執事のディスりにも、麗子お嬢様は負けないー東川篤哉「謎解きはディナーのあとで 2」(小学館文庫)

金融とエレクトロニクスと医薬品と、ミステリ出版物など、およそ関連性の感じ取れない手当たり次第の分野で世界的に事業を展開する「宝生グループ」の総帥のひとり娘である「宝生麗子」が、その素性を隠して勤務する東京都の国立市にある警察署・国立署を舞台に、これまた日本の誇る自動車会社・風祭モータースの御曹司「風祭警部」の自信にあふれているがトンチンカンな推理に悩まされつつ、管内でおきる難(?)事件の数々を、”他力”で解決していくユーモア・ミステリ―・シリーズの第2弾が『東川篤哉「謎解きはディナーのあとで 2」(小学館文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 アリバイを所望でございますか
第二話 殺しの際は帽子をお忘れなく
第三話 殺意のパーティーにようこそ
第四話 聖なる夜に密室はいかが
第五話 髪は殺人犯の命でございます
第六話 完全な密室などございません

となっていて、第一話の「アリバイを所望でございますか」では、立川駅南口近くのビルの3Fと4Fの怪談の踊り場で、女性が腹部を刺されて死亡しているという事件。被害者の住んでいるアパートの住人の証言で、被害者が夜7時半ごろ外出する姿が目撃されていて、犯行が行われたのはそれ以後と推測されることに。

このアパートの他の住人への聞き込みで、被害者と交際していて、最近、他の女性に鞍替えしようしている恋人が容疑者として浮上するのですが、彼にはアリバイがあって・・・という展開です。少しネタバレすると、目撃証言の確かさ、というのが焦点なのですが、そこには被害者と目撃者との意外な関係が隠されています。

第二話の「殺しの際は帽子をお忘れなく」は、廃自動車整備工場を改装した住居で、若い女性がバスルームの湯舟の中で、少ない水に浸かったままおぼれ死んでいるのが発見されます。
死亡の原因を探るため、その女性の他の部屋を捜索すると、携帯が見つからない上に、被害者が大量のもっていたという「帽子」が全て無くなっていて・・・という筋立てです。

容疑者として、それぞれからのタレコミもあって、「愛人みたい大家」「スーとーカーみたいな元カレ」「犯人みたいな愛人の大学教授」の三人が浮上するのですが、謎解きの鍵は帽子がなくなっていたこと。帽子が好きな女性であれば、麦わら帽子は必ず持っていたに違いないことと、被害者の溺れていた浴槽の水がとても少なかったことがヒントになります。

第三話の「殺意のパーティーにようこそ」は、麗子の大学時代の友人の父親の還暦パーティーでの事件。そこには麗子の大学時代の友人や後輩、つまりはセレブのお嬢様方が集まっていたわけですが、その祝賀パーティーで、主催者の娘である手代木瑞穂が襲われて怪我をします。

彼女の証言では、パーティで見かけた見ず知らずの、赤いドレスを着た緑色の宝石をつけた女が襲ったということで、会場にいる赤い服で緑の宝石をつけた女性が集められるのですが、全員が、襲われた瑞穂と顔見知りだったり、アリバイがあり、犯人と思える人物はいません。
実は、瑞穂が見たという「赤い宝石」が事件の謎を解くカギになりますね。

第四話の「聖なる夜に密室はいかが」ではクリスマスというのにイブを過ごす相手もなく、おまけに微熱を出してしまった麗子お嬢様が、雪の積もった中、国立署へバス通勤したところ、満員バスからようやくおりた国分寺で事件に遭遇します。それは、路地の向こうにある住宅で若い女性が頭に怪我をして死んでいたのですが、彼女の家につながる道には第一発見者の足跡と、被害者が帰宅時につけたと思われる自転車のタイヤ痕しかない、という密室が形成されていて、というものです。

容疑者には、被害者と同じ喫茶店でバイトしている女性が複数人浮かび上がるのですが、決め手は江ウィンタースポーツ全てが得意という被害者の家から無くなっていた「スケート靴」です。犯人はそれを履いて密室をつくったのですが、靴にはサイズというものがあって・・というのがヒントです。

第五話の「髪は殺人犯の命でございます」では、国立市に住む家電量販店グループの経営者一族の家で、その一族につながる親戚の女性が殺されているのが発見されます。彼女は胸を刺され、長かった髪をすごく短く切られた状態で発見されます。

しかも、その髪は近くの暖炉で燃やされているという状況です。その一族では、グループを率いる父親が水商売の女性と不倫して、家庭内争議を起こした末に、トラックに惹かれた事故が1ヶ月前におきたばかり。この事故では、事故死した父親の子どもたちによる殺人も疑われたのですが、事故のあった時間帯に、娘が父親の不倫相手と喧嘩をしていたことがアリバイになっているようです。

この事故と今回の殺人事件との関係と、髪の毛が燃やされていてことが謎解きの鍵となりますね。ついでに言うと、被害者と、死んだ父親の子どもたちは顔がよく似ている、というところもですね。

第六話目の「完全な密室などございません」は有名な画家である松下慶山画伯が、本宅の横に建てられている別館のアトリエで刺殺されるのが発見されるという事件。

アトリエで梯子の倒れるような大きな音を聞いた本宅にいた美術関係のフリーライターをしている女性と、画伯の遠縁の美大生二人が駆けつけると背中をナイフで刺されている画伯を発見。その時、まだ意識のあった彼は、壁に描かれている「眠り姫」の壁画の「眠り姫」の顔をのあたりを指差して事切れて・・という筋立てです。

アトリエの窓には格子がはまっている上に、物音でかけつけた二人ともアトリエから出てくる犯人は目撃していない、という密室殺人です。麗子の相棒の風祭警部が、部屋のどこかに隠し部屋がないか調べても見つからなかったのですが、ただ一つ、画伯の描いた貴重で高額な壁画が盲点となりますね。

レビュアーから一言

このシリーズの魅力は、執事の「影山」が宝生麗子お嬢様にぶっかける「暴言」の数々なのですが、第一話では

お嬢様、いくらなんでも余談と偏見が刑事失格レベルでございます。

だったり、第三話では

大変、失礼ながら、お嬢様の単純さは、まさに幼稚園レベルかと思われます。

といった感じで、ますます麗子お嬢様の精神を抉る言葉が炸裂します。これに耐えきる麗子お嬢様のかなりの「耐性」ができているようの思えるのですがいかがでしょうか。

謎解きはディナーのあとで 2 (小学館文庫)
お嬢様の単純さは、幼稚園児レベルかと――   国立署に勤めるお嬢様刑事・宝生...

【スポンサードリンク】

コメント

タイトルとURLをコピーしました