麻野と母親は関係修復できるか? ー 友井羊「子ども食堂と家族のおみそ汁 スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」

オフィス街の路地にあるスープがメインのレストラン「しずく」を舞台に、店の常連「奥谷理恵」とレストランのシェフ・麻野と彼の娘・露をメインキャストにして、店のお客たちが抱えている悩みごとの謎解きと、スープ料理が愉しめる「スープ屋しずく」シリーズの第5弾が本書『友井羊「子ども食堂と家族のおみそ汁 スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」(宝島社文庫)』。

前巻で、担当していたフリーペーパー「イルミナ」が他の会社にM&Aされ編集部が丸ごと移ったため、今まで勤めていた出版社を辞めるかどうか悩んでいた主人公・奥谷理恵が新しい会社へ移籍しての、新生活が本格的に始まるのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 子ども食堂とふさぎこむ少女の秘密
第二話 揺れる香りは嘘をつかない
第三話 夕焼けの消えた泥棒の謎
第四話 非行少年の目的地

となっていてまず第一話の「子ども食堂とふさぎこむ少女の秘密」は、大学に通いながら、子ども食堂のボランティアをしている青年・水野省吾から「知り合いに激辛料理の好きな人がいるのだが、体調が悪いせいで辛すぎるものをとると腹痛になる。そのため、辛さ控えめでつくると美味しくないと嫌がる。なんとかならないか」という悩みの解決を持ち込まれるところからスタート。この悩みを解決するため、麻野の娘・露が理恵の付き添いで、その子ども食堂に行くと、琴美と真凛という二人の中学生のケンカに遭遇する。ケンカの原因は真凛が琴美に「嘘をついた」ということらしいのだが、そこには何か事情がありそうな気配。真凛は小さなころから体調が悪く病気がちだったのが、最近では回復をしてきていたのだが、突然ふさぎがちになり、学校でも孤立し、家に友達が遊びにくるのも嫌がり始めたらしいのだが・・・、という展開。少しネタバレすると、「家族の介護」という課題が突然出てくるのでびっくりしないように。

第二話の「揺れる香りは嘘をつかない」では、麻野の実と母親「夕月逢子」が事故で意識不明になっているところからスタート。麻野と彼の母親の関係は、幼いころの麻野の姉をめぐる事件以来、絶縁状態になっているのですが、本巻は、彼と彼の母親との「和解」もテーマの一つになっているようです。
で、逢子の事故の原因をさぐるため、彼女が最近関わっていた保護のケースを調べていくことになるのですが、今話では、虐待の疑いで、赤ん坊の息子・俊一と親子分離の措置を受けたシングルファーザー・赤羽鋼一の虐待の疑いを晴らしていくことになります。
親子分離のもととなった、虐待事件というのが、赤羽が自宅で息子のおむつを交換しようとしたところ、買い置きが終わりかけていたことに気づき、近くのドラッグストアに買い物に行って帰ると、息子が部屋の畳の横たわっていた。抱え起こすとぐったりしていて、病院で診てもらうと、急性硬膜下出血と眼底出血が発見される。他にも軽度の脳浮腫があり、赤羽の「ゆさぶり」行為による虐待が原因では、と児童相談所が乗り出して、親子分離の措置をうけたというもの。赤羽はそんなことはやっていない、と主張するのだが聞き入れてもらえない。事件の当日、部屋の中には馴染みにない「カレー」に似たスパイスの匂いが漂っていたというのだが・・・。という筋立て。隣近所との助け合いが、運悪く事故を招いてしまったといったところがネタバレです。

第三話の「夕焼けの消えた泥棒の謎」も、逢子の抱えていたケースの一つで、陣川剛秋という男性の娘・冬乃への虐待疑いにかかわる謎解き。その陣川家族の住むアパートで、泥棒の侵入があり、泥棒をおいかけたところ、近くの畑で忽然と姿を消した、という事件が起きたのだが、その後、冬乃によると女性の笑い声や弾けるような音が聞こえたり、奇妙なお札がポストに入っていたり、といった怪現象がおきはじめたらしい。この女の子は、父親から叱られてもやめない、筋金入りの「オカルト好き」なのだが、それがかえって父親を刺激するのでは・・・、という展開です、泥棒の意外な正体が謎解きのカギとなりますね。

最終話の「非行少年の目的地」では、逢子の事故の原因が明らかになるとともに、今まで絶縁状態であった麻野と彼女との関係に、少しばかりの光が見えてくる筋立てになってます。話のほうは、逢子が最後に関わっていた非行少年の案件を調べていると、彼と第一話にでてきた真凛とが一緒に家出をする事態が起きます。真凛は最近、母親のつくったセリ料理を食べて再び体調が悪くなって入院するぐらいなので、家出による健康への影響もも心配なところですね。
で、この二人の家出は、実は単なる非行事件ではなく、それぞれの家庭に隠された秘密が巻き起こしたもので・・という展開です。第一話で解決したと思っていた真凛の事件が実はもっと根深いものだったあたりには、すっかり作者の技に騙されてしまいました。

【レビュアーから一言】

今巻は、麻野と彼の母親・夕月逢子との関係修復ができるかどうか、がテーマである上に、児童虐待が各話の謎解きのテーマともなっているので、少々重苦しい雰囲気が漂っています。ただ、いつものように美味そうな「スープ」料理は健在で、例えば第一話にでてくる「四種類の葉野菜のポタージュ」は

木製の匙の先を沈め、ポタージュを口に運ぶ。
まず舌の上で滑らあさを感じた。デンプン質は控えめでさらっと喉を流れていく。それと同時に夏草の瑞々しさが感じられた。
複数の葉野菜のポタージュは初体験だ。メニュー表の説明によると、クレソン、ルッコラ、青梗菜、よもぎが入っているらしい。
ゆっくり味わうと、クレソンの新宮ルッコラのゴマのような風味が舌に伝わる。青梗菜の馴染みのある心地よい渋みも楽しめ、よもぎの苦みが全体を引き締めていた。

といった具合で、他にも数々のスープの名品が登場するので、そこらもしっかり味わってくださいね。

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