御子柴は負傷し長野へ帰るが、警視庁との腐れ縁は続くー若竹七海「御子柴くんと遠距離バディ」

東京の調布市出身なのだが都会の喧騒を嫌い、大学で登山部に入って山にはまり、警察で山岳救助をしたいという夢をかなえるため、「長野県警」に入ったのだが、「事故」で膝を痛めて刑事になったのが運の尽き。東京へ長野県警と警視庁との連絡調整をするために、長期派遣されていた「御子柴将」刑事のその後のポリス・ミステリ―事件が本書『若竹七海「御子柴くんと遠距離バディ」(中公文庫)』です。

収録と注目ポイント

収録は

「御子柴くんの災難」
「杏の里に来た男」
「火の国から来た男」
「御子柴くんと春の訪れ」
「被害者を捜しにきた男」
「遠距離バディ」

となっていて、今巻では、警視庁へ派遣中の「御子柴」くんに不幸な事件がおき、長野県警へ無念の帰還のてん末と帰還後の活躍、そして長野と東京に離れた御子柴くんと彼の相棒・竹花刑事との妙にシンクロしていく事件の数々が描かれます。

第一話「御子柴くんの災難」

まず第一話「御子柴くんの災難」は長野がらみの事件が多発するところから本筋がスタートします。事件のうち奥多摩で遭難した長野出身の男性の配偶者殺人事件であったり、府中の大國魂神社保護された老婦人が長野県の名うてのスリによる盗難事件といったのは、いずれも本所属が長野県警の御子柴が顔を出したことがきっかけで偶然に検挙ができたのですが、連続放火事件や強盗傷害事件が山積みになっています。ところが、この事件多発の府中西署に行くと、署長が署員に馬鹿にされたことが原因で、自宅に引きこもったままだ困っている、と署長秘書の警察官からぼやかれます。そして、その警察官から御子柴が検挙したスリの老女の件で、府中西署にいくと、その警察官が・・・と言った展開で、御子柴くんが思ってもみなかった災難にあい、その年の大晦日と正月をふいにすることになりますね。

第二話 「杏の里に来た男」

第二話の「杏の里に来た男」 では、第一話で大怪我をした「御子柴くん」は、長野県警に帰還し、千曲川署の突然新設された「地域生活安全情報センター」の所長に「抜擢」されています。第一話でおきた事件の余波のようなのですが、その経緯は原書のほうでお確かめを。
この話から事件のほうは、東京の警視庁にいる「竹花刑事」と長野にいる「御子柴センター所長」の二元展開になっていきます。
まずは、長野のほうでキノコの盗難事件がおきます。盗難自体は山で採取したものを練馬ナンバーの車に乗ったやつに盗まれたらしい、というちゃちなものなのですが、そのキノコの中に毒キノコが混じっているかもしれないという、何か揉め事にタネになりそうなものです。
で、このキノコ泥棒っぽい車の持ち主のところへいくと、そこから覚醒剤密輸事件の容疑者につながり、その容疑者を確保して一件落着と思ったら、警察官を人質にしての逃亡、とハチャハチャな展開をしていきます。
おまけに御子柴の絡んだ「毒キノコ事件」は盗難ではなく、別の犯罪の臭いもして・・というてんこ盛りの筋立てです。

第三話 「火の国から来た男」

第三話の「火の国から来た男」でまず御子柴くんが、男子中学生が流したガセネタを真面目に学校へ通報したり、捜査したりしたことで大ごとになったことに激高した母親に糾弾されているところから始まります。まあ、これが、連続女子中学生傷害事件の解決につながるわけですから拾いものなのですが、これが後半部分のデマを流した男子中学生の父親の失踪事件の解決にもつながっていきますね。
一方、東京の竹花のほうは、熊本でおきた詐欺事件の共同捜査をきっかけに、インサイダー取引に絡んだ大汚職事件の捜査に引き込まれていきますね。もっとも、彼が追いかけるのは詐欺事件の犯人のほうなのですが・・・。
長野と東京の二つの事件の接点は、とある会員制の「女装クラブ」なのですが詳細は原書のほうでどうぞ。

