友井羊「スイーツレシピで謎解きを」ー吃音少女の探偵力は「スイーツ」で覚醒する

「スイーツレシピで謎解きを」の読みどころを一挙紹介

都会の街角にあるスープをメインメニューしたレストランを舞台にした日常の謎ミステリー「スープ屋しずく」シリーズの筆者が、高校を舞台にして、スイーツと日常の謎を解き描かしていく「青春ミステリー」が本書『友井羊「スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫」(集英社文庫)』です。

今回の主人公は、吃音症があるために、同級生や他人とのコミュニケーションが苦手な「沢村菓奈」という女の子で、彼女が、同級生のスイーツづくりの名手で、その分、スイーツ評論も手厳しい天野真雪、保健室登校を続けていて、学校ではほとんど保健室のベッドの上にいる皮肉で辛辣な口調が特徴の美少女・篠田悠姫子たちと学校内でおきる謎を解き明かしていきます。

構成と注目ポイント

構成は

第1話 チョコレートが出てこない
第2話 カトルカールが見つからない
第3話 シュークリームが膨らまない
第4話 フルーツゼリーが冷たくない
第5話 バースデイケーキが思い出せない
第6話 クッキーが開けられない
最終話 コンヴェルサシオンはなくならない
おまけ マカロンが待ちきれない

第1話 チョコレートが出てこない

まず第1話の「 チョコレートが出てこない」は、本巻の探偵役を務める「沢村菓奈」が、彼女の同級生・天野真雪がつくってきた手作りチョコが家庭科の実習調理理室で紛失してしまい、部屋のカギを直前まで預かっていた「菓奈」が犯人扱いされてしまうというもの。菓奈は吃音症の気配があって、気が動転すると少女がひどくなるので、うまく抗弁できずに誤解を生んでしまって・・、という展開です。この話で、被害者である真雪と、彼の親戚である保健室の姫君・篠田悠姫子と仲良くなり、彼女に発破をかけられて、自分の潔白の証明と謎解きに挑戦することになります。このチョコレート紛失事件を見事に推理したことで、菓奈の「スイーツ探偵」としての活躍が始まります。犯人のやったことは悪いのですが、動機が真雪の「スィーツ酷評」にあるところが複雑です。
ついでに、菓奈の「スイーツづくり」の技術検証と合わせて、悠姫子さんの命ずる菓子をつくって「献上」することになるのですが、これが今回の謎解きシリーズの重要な舞台セットになります。

第2話 カトルカールが見つからない

第2話の「カトルカールが見つからない」は、第1話のスイーツ紛失事件の犯人だった理系少女・一之瀬さんの知り合いのおばあさんの人探しを手伝う依頼を引き受けたのかきっかけで、彼女がつくったアップルパイが孫のお気に召さなかった謎を解き明かしていきます。表題の「カトルロール」というのはスポンジケーキの別称のようなものなのですが、謎解きのヒントはおばあさんと孫娘とが思い描いている「アップルパイ」が別物であることですね。

第3話 シュークリームが膨らまない

第3話の「シュークリームが膨らまない」ではイケメン・スイーツ男子として人気のある真雪と保健室の姫君・悠姫子を通じて仲良くなっていることに嫉妬した女子二人の「いやがらせ」に遭います。それは調理教室でグループごとにシューークリームをつくる、というイベントで菓奈のグループのシュークリームがうまく膨らまない失敗作となった責任を、菓奈の手腕と持参してきたバターのせいにするとともに、彼女の吃音をからかって笑いものにする、という陰険なものなのですが、謎解きのヒントは、この女子の一人の父親が製薬会社勤めで、彼女もサプリをたくさん持ち歩いているというあたり。

その一つにシュークリームの発酵をさまたげる、身近な「サプリ」があることに菓奈は気づくのですが、今までコミュニケーションが苦手で他人に反抗することのなかったのですが、謎解きのネタを逆手に犯人の女子を脅しあげる、という黒い仕業をちょっと見せますね。

