楚漢戦争は、劉邦の勝利に決するが、その後はどうなる?=高橋のぼる「劉邦ーRYUHO」13~15

五百年以上続いた中国の戦乱を、その冷徹な指導力と秦国の武力によって、始皇帝が統一してからおよそ十年後、万里の長城や亜房宮の建設による重税と国民の強制使役による疲弊、焚書坑儒や滅ぼされた六カ国の遺臣たちに不満によって、秦国が倒れていく中、一介の庶民の出身からスタートし、楚の豪傑・項羽と争って勝利し、秦の後を継いで漢帝国を打ち立てた「劉邦」の活躍を描くシリーズ『高橋のぼる「劉邦ーRYUHO」(ビッグコミックス)』の第13弾から完結となる第15弾まで。

前巻で、関中に項羽を差し置いて入館したことで、項羽の怒りをかって僻地の「漢」の地に左遷されたのですが、項羽や、三秦地域を収める章邯の油断をついて、関中を支配下におき、項羽の腹心の黥布を味方につけたのですが、項羽の猛攻撃を受けて、挙兵以来一緒だった紀信を失ってしまいます。劉邦を攻め滅ぼそうと攻撃の手を緩めない項羽に対し、劉邦の反撃が始まります。

あらすじと注目ポイント

第13巻 劉邦は漢軍のウィークポイント・騎兵隊をなんとかする

第13巻の収録は

其之九十二 腹中之魂
其之九十三 騎兵之力
其之九十四 西方上等
其之九十五 戦士之祠
其之九十六 飛天強襲
其之九十七 斉王韓信
其之九十八 釜茹地獄
其之九十九 射石飲羽

となっていて、冒頭では、項羽に捕らわれの身になっている呂雉のもとに、劉邦と「戚」という女性の間に子供ができた、という情報が入ります。「戚」というのは、暗殺された懐王から送られた美女で、劉邦陣営の女軍師的な役割を果たしていたのですが、彼女と紀信の間に子供ができた、という設定です。

この話を聞いて、嫉妬深い呂雉は頭に血が上った状態になり、これが漢の建国後のある「悲劇」へと結びついていくという設定です。

史実では、この戚婦人が産んだ男子・劉如意は、呂后によって毒殺されてしまうのですが、このシリーズで一連の「人豚」事件がどう描かれるかは、最終巻で明らかになります。

本筋の劉邦と項羽が中国の覇権を争っている「楚漢戦争」では、「騎兵隊」が勝敗を分けるキーとなりつつあって、その意味では、圧倒的に項羽の楚軍有利の情勢です。

この騎馬の兵力差をなんとかしようとあれこれ知恵を絞った結果、ある禁断の手を思い付き・・ということで、西方にいる遊牧民族の協力を仰ぎに、劉邦自らが出向くのですが、金になびかない彼らの説得はかなり難航し・・という展開です。

劉邦の機転で遊牧民族を味方にし、滎陽城に帰還した劉邦だったのですが、ここで城を包囲する項羽の楚軍と戦戈を交えます。この戦いの場面で、両者のポリシーの違いがはっきりとでてくるのですが、ここは原書のほうで。

そして、遊牧民族の騎兵隊の働きで、捕らわれていた父と呂雉を取り戻した劉邦は、いいいよ、項羽との最終決戦へとむかっていくのですが、ここで立ちはだかるのが項羽の強弓で・・という筋立てです。

第14巻 張良は偽装和睦の奸計をしかけて、漢軍へ勝利を呼び込む

第14巻の収録は

其之百   美尻桃尻
其之百一  病躯之願
其之百二  和睦之義
其之百三  知勇結集
其之百四  十面埋伏
其之百五  不倶戴天
其之百六  四面楚歌
其之百七  抜山蓋世

となっていて、前巻の最後で、項羽の強弓によって射貫かれた劉邦は、生死の境を彷徨いながらようやく復帰します。一方、項羽のほうも、糧食を漢軍によって奪われ、兵士たちは飢えに苦しんでいます。両軍ともそれぞれに痛手を負っているわけですが、ここで、張良が提案した、戦を終結させる方法というのが、なんと「和睦」で、という筋立てです。

将兵のほとんどが、この方針には異を唱えるのですが、楚軍の兵士といえどもおなじ中華の民、飢え死にさせるにしのびない、と張良が劉邦を説得し、項羽のほうは、重病(おそらくは癌ですね)で死期の近い虞姫が説得し、両軍は和睦の盟約を結び、鴻溝を境界として、三年間の不戦協定を結ぶことになります。

双方の兵士がひとまず一区切りと気を抜いて、それぞれの本拠地へと引揚始めるのですが、ここで張良が再び提案してきたのが、なんと、不戦協定を結んだばかりのときに、これを一方的に破約して、楚軍を追撃する、という悪魔のような作戦です。これを行えば、歴史に汚名を残すことは確実なのですが、劉邦の判断は・・という展開です。

この汚名を着たことによって、前漢の二百年にわたる中国統治に結びついていきます。ただ、散り際の美しさの栄誉のほうは、項羽のほうが勝ち取ることとなります。

第15巻 項羽、敗れる。そして、それぞれの戦後。 

第15巻の収録は

其之百八  形単影隻
其之百九  明鏡止水
其之百十  落花流水
其之百十一 人豚之刑
其之百十二 張良子房
其之百十三 皇帝劉邦
其之百十四 韓信捕縛
其之百十五 大馬鹿者

となっていて、秦帝国崩壊後、5年間にわたる劉邦と項羽の戦いである「楚漢戦争」は劉邦の勝利のもとに決しようとしています。

史実では、800の手勢を引き連れて、漢軍の包囲網を脱するのですが、追撃する漢軍によって兵を削られ、最後は28騎までとなり、烏江のほとりまできたところで、江東に逃れ再起を期すよう勧める亭長の申し出を断り、ここで漢軍相手に大立ち回りを演じて、最後は討たれるのですが、このシリーズでは、骨折した愛馬「騅」を自らの手で始末したあと、単身、漢の幕内へ忍び込み、劉邦暗殺を企てることになっています。

この場面で、劉邦と項羽の運命を分けたものは何だったのか、劉邦の独白があるのですが、その詳細は原書のほうで。

巻の中盤以降は、項羽は自らの首を刎ねて自害した後の、呂雉と戚とのバトル、張良の潔すぎる身の引き方、韓信のその後、などが描かれていきます。

レビュアーの一言

項羽と劉邦の大バトルは、自分の力のみを信じた項羽が、その人柄によって多くの武将や軍師を集めた劉邦に敗れるというストーリーで、そこはそれなりの爽快感が残る出世譚になっているのですが、このシリーズでは爽やかに描かれている、劉邦や呂雉のその後は、史実的には、今までの功臣を、濡れ衣を着せて次々と粛清したり、宮廷内の実権をめぐって、劉邦の愛姫や皇子が暗殺されていくというとてもブラックな話になっていきます。

そのあたりを知りたい方は、横山光輝先生の名作「史記」あたりがおすすめです。

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