元競走馬と女子高生の名推理を楽しもう=東川篤哉「うまたん ウマ探偵ルイスの大穴推理』

安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)のバリエーションの中には、椅子であったり、人形であったり、「人間」ではないものが探偵役を務めるパターンのものがあるのですが、そのうちの動物、今回は「馬」が探偵役を務める日常ミステリが本書『東川篤哉「うまたん ウマ探偵ルイスの大穴推理』(PHP)です。

探偵役を務めるのは、現役時代、最弱といわれながら運にも恵まれ、重賞レースである「函館大賞典」を勝った経歴から、房総半島のはずれにある「牧牧場」で余生を過ごしている「ルイス」という元競争馬。その牧場の一人娘の高校一年生・牧陽子ちゃんが、関西弁を喋るルイスの言葉を聞き分けて、事件の推理をしていく、という筋立てです。

あらすじと注目ポイント

収録は

「馬の耳に殺人」
「馬も歩けば馬券に当たる」
「タテガミはおウマの命」
「大山鳴動して跳ね馬一頭」
「馬も歩けば泥棒に当たる」

の五篇。

第一話の「馬の耳に殺人」は、探偵役となる元競走馬「ルイス」とワトソン役の牧牧場の娘・牧陽子の登場篇です。冒頭では、40分かけて徒歩で高校へ通学する陽子が途中で、近くの乗馬クラブの飼馬を見つけて、それに乗って通学しようと考えるのですが、意に反して行方不明になっている乗馬クラブの従業員が死んでいるところに連れていかれ、という展開です。

この男は何かによって頭を殴打され死んでいたのですが、陽子を現場に連れて行った乗馬クラブの馬の蹄鉄に血液反応があったため、この馬が蹴り殺したのでは、と警察は考えるのですが・・という筋立てです。

ここで陽子に関西弁で話しかけてきた牧牧場の元競走馬ルイスが、陽子がその馬に乗馬した時に鐙の長さがぴったりだったことと、事件の起きた当時、乗馬クラブからジョッキースタイルで馬を走らせる被害者の姿が目撃されていたことから、偽装殺人のからくりを見抜いていきます。

第二話の「馬も歩けば馬券に当たる」では、金に困って、あちこちに掛け持ちのバイトを探しているガソリンスタンドの従業員・藤川の相談に陽子がのるのですが、彼は近くのお金持ちの天童家の当主・七平から「百万円」超の借金をしていて返済期限が迫っている、という悩みを打ち明けます。彼は借金した理由は頑として喋らないため、陽子は直接、七平から借金のことを聞き出すのですが、七平によると借金額は「七千円」だということで、双方の話がかなり食い違っています。

話をきいたルイスは、藤川が居酒屋で競馬の中継を聞いてひどく震えていたという情報や、七平の知り合いの馬主の馬が最近「大穴」を出したということからあることに気づき・・という展開です。

この話は単話としては「美談」でめでたしめでたしで終わるのですが、実は意外な真相が隠れていることが最終話の「馬も歩けば泥棒に当たる」で明らかになります。

このほか、陽子の家の近くにある超ローカル大学「房総畜産大学」の馬術部の女子部員が殺されるのですが、彼女の手に「馬のタテガミ」が付着していたことが謎解きの鍵となる「タテガミはおウマの命」や、旧車愛好家の留守宅から盗まれたフェラーリのエンブレムの置き物の捜索をしているうちに、思ってもみない不倫話を見つけてしまう「大山鳴動して跳ね馬一頭」などが収録されています。

最終話の「馬も歩けば泥棒に当たる」では、陽子とルイスが目撃した泥棒事件が、第二話で登場した藤川くんが隠していた秘密を意図せずに暴露してしまうこととなってしまいます。

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レビュアーの一言

殺人や盗難に伴う傷害事件など、それなりに血なまぐさい事件はおきているのですが、元競走馬ルイスと女子高生・牧陽子ちゃんの、関西弁と東京弁のかけあい漫才のようなやりとりの推理が展開されるせいか、のほほんとした雰囲気が漂うミステリに仕上がっています。

たまには、心休まる物語がいいよね、という気分になりたいときにおススメのミステリです。

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