下町・谷根千で居酒屋系女子大生が謎を解くー東川篤哉「谷根千ミステリ散歩」

JR日暮里駅を出て、御殿坂を西に向かいながらしばらく歩いたところにある「夕やけだんだん」と呼ばれる大階段を登ったところにある「谷中銀座商店街」のはずれにある、まったく流行っていないイワシ料理専門店「伊酒屋 吾郎」の看板娘・岩篠つみれが、これまた流行らない開運グッズ店「怪運堂」の主人・竹田津優介とともに、今人気の下町スポット「谷根千」でおきる難事件の謎を解く、お気楽系ミステリーが本書『東川篤哉「谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題」(KADOKAWA)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第1話 足を踏まれた男
第2話 中途半端な逆さま問題
第3話 風呂場で死んだ男
第4話 夏のコソ泥にご用心

となっていて、本編の主人公・岩篠つみれの亡くなった父親・岩篠吾郎の始めた店で、今は、兄の岩篠なめ郎が継いでいる「居酒屋・吾郎」という、商店街のはずれにある寂れた海鮮居酒屋を中心に、この店の客が事件に巻き込まれたり、犯人として疑われたり、と「谷根千」エリアで事件が繰り広げられていきます。

第1話 足を踏まれた男

第一話は、この店に訪れていた「つみれ」の先輩・高村沙織が、憧れの先輩の足を踏んでしまった、という愚痴話から始まります。なんでも、同好会のメンバーが集まっての大学内の裏庭で開かれたBBQ大会で、後ろに下がった時、憧れの倉橋先輩の足を踏んでしまって、相当痛い思いをさせたらしく、うずくまる倉橋に手を差し伸べたのを邪険に振り払われた、と失恋話を持ち込んできます。しかし、沙織先輩は何かを踏んだ感触はあったのですが、人の足のような柔らかいものではなく、近くにあった石ころを踏んだ感触しかないのに・・・と無実を訴えてくるわけですね。
飲んだくれる沙織先輩を慰めるため、兄のススメで、開運グッズで沙織先輩の不運を晴らそうと、谷根千で「評判」の開運グッズの店・怪運堂を訪れることにしたのですが・・といった筋立てで、「岩篠つみれ」と怪運堂の主人「竹田津優介」の二人の謎解きストーリが展開されていきます。
少しネタバレすると、第一話は、BBQ大会で沙織たちが酒の肴にしていた「ジュリア」という名前の女子大生の失踪につながってきて、想定外にも、倉橋先輩の悪行が引きずり出されてくることになります。

第2話 中途半端な逆さま問題

第二話は谷中に住む「滝口久枝」という70歳過ぎの老女におきた事件です。彼女が、一泊二日の温泉旅行から帰ってみると、家の中の本棚の本や、テレビ台の端にある写真、あるいは電話がすべて逆さまになっているという怪事に出くわします。軽いものだけでなく、重い金庫も逆さまにされている始末で、誰が何の目的でこういうことをしたのか皆目わからない、という筋立てです。
この奇妙な話を、実家の居酒屋・吾郎で一緒に呑んでいた同級生から聞いた「つみれ」はその謎をといてあげると安請け合いをするのですが・・という展開です。もちろん、前話と同様、謎解きの推理の中心は、怪運堂の竹田津なのですが、「つみれ」が謎を解いた天才女性探偵と祭り上げられていくことになります。
ネタバレを少ししておくと、謎解きのヒントは「金庫の解錠」で、普段なら体の影になって見えない解錠の様子が金庫が逆さまになっていることで、ある方向から見ると・・・といったところです。

第3話 風呂場で死んだ男

第三話は、「居酒屋 吾郎」に名刺入れを忘れた初見の客に、忘れものを届けようと「つみれ」が、風呂場で溺死しているのを発見します。風呂に入っている時に眠ってしまったのかと推測されたのですが、死体の足が浴槽に沿って硬直しておらず、まるで金田一耕助もののミステリーのように日二本の脚がにょっきりと突き出した状態になっていることで、他の場所で殺されたのでは、と推理した「つみれ」は「竹田津」の助けを借りずに、単独捜査に乗り出し、という筋立てです。死んだ男と一人の女性をめぐって争っていた喫茶店経営の男性を見つけ、その近くの空き家の浴室の排水口に被害者の髪の毛が残っていて、浴室のポリバケツに、被害者が沈んでいた浴槽の湯と同じものが見つかって・・・、ということで事件の謎が解けたかと思いきや、これはフロックで・・という展開です。

第4話 夏のコソ泥にご用心

最終話は、つみれの同級生のアパートでおきた怪事件です。暑さでヘロヘロになっている「つみれ」は同級生で関西弁が特徴の「諸星千秋」とともに、暑気払いをしようと、これまた同級生の宮元梓のアパートを訪ねた二人は、彼女から、今、部屋に泥棒が出た、と助けを求められます。なんでも、部屋でくつろいでいたところ、突然、押し入れのふすまが開いて、中からマフラーで顔を隠した、白いTシャツで黒いズボンの若い男が飛び出してき、さらに窓を開けて外へ逃げていった、というのです。幸い何も取られなかったのですが、どうやって忍び込んだのか、「千秋」ちゃんと「居酒屋 吾郎」で飲みながら不思議がっていると、近くで呑んでいた大学生が、その時刻頃、梓ちゃんのアパートでそれらしい男を見かけたと打ち明けてきます。しかし、彼が見かけたという男には、ちょうどその犯行時刻頃、アリバイがあることがわかり、その男から、密告した大学生はつけねらわれることになるのですが、実は「梓ちゃん」には、犯行時刻をごまかさないといけない理由があって・・・という展開です。

レビュアーの一言ースカッと「お気楽」な下町ミステリー

四話とも、謎解き自体は「本格風」なつくりになっているのですが、でてくる犯罪そのものは、痴情のもつれの殺人や、隠してあるタンス預金狙いや、覗き行為といったところで複雑怪奇な動機もありません。それと主人公の「岩篠つみれ」ちゃんが、鯉の吹き流しのごとく、腹の中にはなんにもないってなタイプで、あっけらかんとした調子で話が展開していくので、本書は、話の流れに任せて、ふわふわと読んでいくの一番よいような気がします。外に出られなくて、気分が鬱々とするときの気晴らしにオススメのミステリーです。

Bitly

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