富士山麓の山荘で過去の因縁が蘇るー若竹七海「八月の降霊会」

若竹七海

世界で一番不幸な探偵「葉村晶」シリーズをはじめ、意表をつくストーリー展開とちょっと怖い結末のミステリーを提供してくれる若竹七海さんによる、人里離れた山荘を舞台にしたミステリーホラーが本書『若竹七海「八月の降霊会」(角川文庫)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一部 富士山麓 水屋家別荘
 出発/歓迎/晩餐/深夜/殺人/発見/銃弾
第二部 南澤秀子の手記
第三部 八月の降霊会
 攻防/降霊
 エピローグ

となっていて、歴史ロマンス小説を書いて人気の女性作家・南澤秀子のところへ、富士山麓にある富豪・水屋征児の所有する山荘で開かれる「降霊会」への招待状が届くところから話のほうはスタートします。

降霊会というのは、霊媒を呼んで、一つのテーブルを取り囲んで、死者の霊を呼んで話しを聞いたり、予言を聞いたりするイベントで、ヨーロッパの19世紀に大流行したものですね。昔のゴシックロマンとかではお決まりの「演出」ではあるのですが、今時としては、ちょっと「古い」道具立てです。ここらに作者の仕掛けが隠されている雰囲気が漂いますな。

この「降霊会」に呼ばれたのはインチキくさい霊媒師をやっている美鶴・いずみ親娘、詐欺で何度が捕まった後、今は占いの館を経営している佐久間夫妻、この降霊会を主催した富豪・水屋征児と知り合いになって事業拡大を狙う食品メーカーの経営者・安達、父親が誘拐犯であったため今まで世間に虐げられてき・逸子た女性といった一見関係のない人物たちばかり。

この山荘では過去に、この降霊会の主催者・水屋の父親の愛人吉永由利亜が行方不明になり、さらにその十数年後に彼女の娘・長谷川ユウが行方不明になったという事件が過去に起きているのと、近くの山中で子供の骨が発見されているということで、怪奇仕立てのストーリー展開の舞台としては十分な出来です。さらに、招待客が到着後、子供の走る物音とか笑い声が聞こえるなど、ホラー感を煽ってきますね。

事件のほうは美鶴を霊媒とした降霊会が行われた夜、佐久間夫妻の妻・保子が部屋で撲殺されるという事件が起きます。この事件の犯人として夫のほうが警察に連れて行かれるのですが、水屋は降霊会を中止しようとはしません。彼は今回の降霊会でなにかを呼び出すためにこの招待者を集めたようなのですが、彼を難詰する作家・南澤を彼が射殺するという事件や、食品メーカーの社長・安達が失踪するという事件がさらに起きて・・・という筋立てです。

さて、この連続事件が起きた理由は何?そして水屋の目的は?といった感じで展開をしていきます。

【レビュアーから一言】

降霊会の主催者・水屋の家族関係がかなり複雑で、殺人事件もそこらに関係した因縁もので、これは次々と連続殺人か事件が起きるのかな、と思わせるのですが、次第にホラーものの雰囲気が強くなっていきます。
読んでいるうちにどんどん想定していなかった誘導されていくのは、作者のよくやる手口なのですが、今回もまんまと連れて行かれましたね。正統派ミステリーとはちょっと違うのでそこはご注意を。

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