西荻のアラサー三人娘の「迷」推理ー東川篤哉「かがやき荘西荻探偵局」

吉祥寺と荻窪の間に挟まれて、一見、目立たなそうにみえて実は「住みたい街ランキング」の実力者「西荻窪」にあるシェアハウスに住むアラサー女性の小野寺葵、関礼菜、占部美緒の3人が、このシェアハウスの持ち主の大財閥の総帥・法界院法子の見習い秘書・成瀬啓介と一緒に、暇と体力を使った捜査と迷推理で、この界隈でおきる難(?)事件の解決をしていく、お気楽ミステリ―「かがやき荘」シリーズの第1弾が本書『東川篤哉「かがやき荘西荻探偵局」(新潮文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

case1 かがやきそうな女たちと法界院家殺人事件
case2 洗濯機は深夜に回る
case3 週末だけの秘密のミッション
case4 委員会から来た男

となっていて、まずはシリーズの探偵役となる三人のアラサー女性、

茶色い髪を男の子のように短くした赤いパーカーにデニムの短パンがトレードマークのヤンキー娘・占部美緒、

長い髪を少女っぽく二つ結びにして、一見すると現役女子高校生っぽい姿のコスプレ娘・関礼菜

黒い髪を長く伸ばし、洗いざらしの白シャツと細身のデニムパンツ姿で、眼鏡姿の一見、知的なミステリオタクの小野寺葵

が住まう「西荻窪」のシェアハウス「かがやき荘」に、本編の進行役・成瀬啓介が三人組が溜めている家賃の督促に行くことを命じられるところから開幕します。啓介は、東京の中央線沿線で手広く事業を展開している法界院法子の甥なのですが、父親の起こした会社を父の死後、経営悪化させ、融資元の銀行から追い出され、法子の「見習い秘書」として雇われた、という設定ですね。

case1 かがやきそうな女たちと法界院家殺人事件

第一話「かがやきそうな女たちと法界院家殺人事件」は、その啓介がその督促に向かう当日、法界院家の豪邸の離れで、大画面テレビの下敷きになった状態で、血を流して死んでいる真柴(法界院法子の遠い親戚で、この屋敷の居候)が発見されます。警察は、事件の夜の20時頃まで、大画面テレビに洋画のDVDが映っているのを啓介と第一秘書の月山、家政婦のエリカが目撃していることから、犯行時刻は20時以降と推定します。そしてその時刻には、邸内にいる人物全員にアリバイがあることから、外から侵入した行きずりの強盗の犯行の線で捜査を進めるのですが進展せず・・という筋立てです。

で、このかがやき荘の三人娘に家賃を督促した啓介が、彼女たちが「葵は名探偵だ」と自称していることを、法界院法子に伝えると、彼女は試しに三人娘に事件を推理させてみたら、と金持ち特有の気まぐれを発揮します。
犯行現場の法界院邸の離れを現場検証した葵・美緒・礼菜の三人組は、勝手な推理を展開し始めるのですが、そのうち、テレビに普通ついているストッパーを、大画面テレビの場合は犯人が外したためにテレビが転倒したのでは、と推理した葵は、DVDによるアリバイ・トリックにも気がついて・・・、という展開です。
真犯人の動機などには、かなりの「いい加減感」があるのですが、名探偵アラサー三人娘がここから誕生することとなります。

case2 洗濯機は深夜に回る

第二話の「洗濯機は深夜に回る」は、アラサー探偵三人娘のうちの美緒と礼菜が、酔っ払っての帰り道、放置されていた洗濯機を持ち帰ってきたことから事件が始まります。ところがこの洗濯機を「かがやき荘」の前に置いておいたところ、深夜に洗濯機が運転を始めます。何者かが、電源と給排水パイプを接続して、近くにあった雑巾を放り込んで動かしたらしいのですがその目的は・・というのがまず出だしです。
一方で、法界院財閥の総帥・法界院法子の昔の知り合いの「北沢加奈子」という女性が彼女の親戚の男性殺しと彼女の失踪事件の解決を、法子夫人が再び溜まった家賃と引き換えに三人娘に依頼するのですが、「葵」の推理で、この殺人事件+失踪事件が、洗濯機の深夜運転事件とリンクしてきて・・・、という展開です。

case3 週末だけの秘密のミッション

第三話の「週末だけの秘密のミッション」では、法子夫人の法界院財閥の広告を受託している「松原広告社」の若手のやり手女社長・松原清美からの依頼で、清美の70歳過ぎの父親・松原浩太郎の浮気疑惑を、三人娘が調査することになります。彼女の父親は二度目の結婚である今の奥さんと仲睦まじく暮らしていて、今までは女遊びもギャンブルもやらない真面目一方の人だったのですが、最近、金曜日の夜になると一人で車で外出し、1時間から2時間ほどしてから帰宅するということを繰り返すようになります。
さては、女性と定期的に浮気しているのでは、と妻や娘が疑いをもち、相談をもちかけられた法子夫人の要請で、三人娘が尾行をするのですが、一回目の尾行の時は、浩太郎は車で近くの工事現場まで行って車を停め、しばらく駐車した後で家へ帰っていて、まるで怪しいところがありません。
二回目の尾行の時には、途中で急に車を発信させ、三人娘たちの尾行が撒かれてしまう、という失態。三回目の尾行で、今度こそ尻尾をつかもうと、停車している浩太郎の車にさりげなく近づいた美緒は、背後から忍寄ってくる何者かに突き飛ばされ、車のルーフの角に頭をぶつけて失神してしまうのですが…、という展開。少しだけネタバレすると、浩太郎の外出の陰には、別れた一度目の奥さんとその家族が関係していて・・・というところです。

case4 委員会から来た男

第四話の「委員会から来た男」では、男っ気の全くない「小野寺葵」の前に、「西荻窪向上委員会」の副委員長をしているという「お金持ち」っぽい中年男性が現れます。彼は「西荻窪」のイメージを向上することを目的とするNPOに属しているのですが、そのために新しく出版する「PR誌」のモデルに「葵」になってくれとオファーします。
すっかり舞い上がった「葵」はほいほいと彼についていき、高価な服やアクセサリーを買ってもらった上に、豪華な食事を御馳走されてあちこちを連れまわされます。このまま「玉の輿かー」と思っていた「葵」は最後の店で飲んだアルコールが回ったのか、眠り込んでしまいます。眠り込んだ「葵」は、ある広いお屋敷に連れこまれてしまうのですが、その忠ねん男の目的は・・・といった展開です。普通なら「誘拐暴行事件」が想定されるところですが、お金もなく、そんなに美人でもない「葵」を拉致する目的は・・といったところですね。

レビュアーの一言ーアラサー三人娘のお気楽ミステリー

ヤンキーの「美緒」、JKコスプレの「礼菜」、ミステリマニアの「葵」と、それぞれに特徴のありすぎるアラサー三人娘の、家賃免除を獲ちとるための「ドタバタ調査」は三人の「かけあい漫才」のような喋りもあってか、おキラクーに愉しめるミステリに仕上がっています。殺人事件はおきるのですが、いずれもなぜか「のほほん」とした味わいで、暖かい気候のお昼下がりにおススメのミステリ―です。

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