内藤了「CUT 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」=連続ストーカ殺人の狙いは人体の部位収集?

八王子西署の刑事組織犯罪対策課に勤務する、長野県出身で、八幡磯五郎製の七味唐辛子を常用する女性警官・藤堂比奈子が、ベテラン刑事の「ガンさん」こと厚田巌夫、東大法医学部の教授で「死神」と異名をとる石上妙子、鑑識課のオタク鑑識官・三木健、同僚のKY警察官・東海林恭子とともに、都内でおきる奇妙で凄惨な死亡事件の謎に挑んでいく「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズの第二弾が本書『内藤了「CUT 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」(角川ホラー文庫)』です。

前巻で、犯罪を犯した加害者が、被害者が殺されたのと同じ方法で自殺する奇妙な事件に関わり、つきとめた犯人は自らの恋人だったという悲恋に泣いた藤堂比奈子だったのですが、今回は廃屋敷で見つかった、人体の部位を切り取られた複数の死体の謎に挑みます。

あらすじと注目ポイント>連続ストーカ殺人の狙いは人体の部位収集?

構成は

プロローグ
第一章 ストーカー犯罪相談会
第二章 くつろぐ遺体たち
第三章 日本精神・神経医療研究センター
第四章 猟奇犯罪捜査班
第五章 コレクター
第六章 CUT
エピローグ

となっていて、第一巻で、連続暴行殺人犯の犠牲となった同僚・鈴木仁美を助けられなかった後悔と、恋人の臨床心理専門の医師・中島保が連続殺人犯であったショックからきちんと立ち直れていない、藤堂比奈子が、ストーカー犯罪の相談会の警察側メンバーとして、相談に応じているところからスタートします。この相談会に、比奈子の同い歳の背中カフェで働いているシングルマザー・吉田佐和が、金持ちの常連客からショッピングやスーパーで後をつけられたり、いろんなところで「偶然」に出会うことが多い、という相談を受けます。

相談にのるうちに、「深町絹」というおばあさんが八王子西で経営する太鼓焼き=今川焼を売っている店「太鼓屋」の話になるのですが、後で、比奈子もこの店の常連になり、佐和の息子がこの店の常連の小学生であることがわかります。「今川焼」が地方によっていろんな呼び名があることがわかってくるのですが、これが実は謎解きの鍵の一つになるので、覚えておきましょう。

事件のほうは、太鼓屋で知り合った小学生たちと肝試しにでかけた八王子市内にある大正時代の精神科病院の廃病院で、六角形の三階建てのホールや展望台を有する者の、戦争のために未完成のままとなって放置された「幽霊屋敷」でおきます。

その屋敷の中にソファに座らせられ干からびた白骨死体や、診療室のシンクに立てかけれたエプロンを着けた腐乱死体、浴室のバスタブに浸かっていたブロンドのミイラ化した死体や二階の和室の敷かれた布団に寝かされたネグリジェ姿の死体が見つかります。そして極めつけは地下室にあった頸動脈が切られ逆さに吊られた死体で、それぞれの死体は腕や臀部や足や乳房が切除されて持ち出されている、という陰惨な状態です。

被害者から切除された部位は、屋敷の裏庭にあった涸れ井戸から、被害者の衣服とともに発見されるのですが、いずれも肉塊は残っているのですが、「人皮」はすべて剥ぎ取られている状態となっています。さらに、死体に着せられていたドレスやエプロン、ネグリジェはどこかの縫製店でつくられた特注品であることもわかり・・という筋立てです。

そして、衣服に付いていたクリーニングのタグから、太鼓屋の近くで営業しているクリーニング屋で選択されたものがあることがわかり、被害者たちの身元が判明していくのですが、その捜査の過程で、一人のストーカー男性が浮上してきます。そのストーカー男性は、最初に相談をもちかけてきていた、吉田佐和がつきまとわれているという男性と同一人物らしいのですが、そんな中、佐和が何者かに拉致されて・・という展開です。

一見すると、単純なストーカー事件のように見えるのですが、被害者の人体の一部の人皮が持ち去られているというところから、猟奇殺人へと発展していきます。犯人は比奈子も知り合いの人物なのですが、その動機と正体に驚くこと間違いなしですね。

CUT 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 (角川ホラー文庫)
廃墟になっている洋館から見つかった何体ものミイラ化した女性の遺体。それらはすべて体の一部分が欠損していた。猟奇犯罪捜査班の藤奈子らの捜査によって浮かび上がる意外な容疑者。果たして犯人の目的は?

レビュアーの一言>連続殺人犯・中島保はどうなった?

前巻で、他人の脳の操作による連続殺人が発覚した、比奈子の恋人「中島保」はその犯行方法の異質さから起訴できず、国の施設に入院させたことにして、ある研究センターの中で専門研究をつづけるという極秘の措置がされています。

彼との連絡は、死神女史こと、東大法医学部の石上教授を通じてしか行えないのですが、彼に事件の詳細を知らせて、犯人像をプロファイリングしてもらうという「安楽椅子探偵」的な役目が「中島保」には割り振られる設定となっています。

こういうホラー・ミステリーでは、主人公のチャラっとした恋愛事情は、話の怖さの邪魔になることが多いのですが、恋愛ものを混じらせながら、ホラー風味は損なわない、という工夫は作者の妙手ですね。

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