幸は新しい文化「浴衣」を創造するー「あきない世傅 金と銀 10 合流篇」

大坂・天満の呉服屋・五鈴屋の女衆として奉公に上がった、村の寺子屋師匠の娘・幸が、この大店を引き継いだ後、女性実業家として店を立て直した後、女性が経営者になれない大坂のしきたりをかいくぐるため、江戸へ進出し、さらに事業を拡大していくサクセスストーリー「あきない世傅」シリーズの第9弾が『高田郁「あきない世傅 金と銀 10 合流篇」(時代小説文庫)』。

前巻までで、実の妹・結に呉服の染めの型紙を持ち出され、さらには結にライバルとなる呉服店「日本橋音羽屋」を開業された上に、組合から追放された五鈴屋江戸本店。今巻では、転んでも何度でも起き上がる本シリーズの主人公「幸」が、もともとの原点の木綿を扱う太物商にもどり、木綿で江戸中を驚かせる商品開発を奨めていきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 秘すれば花
第二章 初瓜
第三章 嚆矢
第四章 川開き
第五章 菊栄の買い物
第六章 切磋琢磨
第七章 羽と翼と
第八章 雲霓を望む
第九章 機は熟せり
第十章 揃い踏み
第十一章 昇竜
第十二章 あい色の花ひらく

となっていて、今まで地味な普段着扱いされていた木綿を使って、誰も思いつかなかった商品を産み出す試みに、五鈴屋と店にかかわる型彫師、染付師がひとつになって取り組み始めています。その商品というのが湯屋でバスローブとして使われていた「湯帷子」を、外でも着れる「浴衣」として生まれ変わらせようというもの。

NPO法人ゆかた文化協会のHPの「ゆかたの歴史」によると

江戸時代頃から風呂には裸で入るようになりました。浴衣も初めは湯上がりの汗を拭き取るため(現在のバスローブ)に風呂屋の二階などで着ていたものが、次第にそのまま着て外に出られるようになりました。そして下着から外出着へとその用途を変えていきました。
江戸時代では、盆踊りや花見などに揃いの浴衣で出かけることが流行し、華やかな文禄が生まれました。また歌舞伎役者が舞台で着た衣裳を庶民が真似るなどしたことで、浴衣文化が江戸に花開きました。
もう一つ江戸時代に浴衣が広まった要因として「天保の改革」が挙げられます。天保の改革で、町人は絹を着てはならないという掟が出されてからは、木綿の浴衣が益々発達しました。

とのことで、はっきりとした発明者とかは不明のまま、世の中に出現してきたもののようで、本書の描き方にもあってますね。

で、その商品開発の仕方というのが、今まで数々の新商品を突然世に出して世間を驚かしてきた「幸」らしく、2年間という年月を使って、しかも秘密裡にすすめる、というやり方で、ここは妹で商売敵の日本橋音羽屋の結に、マネをされたり、邪魔をされたりしないようにという心配りもあるのですが、ひとたび世に出た時の衝撃の大きさとライバルのやる気を出だしから挫いておくという意図もあるのかもしれません。
今巻の後半で「幸」のいう

五鈴屋が考え出した浴衣も、工夫を知ってしまえば、誰でも思いつきそうに思われる。後の世に「特に驚くべきものではない」とされるほど広まったとしても、今はまだ誰も思いつきもしない。だからこそ、この二年「秘すれば花」を守ってきたのだ。

という言葉には、最先端をいく開拓者の意気地がでています。

ただ、型彫や染付は紀州から五鈴屋を頼ってやってきた梅松や力蔵という優れた職人がいるのでなんとかなるのですが、肝心の図柄のほうが、五鈴屋生え抜きの図案師でもある「腎輔」が悩みこんでいてなかなか出来上がってきません。本巻の読みどころの一つは、彼が悩みこみながら、それを突破して「江戸」を象徴する図柄を思いつくまでの苦労で、思いついた図柄は「ああ、やっぱり」という感じはするものの、それに到達するまでの真面目過ぎる努力が本書の特徴でもありますね。

そして、もうひとつは、「幸」が困り果てるとどこからともなくやってくる「助け舟」。今回は大坂の「五鈴屋」の四代目当主の前妻で、小間物商の実家に帰っていた「菊栄」で、彼女は、その才覚で実家の商売を立て直しながら、今の主人の兄夫婦に追い出されそうになったことで実家に見切りをつけ、江戸へやってきます。
彼女が、「幸」が大勝負をかけるために必要なことを先回りしながら整えていく様は見事ですね。しかも、それとセットで自分の商売の準備を整えていくあたりは、さすが「大坂商人」のお嬢さんです。

本巻では、新商品が出来上がり、販売を始める後半部分にむかって、腎輔の新図案が出来上がっていき、さらに「浴衣」という新文化を広めるための「湯屋」と「大川の花火」を使った画期的なPR戦略が展開されていくので、流れにまかせて楽しんでくださいな。いつもと変わらない、人を元気にするサクセスストーリーが展開されていること間違いなしです。

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レビュアーの一言>商品開発と改良は怠けてはいけない

「幸」や「腎輔」が考案して江戸中の評判をとり、幸の妹「結」が音羽屋に持ち出した小紋染めのデザインは、今巻の中ほどのあたりを読むとすでに流行を過ぎて、商売の下り坂になっているように見えます。日本橋音羽屋を訪ねた菊栄の

十二支の文字散らしは、確かによう出来た柄だすが、売り出しから三年。もう新味はおまへん。「流行り廃り」は世の常だすよってになぁ。ようよう精進せな、商いは頭打ちになりますやろ。否、もう既にそうだすな

という言葉は全てのビジネスパーソンが噛み締めておかないといけないですね。

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