東京出身の長野県警刑事が警視庁で「甘味調達」と捜査にあたるー若竹七海「御子柴くんの甘みと捜査」

東京の調布市出身なのだが都会の喧騒を嫌い、大学で登山部に入って山にはまり、警察で山岳救助をしたいという夢をかなえるため、「長野県警」に入ったのだが、事故」で膝を痛めて刑事になったのが運の尽き。東京へ長野県警と警視庁との連絡調整をするために、長期派遣することになった「御子柴将」刑事が、東京と長野の板挟みになりながら、事件を解決していくポリス・ミステリ―が本書『若竹七海「御子柴くんの甘みと捜査」(中公文庫)』です。

ちなみに、本シリーズの主人公である御子柴くんは、筆者が20数年前に発表した短編集「プレゼント」にでてくる小林警部補の相棒として登場する若い刑事ですね。「プレゼント」はこのサイトでもレビューしています。

構成と注目ポイント

構成は

「哀愁のくるみ餅事件」
「根こそぎの酒饅頭事件」
「不審なプリン事件」
「忘れじの信州味噌ピッツァ事件」
「謀略のあめせんべい事件」

となっていて、御子柴くんが配属されたのは、警視庁の「捜査共助課」というところ。ここは、全国各地の県警から配属される警察官と警視庁の警察官が配属されていて、東京都を中心に、県境をまたいでおきる広域犯罪の捜査のため、警視庁と県警との間を繋いでいるセクションという設定ですね。ちなみにネットで検索してみると、警視庁の刑事部に実際、「全国指名手配担当・他道府県警察との協力事務」を担当する部署として実在しているようですね。

第一話の「哀愁のくるみ餅事件」では、冬の上州街道沿いの山林で、30代後半から40代後半の男性が、車の中で一酸化炭素中毒で死亡しているのが発見されます。この車は盗難車で被害者が身分を証明するものを何ももっていないため、事故死で処理されそうになるのですが、捜査するうち、被害者の父親がまだ存命なのですが、その父親は被害者を含む兄弟とケンカの末、行方をくらまして都内のぼろアパートに住んでいたことがわかります。御子柴くんが、この事件のことを、長野県警のかつての上司・小林警部補に相談すると、彼は東京で頻発しているぼろアパートの放火事件との関連づけて謎解きを始めて・・という展開です。

第二話の「根こそぎの酒饅頭事件」では、まず、長野市のはずれで、東京の元暴力団員が、全身を18か所刺され、ラップにくるまれ、真空パックされた死体が段ボール箱にいれられて遺棄されているのが発見され、その容疑者として浮上した東京在住の通販会社の社員の捜索に長野県警の捜査員が大挙して上京してきたため、警視庁と長野県警の調整で御子柴君が「へとへと」になっているところから始まります。その事件の犯人が確保された後、御子柴君は、土蔵破りの捜査で上京してきた長野県警の警察官のヘルプにまわるのですが、その犯人がはじめの真空パック殺人と関係がありそうなことに、小林警部補が気づき・・・という展開です。

第三話の「不審なプリン事件」は七年前におきたスーパーマーケット社長を襲撃して、殺人と強盗を行って逃走を続けている男の捜索に御子柴君が関わります。その犯人には、未だ多額の「懸賞金」がかけられているのですが、その犯人の娘が、軽井沢で結婚式をあげるということで、犯人確保を狙う警察と賞金稼ぎたちが大量に集まってきたのですが・・・という展開です。その娘の結婚式は、サクラまで使った盛大なものが開催されるのですが、その理由は・・という展開です。
第四話の「忘れじの信州味噌ピッツァ事件」は調布市で深夜、頭を殴られて、街中を御彷徨っていた男性が発見されます。その男性は殴られたショックで、記憶もなくし、身元を示すようなものを何ももっていないというのが滑り出しです。捜査を進めると、彼は長野の早太郎温泉のペンションの主人と代官山のセレクトショップのウェブデザイナーという二つの顔をもち、しかもそれぞれに妻がいるという二重結婚をしていることが判明します。ところが、その上に、複数の詐欺事件の参謀格として多くの人を騙しているのが判明するのですが、病院から逃亡した末に、都内のマンションで撲殺されているのが発見され・・という展開です。

第五話の「謀略のあめせんべい事件」では、御子柴君が、山岳救助隊の夢を絶たれた怪我のもととなった犯罪者が殺されます。その犯罪者は長野の安曇野殺されて遺棄されているのが発見されるのですが、その容疑者と警視庁の組織犯罪対策室長の原古室長との関係が浮上してきて・・と言う展開です。少しネタバレすると、「大山鳴動」の傾向がないとはいえませんね。

レビュアーから一言

この「御子柴くん」シリーズの魅力の一つは、彼が捜査の調整をおこなうたびに、警視庁と長野県警上司や同僚からお願いされたり、警視庁の刑事部の先輩である「玉森警部」からダイレクトに強要される東京や長野の「銘菓」と「名産」の数々でしょう。
例えば、

カウンターの上にしょうゆ豆もあったので、それも買った。信州名産の、味噌としょうゆのあいのこのようなこの調味料を、卵の黄身と一緒にあるあつのごはんに乗せて、ざくざくっとかきまわして食べるとそれはもう・・・!

の「しょうゆ豆」とか、年に一度<あめ市>が行われる松本市の飯田屋の、板状のパリパリとしたアメで上品な甘さが口に広がる「あめせんべい」とか、特に長野の産品に惹かれますねー。外出規制が続き、現地へ買い物に行けない方は、お取り寄せしてみてはどうでしょう。

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