市川哲也「屋上の名探偵」=アイドル名探偵・蜜柑花子、デビュー前の物語

「名探偵の証明」シリーズで、元アイドル探偵として、名探偵の苦悩を一身に背負いながら謎を解いていた蜜柑花子の高校生時代を描く、ビフォー「名探偵の証明」の学園ミステリーの第1弾が本書『市川哲也「屋上の名探偵」(創元推理文庫)』です。

あらすじと注目ポイント>アイドル名探偵・蜜柑花子、デビュー前の物語

構成は

「みずぎロジック」
「人体バニッシュ」
「卒業間際のセンチメンタル」
「ダイイングみたいなメッセージのパズル」

となっていて、「名探偵の証明」シリーズでは、髪は白に近い金色に染めていて、顔の三分の一はありそうな大きな黒縁眼鏡をかけ、缶バッジのついたピンクのスタジアムジャンパーがトレードマーク。気だるげで、しゃべりはぶっきらぼうな「不思議ちゃん」キャラであった蜜柑花子なのですが、本巻の舞台となる地方の高校へ、東京から澄雲高校へ転校してきた彼女は、ぶっきらぼうな口調は変わらないままの「黒縁眼鏡におさげ髪」という大人しめの少女で、変身前の「原石」という感じですね。

そして、このビフォー物語の語り手となるのが、「蜜柑花子の栄光」で再会した設定となっている、中葉悠介という、同じ高校に通う美人の姉が大好きでたまらない「シスコン」男子高生で、彼が学園でおきる事件を、蜜柑花子の推理をもとに「名探偵」を演じて解決をしていく、というストーリーです。

まず、最初の事件「みずぎロジック」は、そんなシスコンの悠介らしく、姉の盗まれた水着を取り返すため、前の学校で「名探偵」と有名だった蜜柑に推理を依頼するところから始まります。最初、推理をすることを嫌がっていた蜜柑だったのですが、「名探偵」役を、悠介が引き受けることを条件にしぶしぶ協力をする、という流れになっていきます。

事件のほうは階段で軽い貧血をおこした1年生を、悠介の姉・詩織里が助けようとして転び、足首を捻ったことから始まります。その日の午後、水泳の授業があったのですが、ねん挫した彼女は体育の授業は見学したのですが、教室に帰ってみると、バッグの中から水着が消えていたというものです。

手がかりとしては、授業の途中に大きめの地震があったのですが、そのせいか教室の後ろにある掃除用のロッカーが倒れ、三年生用の上履きが下敷きになっているのが発見されます。犯人がその上履きに関係しているのは間違いないのですが、その上履きの持ち主にはアリバイがあり・・という筋立てです。

結局のところ、その体育の授業の間にアリバイがないのは、戸津井、辻広、出先という三人の男子生徒なのですが、最初の二人は、養護教諭の峯元先生、保健室で寝ていた千賀千歳がそれぞれ目撃しています。さて、三人のうちだれが犯人なのか・・といった展開なのですが、少しネタバレしておくと、三人のうちだれでもありません。女子生徒の水着を盗むのは、その生徒を好きな男子だろう、という今までの常識的推理は通用しない時代になっていることに気付きます。

二番目の「人体バニッシュ」は、どこの学校にもいる、とても厳しい生徒指導の体育教師がターゲットになります。彼は校内で煙草を吸っている「室」という生徒を見つけ、現場をおさえようとグラウンド内を追いかけます。しかし、校舎を曲がったところで、忽然と姿を消してしまいます。その生徒が姿を消した朝礼台近くにいた「PC部」の生徒や校舎の2階で練習している「演劇部」の生徒に聞くのですが、その生徒の姿は見なかったという証言ばかり。

そして、「室」に喫煙の濡れ衣を着せたということで、その教師の立場は悪くなり、とうとう公衆の面前での謝罪を強いられ、学校を退職することも噂されるようになります。「室」の目的は、インターハイ前に彼の親友がその教師に喫煙の疑いをかけられ出場を辞退したことへの復讐にあるようなのですが、「室」がグラウンドから忽然と姿を消したトリックは?そして、インターハイを欠場したその男子生徒が、冤罪でありながらあえて罪を被った理由は?といった謎解きです。

三番目の「卒業間際のセンチメンタル」は、悠介の姉・詩織里の卒業も近くなり、彼女のクラスがつくった写真をデコった木製の写真フレームがぐちゃぐちゃに壊されているのが発見されます。特に、三年生の夏に登校拒否となった女子生徒・野里さんが映っていた写真は真っ二つに切断されています。

犯行が起きた時には、詩織里のクラスのメンバーしか、フレームの置かれていた教室の近くにはおらず、しかも、その間にトイレで中座した、野里さんの親友・臼谷さん、男子生徒の常名、関森の三人に容疑者が絞られてきます。悠介は、千賀さんに脅されるように頼まれて、蜜柑花子と一緒に、教室の掃除用ロッカーの中に隠れて、詩織里のクラスのメンバーたちによる話し合いの場面を観察して、犯人を推理するのですが・・・という展開です。

四番目の「ダイイングみたいなメッセージのパズル」では、悠介の大好きな姉・詩織里は卒業して、あっさりと東京の大学へ進学し、実家を出ています。久々に詩織里と千賀千歳に再会した悠介の蜜柑は、彼女たちと、千賀の恋人・双紙と一緒に、彼の妹を通っている小学校に迎えにいくこととなります。蜜柑以外のメンバーは母校でもあり懐かしがって校舎の中に入るですが、そこで千賀千里が誰かに突き飛ばされて階段から落ちて怪我をして・・という事件です。

今話で、いままで地味な姿であった蜜柑が、ボブのスタジャンという「名探偵の証明」スタイルへ変身するきっかけがわかるととともに、千賀千歳の秘めていた恋の成就を予測させるシーンが出てきますね。

https://amzn.to/3kD9bXm

レビュアーの一言>「名探偵の悲劇」とは

今巻では、蜜柑が中学校時代に校内の盗難事件の推理で真相をつきとめ、一躍、校内のスターになり、それ以後も謎解きを続けていたのですが、いつの間にかトラブルの元が蜜柑の推理であるように思われ始め、孤立していった「名探偵の悲劇」を、悠介に告白しています。

それが、彼女が、今巻のように、推理は蜜柑がするが、それを公表するのは悠介というスタイルに固執したわけだったのですが、悠介たちと行動を伴にすることで、「名探偵」として復活することを悠介に約束します。

今巻は、「名探偵・蜜柑花子」誕生秘話でもありますね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました