美人の第二文芸部長の入部勧誘はしつこいー東川篤哉「君に読ませたいミステリがあるんだ」

東京都の国分寺市の真ん中あたりにある、本書によれば都市の中の田舎「恋ケ窪」にある「あまりにも普通な普通科と、身の程知らずな芸能クラス」のある「鯉ケ窪学園高等部」の「第二文芸部」を舞台に繰り広げられる、ほとんど「動き」のない作中話ミステリ―が本書『東川篤哉「君に読ませたいミステリがあるんだ」(実業の日本社)』です。

「君に読ませたいミステリがあるんだ」 構成と注目ポイント

構成は

文芸部長と「音楽室の殺人」
文芸部長と「狙われた送球部員」
文芸部長と「消えた制服女子の謎」
文芸部長と「砲丸投げの恐怖」
文芸部長と「エックス山のアリバイ」

となっていて、物語はこの「鯉ケ窪学園高等部」に入学したばかりの主人公が、「文芸部」と間違えて、廃止された焼却炉の横のプレハブ小屋にある「第二文芸部」の部屋に間違えて入り込み、唯一の部員で部長の「水崎アンナ」に軟禁されて、入部勧誘を執拗に受け始めるところからスタートします。
この「水崎アンナ」という第二文芸部の部長は長い黒髪をなびかせた、

皺ひとつない茶色のブレザーに清潔感のある白いシャツ、胸元には赤いリボン。チェックのミニスカートから伸びる真っ直ぐな両脚。足許は定番の紺色ソックス。そしてピカピカに磨き抜かれた黒のローファー

という典型的「美少女」風キャラでありながら、自ら小説を書き、プロデビューして一攫千金を狙っているというJKで、部室に迷い込んだ「僕」を入部させるために、自分の書いた自らをモデルにした女子高生名探偵「水サアンナ」を主人公にした「鯉ケ窪学園高等部」でおきる事件の謎を解くミステリ―を機会をとらえては読ませていく、という設定です。ちょっと「ご都合主義」の感じがしますが、まあ、東川ミステリーとしてはよくあることでしょう。

一話目で「僕」が読まされる「音楽室の殺人」は作中話のほうの「水咲杏奈」が国語教師・箕輪に借りた本を返そうとすると、本当の持ち主である音楽教師の浦本響子先生のところへ届けてくれ、と頼まれます。アンナが向かいの校舎にある音楽室へいくと、そこには首を絞められて殺されている音楽教師が倒れています。彼女を殺した犯人は・・・という筋立てのミステリ―なのですが、事件が起きる前半部分と謎解きにある後半部分の間で、本編の第二文芸部部長・水崎アンナが物語の感想を聞いて中断してきます。そして、かなりどうでもいいやりとりの後、後半部分の「作中話」が展開されるという仕立てで、ミステリ―でときどきある「読者への挑戦状」形式のやり方ですね。
さらには後半部分の作中話の謎解きが終わったところで、「僕」が犯人の動機がよくわからない、トリックが甘い、とかあれこれと作品にいちゃもんをつけ、といったことが本編では展開されていきます。

この構造は、作中話の、男子の送球(ハンドボールのことですね)部員が殴られて雨の中を大木の下に放置されている話を6月以降の雨が振る中を相合傘で拉致された第二文芸部室で読まされる二話目の『文芸部長と「狙われた送球部員」』や夏休み中の学校のプールサイドで、水泳部の女性部長が謎の制服女子に絞殺される話を読まされる『文芸部長と「消えた制服女子の謎」』、体育祭の最中に、クラスメートや他の部員に、面倒くさがられている陸上部員が、校庭の真ん中で、グラウンドの片隅にある部室の陰から飛んできた「黒い球体」に直撃されて気を失うが、その球体が消えてしまうという話を読まされる四作目の『文芸部長と「砲丸投げの恐怖」』でも同じパターンで繰り返されます。

この一話目から四話目まで、水崎アンナの書く「水咲アンナの活躍するミステリ―」を読まされる「僕」はずっと第二文芸部への入部を断ってくるのですが、最終話になって、この「水咲アンナの活躍するミステリ―」のファンになったのか、水崎アンナ先輩を追いかけて、彼女の最新作である、居酒屋でアルバイトをしている女子学生が刺されて倒れているのを「水咲アンナ」が発見する、時間差ミステリー「エックス山のアリバイ」を読ませてもらうことに。
それを読んだ後、水崎アンナ部長が「僕」を執拗に第二文芸部に勧誘する理由が明らかになるのですが・・・、という展開です。

レビュアーからひと言ー栄養はないが、スキっと爽やか

水崎アンナ部長の、第二文芸部勧誘の謎の理由が明らかになったとはいっても、けして「驚愕の事実」なんてことはありません。まあ、この物語全体が、国家の大陰謀や、学校に潜む秘密なんてものがでてくるわけでもなく、とある高校の部活での男女のわちゃわちゃといったところなのですが、栄養はないけれどなぜかスッキリする炭酸水、みたいな読後感がありますね。

Bitly

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