新人参加でも、宝生麗子への執事のディスりは続くー東川篤哉「新・謎解きはディナーのあとで」

金融とエレクトロニクスと医薬品と、ミステリ出版物など、およそ関連性の感じ取れない手当たり次第の分野で世界的に事業を展開する「宝生グループ」の総帥のひとり娘である「宝生麗子」が、その素性を隠して勤務する東京都の国立市にある警察署・国立署を舞台に、自信にあふれるトンチンカンな推理を繰り返す日本の誇る自動車会社・風祭モータースの御曹司「風祭警部」に気を使い、天然系の後輩・若宮愛里刑事の不用意な発言を制御しながら、管内でおきる難(?)事件の数々を、執事の”他力”で解決していくユーモア・ミステリ―の新シリーズが『東川篤哉「新・謎解きはディナーのあとで」(小学館)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 風祭警部の帰還
第二話 血文字は密室の中
第三話 墜落死体はどこから
第四話 五つの目覚まし時計
第五話 煙草二本分のアリバイ

となっていて、前シリーズで数々の事件を解決した功績と才能を誤解されて、本庁の刑事部門に栄転した風祭警部が、やはり本質を見破られて再度、国立署に左遷されてくるとともに、今まで一番の下っ端だった宝生麗子お嬢様に、待望の後輩・若宮愛里刑事が配属されるという新メンバー構成で開幕します。

第一話の「風祭警部の帰還」の事件は、市内の商事会社の創業者の息子で、取締役を務める男性が首を吊った状態で発見されます。遺書もなく自殺する理由も見当たらないことから、復帰した風祭警部は、義弟が義兄を殺したのではと推理します。しかし、義弟には、推定の犯行時刻の前、友人を義兄に紹介しようと義兄の部屋を田爪たのですが、その時、部屋の中には誰もいなかったことを友人が証言しています。そして犯行時刻頃には彼にはアリバイがあって・・という筋立てです。
もちろん、風祭警部の推理はマチガイなことは当然なのですが、麗子お嬢様というか執事の影山の推理は・・という展開です。今回は、交通障害になると沿線地域が陸の孤島となってしまう「南武線」が謎解きの鍵となります。

第二話の「血文字は密室の中」では、国分寺市の北部で農業を営んでいた男性が土蔵の中で、脇腹にナイフを突き立てられて死んでいるのが発見されます。そして、指先から数センチ離れた床の上に、血によって書かれた「中田」よ読める文字があって・・という状況です。被害者が死んでいたのを発見した家族によると、土蔵には鍵がかかっていたうえに、無理やり扉を押し開けて入ると、折れた閂が転がっていたとのことで、二重に施錠された密室となっていたようです。
この状況を見た風祭警部は、「内出血の密室」つまりは外で犯人に刺された被害者が土蔵の中に逃げ込み、被害者が施錠したものと推理します。もちろん、風祭警部の推理はミスリードなのですが・・・という展開です。

第三話の「墜落死体はどこから」では、立川市の雑居ビルから男性が墜落して死んでいるのが発見されます。その男性の額には傷があることから事故ではなく、誰かに額を殴打された末に屋上から突き落とされたと推測されます。さらに、被害者が、血のついたナイフを所持していたことからますます、謎めいてくるのですが、死亡現場の向かいにあるマンションに聞き込み行った所、4階の部屋から胸を刺されて死んでいる老人男性が発見されます。この二つの事件の関連性を調べているうちに、さらに二つの現場の隣に立つ白い廃ビルの壁面に血痕のシミがついているのが見つかり、と展開していきます。

第四話の「五つの目覚まし時計」は、JR国立駅近くのシェアハウスでおきるナース殺人事件です。そのシェアハウスには偶然、国立署の署員が住んでいたのですが、彼が夜勤明けに同僚と帰ってきたところ、そのナースが自室でタオルで絞殺されているのが見つかります。彼女は死亡日の前夜9時ごろ、病院から急な呼び出しをうけて出勤したのですが、間違いであることがわかり夜の10時頃に帰宅しているようです。そして、夜勤だった警察官を除くシェアハウスの住人が容疑者となるのですが、犯人のアリバイを崩すのは、被害者の部屋にあった9時頃にタイマーをセットされている目覚し時計です。特に鍵となるのが、ひとつだけ9時二分前にセットされている時計で・・という展開ですね。

第五話目の「煙草二本分のアリバイ」では、国立市のアパートで若い男子学生が何かで殴打された状態で死んでいるのが発見されます。そして、犯行がおきた夜、アパートの近くで煙草を吸っていた男性から、犯行時刻の午後8時の5分前ぐらいに、太った男がアパートのなかに入り、午後8時5分頃に、再びコンビニの袋に何かを入れてアパートを出るところを見たという目撃証言が寄せられます。しかし、この事件の容疑者となる男性3人には、犯行時刻の5分前に離れたアパートにいたり、犯行時刻の5分後に近くのコンビニで買い物をしていたり、宅配の荷物を受け取っていたり、といったアリバイがあります。このアリバイを崩すのは、「太った男」の目撃情報で・・・という展開です。被害者が通学に使っているのがリュックというのもヒントになりますね。

レビュアーから一言

警視庁本庁から、国立署に「凱旋」した風祭警部は、以前と同じように大ハズレの推理を繰り返すのですが、新規参加の若宮愛里刑事が、天然系の発言で、風祭警部の心をえぐるのに対し、麗子お嬢様は風祭警部を上司として気遣った発言が目立ってきています。前作から帰還が経過して、宝生麗子も「大人」になったということでしょうか。

Bitly

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