第4話 フルーツゼリーが冷たくない

第4話では、物語の時間が進んで、菓奈も2年生となっていて、悠姫子や真雪の幼馴染の「加藤葵」という元気の良い女の子が新しいメンバーとして登場します。「背丈は百五十センチくらいで、少年みたいな体型をしている。大きめの制服を買ったようでぶかぶかだった。ショートカットと相まって男の子みたいにも見える。・・・悠姫子さんが高貴なシャム猫だとすると、加藤さんは甘えん坊の幼い和猫といった印象だ。」という感じの女の子です。彼女は、両親の離婚で、真雪たちとは中学生のときに転居し、別の学校になっているようですが高校になって菓奈たちと同じ高校に進学し、片道1時間半かけて通学しているようです。

今回の謎解きは、昨日、菓奈は「悠姫子」さまに献上するフルーツケーキを家庭科クラブの先輩・佐伯橋さんに預けて昼休憩中、冷蔵庫に保管してもらうよう頼んでいたところ、翌日、その先輩から「フルーツケーキのゼリー」を台無しにした謝罪があった、というもの。悠姫子さまのフルーツケーキへの厳しい評価は満点はでなかったものの、そこそこの出来だったのに佐伯橋先輩はフルーツケーキが失敗したのは自分のせいだと謝罪してきたのか・・という謎解きですね。

第5話 バースディケーキが思い出せない

第5話の「バースデイケーキが思い出せない」は、新メンバーの下級生・加藤葵が持ち込んできた同級生の男の子の悩みの解決編です。その男の子は小学生の時に母親を病気で亡くしているのですが、その母親が父親の誕生日に焼いていたケーキを再現したい、というものです。そのケーキは白っぽいパウンドケーキのような菓子で少し緑がかっていて、味は子供の頃に食べた記憶では、臭くてしょっぱい代物だったとのこと。さらに、その父親は乳製品系のものは全く食べないとわかって・・・、という展開です。
「緑色」をしたクリーム系のものというのがヒントになるのですが、 菓奈がこのケーキを再現することで、父親の再婚話でショックを受けている男子生徒を勇気づけることに成功します。

第6話 クッキーが開けられない

第6話の 「クッキーが開けられない」では、保健室登校が常態となっている「保健室のお姫様」こと篠田悠姫子が、そういう状態となった理由が明らかになります。事件の発端は、悠姫子が、昔親しくしていて、今は転校した「丸岡道子」という女の子からクッキーが届いた日以降、保健室にもでてこず欠席が続きます。

悠姫子を心配する同級生二人の依頼をうけて調べ始めた菓奈は、雄姫子が1年生の時の文化祭で、彼女のクラスで出店する模擬店で出す、300枚のクッキーを悠姫子がミスって床に落としてしまい、すべて処分したしたったという事件に行き当たります。その事件以後、悠姫子は保健室登校になってしまったのですが、実はそそのクッキー事件の真相に、当時、ドジっ子で有名で、悠姫子の友人だった「丸岡道子」ちゃんが関係していることがわかるのですが、その底には、悠姫子の心配をしてきた二人の同級生のうちの一人による「いじめ」が絡んでいて、という筋立てですね。

解決に当たっては、第3話で垣間見えた、菓奈の「黒い技」が再び炸裂するのですが、今回も炸裂する対象が「いじめっ子」であるせいか爽快感も漂うのはいたしかたないところでしょう。

最終話 コンベルサシオンはなくならない

最終話の「コンヴェルサシオンはなくならない」の事件は、写真部の部長のデジカメから画像がすっぽり消去されてしまう事件です。この事件の謎解きで、菓奈は「子猫」の仕業であるという推理をするのですが、実は、それは彼女が誰かをかばっての「誤推理」で、これがばれて菓奈自身が窮地にたつことになって、という展開です。
この事件の謎解きがきっかけで、菓奈が吃音を治療する教室へ通学することを決めるのですが、詳細は原書のほうでどうぞ。

レビュアーからひと言

本書の大筋は、ふんだんにでてくる「スイーツ」を手掛かりにしながら、菓奈たちの前に現れる「日常の謎」を解き明かすというものなのですが、男性キャストの「天野真雪」以外のほとんど女性の登場人物が、過去のトラウマをかかえて現在も保健室までしか登校できなかったり、吃音のコンプレックスをもっていたりしているのですが、それぞれが信頼を深めていくにしたがって、それを克服し成長していく、心が明るくなるような「青春小説」でもあります。
最後の「おまけ」の「マカロンが待ちきれない」では、自分に自信がなくていつも陰に隠れていた「菓奈」の勇姿がなんとも「良い」」ですねー。

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