第四話「御子柴くんと春の訪れ」

第四話の「御子柴くんと春の訪れ」では、御子柴くんは、千曲川市役所広報課の元ミスコンの美女と組んで、市内巡回広報活動に励んでいます。もともとは市内でレストランのジビエ肉盗難や、別荘地の山小屋の不法侵入などが連続したために、防犯意識を喚起するためのパトロール活動というわけですね、その途中で、放火された家屋から小さな女の子(の像)を救出すのですが、その像が、十数年前に東京の成城で起きた彫刻盗難+身代金要求事件で盗まれたものかそうか調べて欲しい、と警視庁のかつての同僚・竹花刑事から、御子柴くんのところに要請がはいるという筋立てですね。
で、この捜査をしているうちに、第四の盗難未遂+事務所無断侵入事件に出くわします。それによって御子柴くんは連続盗難+不法侵入事件の意外な目的と犯人に気付くのですが・・・という展開です。

第五話「被害者を捜しにきた男」

第五話の「被害者を捜しにきた男」では、市内の廃屋から白骨死体が発見されるところから始まります。その白骨死体、15年ほど前に行方不明になっていた金持ちの悪ガキであることがわかり、その捜査が御子柴くんに持ち込まれるという筋立てです、
東京の竹花のほうは、静岡で心中未遂の老夫婦が港に車で飛び込む前にはねた男性が、人間の血の付いたシャツとナイフをもっていたという事件の捜査に巻き込まれます。このはねられて死亡した男性が長野県の上田市出身ということで、御子柴くんのところへ身元調査がもちこまれるのですが、その男性と彼と美人局をやっていた女性が、長野の白骨死体と中学校の同級生であったことが判明し・・・と長野と東京の事件がリンクしてくるわけですね。

第六話「遠距離バディ」

最終話の「遠距離バディ」は、御子柴くんが、妻殺しの容疑者を、山中で確保するところから始まります。その容疑者の夫は、妻をネクタイで絞殺した後、菅平牧場から根子岳に向かっているところを逮捕したものなのですが、被害者が抵抗してできた傷もなく、凶器のネクタイも夫のものではない、という不審なところの残る事件です。
このネクタイが長野に本社をおき、東京にも店を展開しているイギリス風パブのチェーン店の店長が締めるものであったことから、東京にも詳しい御子柴が担当管理官によって捜査に駆り出されることになります。
一方、そのチェーン店のネクタイを使った殺人未遂事件が東京の世田谷でもおきていて、そちらには御子柴の元の相棒・竹花が駆り出されている、という仕立てです。彼は、そのチェーン店の店長を調べているうちに、川崎市で元店長が殺されているのを発見するのですは、これ以外にも、チェーンの元エリアマネジャーが茨城県の水戸で刺されるという事件もおき、一挙に広域化かつチェーン店をめぐる連続事件になっていくわけですね。どうやらそこには、イギリス風パブ・チェーン内のブラックな社員管理が絡んでいるようで・・という展開です。

レビュアーから一言

美味しそうな長野のお菓子のでてくる、この「御子柴くん」シリーズなのですが、今巻は御子柴くんが長野県警に復帰し、甘味を異常に愛する玉森警部と離れてしまったせいか、少々控えめです。
その中で注目しておきたいのは、御子柴くんが勤務する千曲川署のある千曲川市に本歌どりされている「千曲市」の「杏」シリーズでしょうか。
本巻ででてくるのは、「杏の里に来た男」の杏クッキーや、「遠距離バディ」にでてくる「信州の杏ジャム+塩気の強いクリームチーズ+天然酵母パン」なのですが、興味のある方は通販サイトで探してみてはいかがでしょうか。

御子柴くんと遠距離バディ (中公文庫)
長野県警から警視庁へ出向中の御子柴刑事。すっかり東京のペースにも慣れ、刑事としても中堅どころになり、わりあい平穏な日々を送っていた。だが、その油断がたたったのか、年末押し迫ってから行く先々で事件にぶちあたり、さらには凶刃に倒れてしまう! 相...

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