法テラスの美人弁護士への依頼は「沖縄方言」に満ちているー友井羊「沖縄オバァの小さな偽証」

弁護士不在地域や弁護士が少ない地方などで、弁護士を雇えない低所得者の救済や司法相談といった司法サービスを受けやすくするためにつくられた法律版駆け込み寺である「法テラス」の沖縄の事務所を舞台に、住民から持ち込まれる雑多でまったりとした法律相談を、パンツスーツが似合う東京からやってきた美人の弁護士が、ばったばったと片づけていく「弁護士ミステリー」の第2弾が本書『友井羊「沖縄オバァの小さな偽証 さえこ照ラス」(光文社)』です。

前巻では、東京から沖縄にやってきて1年目ということで、沖縄のオジィやオバァなど方言のきついところは聞き取れず、アシスタントの大城くんの助けを借りながら、相談事の解決と沖縄グルメを堪能する日々が描かれていたのですが、沙英子と大城の法テラス勤務も2年目となり活躍の幅も広がりつつあるのが今巻です。

東京仕込みの敏腕美人弁護士が、まったりとした事件に挑むー友井羊「さえこ照ラス」
弁護士不在地域や弁護士が少ない地方などで、弁護士を雇えない低所得者の救済や司法相談といった司法サービスを受けやすくするためにつくられた法律版駆け込み寺である「法テラス」の沖縄の事務所を舞台に、住民から持ち込まれる雑多でまったりとした法律相談

収録と注目ポイント

収録は

「チャクシとユミの離婚相談」
「飲酒運転の刑事弁護」
「沙英子の長期休暇」
「トートーメーの継承問題」
「生活保護受給者の借金問題」
「離島の刑事弁護事案」
「沖縄すば屋の相続問題」

となっていて、まず第一話の「チャクシとユミの離婚相談」の「チャクシ」は「嫡子」、多くの場合、長男のことですね。

本書によれば、沖縄では「墓」を引き継いで、先祖代々の供養をする「シーミー」というのがいまだに重要行事のようで、これに大勢の親戚を招いて満足のいくもてなしをすることができるか、が が長男の「嫁」の評価になっているとのこと。今話では、体調不良が多くて行事の接待役をこなせないお嫁さんが離婚を言い出されるのですが、いままで親のいいなりだった夫が、「男気」を出すまでの顛末が描かれます。

第二話の 「飲酒運転の刑事弁護」は、過去の飲酒運転のために仕事をしくじった「俳優」が再起を図るお話です。今回の相談者・我謝(「がじゃ」と読みます。沖縄っぽいですね)は大城の勤める法テラス・沖縄北の同僚・西村の元夫なのですが、その酒好きと女好きのために、仕事と夫婦関係の両方をしくじった経歴の持ち主です。

今回、一念発起して、減量して体を絞って、大作映画の役作りに挑戦しているのですが、再び飲酒運転で検挙され、スポンサーから愛想をつかされかけてしまいます。しかし、本人は酒は一滴も飲んでいないと主張するのですが・・・という筋立てです。彼の娘の「お父さんは変な臭いがする」という言葉をヒントに沙英子が、アルコールを摂取していないのに飲酒運転で検挙された真相をつきとめます。

第三話の「沙英子の長期休暇」では、沙英子先生が休暇をとって宮古島に来ているところで遭遇する事件です。

宮古島では、全身にシイノキカウラという蔓をまきつけ、ンマリガーの泥をかぶった三人の青年が集落内を練り歩き、道で出会う人に泥を塗りたくる「パーントゥ」という行事があるのですが、そのパーントゥが夜中の海からあがってくるのを見たという子供が、「嘘つき」といわれていじめられているのを助ける話です。見たのが本物の「パーントゥ」ではないことは想像つくのですが、では一体何?というところで、沖縄の地理的事情からくる「密輸」犯罪が手繰り寄せられてきます。

第四話の「トートーメーの継承問題」は、第二話と同じような沖縄独特の「相続」問題案件ですね。「トートーメー」とは、いわゆる「位牌」」のことで、昔は長男が相続するのが定番で、原則として一家の全財産とセットになっているかわりに法要やらの宗教行事も取り仕切ることが義務付けられているもののようです。

これを、東京の商社に勤めていた長男がリタイアを契機に帰郷し、「トートーメー」を継ぐといったところ、妹と継承争いが起きた、という相談事です、この家の「全財産」といってもそう大したものはなく、妹にとって負担が大きいだけなのですが、なぜ「トートーメー」を継ぐのに拘るのか、といった謎解きですね。

そして、今回、沙英子と法廷で交渉するのが、「沖縄弁護士」と言われる、沖縄がアメリカの占領下の時代に認められていた。この地特有の弁護士で。今回は単純な「相続争い」というより、置き忘れてきた戦後の「沖縄の歴史」を再認識させられる筋立てです。

このほか、中国と海の国境を接している石垣島を舞台に、そこを監視する国防問題や、海の天然資源の密漁などが描かれる「離島の刑事弁護事案」であったり、沖縄そばの人気専門店の跡目争いが描かれる「沖縄すば屋の相続問題」など、今回も「沖縄風味」満載の仕上がりになっているので、沖縄ファンの方々は旅行が思うにまかせない時の「気晴らし」にもってこいのミステリーといえるのではないでしょうか。

レビュアーからひと言

前巻と比べると、沖縄風味は伝統行事や民芸品の記述が多くて、食べ物のほうは控えめになっているのですが、たとえば、宮古島のビストロでの

沙英子はまず白ワインとドラゴンフルーツと島野菜のサラダを注文した。・・・ドラゴンフルーツはさっぱりしていて癖がなく、酸味の利いたドレッシングと合わさると甘さが引き出された。宮古ぜんまいは生でも癖がなく食べられる。パルダマという葉野菜は苦みが利いていて、葉が肉厚で歯触りが良かった。(「沙英子の長期休暇」)

であったり、

大城の前に置かれた皿には、どす黒いどろどろとした煮込み料理がカレーのようにライスにかけられていた。その上に大量のにんにくのみじん切りが載っている。・・・スプーンで貯めると血の味は感じず、旨味とコクが詰まっていた。豚肉やニンジンなどの野菜もたっぷりで、ニンニクの香りもあってどんどん職が進む。(「トートーメーの継承問題」)

という豚肉の血の入った炒め煮・チーイリチャーとかのあたりは、沖縄料理ファンにはこたえられないのではないでしょうか。本書を「ミステリー+旅本」として楽しんでみてもいいかもしれません。

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