人面瘡探偵は天草の孤島を支配する一族の連続殺人の謎を解く=中山七里「人面島」

五歳の時に、実家の裏山の崖から転落して負った右肩の傷が化膿して膨れ上がってカサブタ化し、そこにできた大小三つの裂け目が変化した人面瘡をもつ土地家屋調査士兼鑑定士の三津木六兵が、勤務先である相続財産の鑑定を業とする「古畑相続鑑定」事務所が引き受ける相続鑑定業務の遂行中にふりかかってくる事件の謎を、人面瘡の「ジン」さんのあやつり人形として謎解きをしていく「人面瘡探偵」シリーズの第二弾が本書『中山七里「人面島」(小学館)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

一 忘れられた島
二 継承者死す
三 女傑死す
四 闇の中の悪意
五 大伽藍の鬼

となっていて、今回の事件の舞台は、長崎県の平戸から北へ30㎞ほど行ったところにある「仁銘島」という人口400程度の離れ小島です。この小島はもともとか隠れキリシタンの聖地とも呼ばれていて、高度成長期の昭和の中ごろまでは漁獲高も高く、それなりに賑わっていたのですが、その後漁獲量も減少し、今では相当寂れた寒村となっています。

三津木は、この島の土地のほとんどを所有している大地主の「鴇川家」の当主がクモ膜下出血で急死したのですが、遺言書などは残されていなかったため、地元・平戸の弁護士が遺産相続協議に駆り出されたのですが、相続財産が島のほとんどの土地と広大な上に、島民のほとんどが鴇川家の所有する土地を借りるか、その土地の上のアパートに暮らしている、という状況で、資産価値がどうなるのか専門家でないと判定できないため、「古畑相続鑑定」に依頼が来、一番スケジュールに余裕のある「三津木」が派遣されてきた、という経緯です。

ついでに付け加えておくと、この「仁銘島」は、上空から見ると「人の横顔」にそっくりなため、「人面島」という異名をもっています。

この鴇川家は昔からこの島の支配階級で絶大な影響力を持っている上に、死んだ当主の先妻の息子・匠太郎と後妻の息子・範次郎の仲が悪く、さらにこの二人のバックには、先妻の父親である隠れキリシタンの頃からの歴史をもつ神社の宮司と後妻の父親である島の漁業組合長という島の権力者がついていて、大権力者であった先代当主の死後は、二つの勢力がぶつかりあう代理戦争の状態を呈しています。

しかも、匠太郎は、自分の妻の妊娠中に弟の妻に手を出し、その女性を自殺に追い込んだというゲスなことを仕出かしているので、遺産相続の件がなくても、抑えとなっていた父親の死後は兄弟同士の血みどろの喧嘩になるのは間違いなし、というところですね。

そして、匠太郎と範次郎が争っている村長選挙を匠太郎優位に進めるため、宮司の発案で、島の神社の宮司の地位をその孫にあたる「匠太郎」へ譲る儀式が急遽行われるのですが、その儀式が終わったところで、匠太郎が神社のシンボルである鏃が刺さって死んでいるのが発見され・・と第一の殺人事件がおきてきます。

さらに殺人事件はこれだけでは終わらず、先代当主の後妻である「深雪」が台風が近づく暴風雨の中、神社の鳥居の下で絞殺されているのが発見され・・という筋立てです。

一方、相続財産の土地の鑑定を頼まれた三津木は、こうした複雑で一触即発の人間関係や、よそ者を警戒する島民の監視の中で、島の全域にわたる「鴇川家」の土地を調べて回るのですが、「人面島」の目にあたり二つの池がつながっているのをつきとめ、池に潜ってみると地下に巨大な「鍾乳洞」が形成されているのを発見します。さらに、この鍾乳洞の出口の一つが神社の床下につながっていることもわかってき、さらには隠れキリシタン由来のあるものも偶然見つけ・・という展開です。単純な「土地鑑定」の話が、「殺人事件」と「お宝」に絡んでくるという展開です。

で、物語の後半部分、鍾乳洞で三津木は犯人に襲われるのですが、そこから人面瘡の「ジン」さんが導き出した犯人は・・と物語が動いていきます。

レビュアーの一言

今巻では隠れキリシタンの財宝伝説がでてくるのですが、隠れキリシタンの財宝といえば、徳川幕府の初期に天草で内乱をおこし処刑された「天草四郎の財宝」が有名ですね。

埋蔵金伝説によると、一揆軍が原城に籠城した時、軍資金の一部を小西行長の遺臣がそれを守っていたのですが、一揆が鎮圧された後、それを「柱岳の麓の三角池」に隠して姿を消した、というものです。

その三角池は場所がわからなくなっていたのですが、1935年に天草市有明町の老岳(老嶽?)で長さ5センチの金メッキの十字架が見つかり、そこには「さんしゃる二 こんたろす五 くさぐさのでうすのたからしづめしづむる」という宝の在処を示すような文字が刻まれていた、というのですが・・。果たして真相はどうなんでしょうか。

財宝は重さ6キロ近い黄金製の十字架、金銀製の燭台20基余、宝石を散りばめた王冠が埋められているらしいのですが。

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