・・・という展開です。大城が依頼人の妻の先祖伝来のお墓のあった土地を訪ねたところで、不思議な老女に出会い、ということで沖縄っぽい不思議譚的なテイストの物語です。

第六話は、離婚した夫婦の子供の親権争いです。沖縄の民謡歌手をしている元夫のほうから、 息子の親権を取り戻してほしいという依頼を受けるのですが、夫の収入が不安定なこともあって、難航間違いないの案件でなのですが、沙英子弁護士は、共同親権という日本ではなじみのない制度の適用を家庭裁判所で提案します。その陰には、妻の実家の親子関係と、離婚後、妻の実家で暮らすようになった息子が急に乱暴になったり、父親のことを馬鹿にする発言が出てきたことの陰にある裏事情を感づいていて・・という筋立てです。

最終話の 「オジィとオバァの窃盗事件」は、民間の強度歴史家の家から収取品が盗まれた事件の謎解きです。その収集家は沖縄北部の田舎町に住んでいたのですが、近くで発見された不発弾の処理のために避難し指示がでているさなかに、近くに住む80代の老女がその家に入り、焼き物と琉球グラスを、その部屋にあった古い官報と写真に包んで持ち出したということなのですが、なぜそれを盗んだのか動機が全くわからず、といった展開です。調査をすすめるうちに、その老女が盗難事件を起こした一か月前に、元市会議員の男性と近くの公園で会っていて、その男性が「カマド」と言ったことを老女が口止めしたことが判明するのですが、これが事件猶謎をとくヒントとなり、というところですね。ここでも、太平洋戦争で県土が焦土となった沖縄の事情が顔を出してきます。

全編を通じて、沖縄らしい雰囲気と、事件の謎を解いていく沙英子弁護士の気の強さとアシスタントの大城くんののんびりさ加減が微妙にマッチングしていて、まったりとした、和やかな構成になってますので、ささくれた気分のときに、心を鎮めるにはもってこいのミステリーといえますね。

レビュアーから一言

シリーズの魅力は、わがままや言いたいことをいう依頼者に突然キレて、バッタバッタと依頼を捌く「沙英子」の勇壮なところとあわせて、随所にでてくる沖縄の雰囲気や食べ物・飲み物の描写でしょう。
たとえば

沙英子が食べているのは近所で売っているウチナー弁当だ。フーチャンプルー、トンカツ、ポーク、ハンバーグ、卵焼き、野菜の天ぷらなど、大量のおかずがご飯の上に敷き詰められている。加えてミニ沖縄そばまでついて、値段は三百五十円だ。(「オバァの後遺障害認定事案」)

であったり、

昼過ぎに聞き込みを一段落させ、大城はひなびた定食屋に入ってカツ丼を注文した。しばらくして、おかみさんが丼を運んでくる。ご飯の上にトンカツが載せられ、その上に卵とじの野菜炒めが盛られている。(「親権問題の調停事案」)

などと、沖縄の郷土色満載ですので、沖縄の雰囲気をかみしめながらミステリーが愉しめるという「二度美味しい」オトクな構成になっています。

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