大倉崇裕「琴乃木山荘の不思議事件簿」=山小屋には「謎」がいっぱい

新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、他人と密集することが少なくて、手軽に始めることができるということで、キャンプやハイキングに人気が集まっているのですが、その反面、同じ自然の中を行くアウトドア・スポーツでありながら、敬遠されているのが、山小屋に宿泊する「登山」ではないでしょうか。

そんな「山小屋」を舞台に繰り広げられる軽いタッチの「日常の謎」系山岳ミステリーが本書『大倉崇裕「琴乃木山荘の不思議事件簿」(山と渓谷社)』です。

あらすじと注目ポイント>山小屋には「謎」がいっぱい

構成は

第一話 彷徨う幽霊と消えた登山者
第二話 雪の密室と不思議な遭難者
第三話 駐車場の不思議とアリバイ証明
第四話 三つの指導標とプロポーズ
第五話 石飛匠と七年前の失踪者
第六話 竜頭岳と消えた看板
第七話 棚木絵里と琴乃木山荘

となっていて、舞台となるのは標高2750メートルの竜頭岳の標高2200メートル地点にある、今から60年前につくられ、増改築を経て最大150人が収容できる大型山荘「琴乃木山荘」で、ここに、仕事の合間に山小屋のアルバイトに来ている「棚木絵里」が主人公となります。彼女が、アルバイトの間に遭遇する「山の謎」の数々を、同じ山小屋仲間の「石飛匠」とともに解き明かしていく、というストーリーです。

まず第一話の「彷徨う幽霊と消えた登山者」は冬を間近にしてバイトを一旦退職して下山する絵里が、同僚のバイト仲間・斎藤あゆみから、この山荘に「幽霊」が出るという話を聞かされます。彼女によると、毎日、同じ格好をした男性がザックを背負って山を登ってくるのですが、山小屋にも止まらずテント泊もせず、いつの間にか消えてしまうというものです。そして、その男はいつも林の中に入ったところで消えてしまうということがわかるのですが・・という展開です。なときのヒントは男が担いでいる大きなザックですね。

第二話の「雪の密室と不思議な遭難者」は、琴乃木山荘の「離れ」で熱を出して寝込んでいる男性が発見されます。しかし、離れのドアは外から施錠されていて、周囲には新雪が積もっていて、足跡は一つもないという状況です。
その男は、山小屋のバイト・山城の友人で、二週間前に下山したはずの渡良瀬であることがわかるのですが、彼は一体どうやって鍵のかかった山小屋の離れに入り、二週間もの間、水や食料を調達していたのか。といった謎解きです。

第三話の「駐車場の不思議とアリバイ証明」では、一年前、友人と一緒にこの竜頭岳に登った「佐伯」という男性が体験した奇妙な現象です。彼は友人と一緒に竜頭岳に登山をしたのですが、その時、現在はすでに廃小屋となっている「大楽小屋」の駐車場に車を停めて登ったのですが、次の日下山してみると、駐車場の車の位置が移動していた、というものです。実は、一緒に登山した友人はある殺人事件の容疑者となっていたのですが、この登山がアリバイとなった疑いが晴れたことになっているのですが、このあたりに謎解きのヒントが隠れていそうです。

第四話の「三つの指導標とプロポーズ」は、山登りの大事なアイテムといえる「指導標」が何者かにいたずらされて、琴乃木山荘でプロポーズを考えていたカップルの女性のほうが遭難してしまう話です。そこには、過去の遭難事件での「怨恨」がからんでいるようなのですが、「日常の謎」ミステリーとしては「苦い」謎解きになりますね。

第五話の「石飛匠と七年前の失踪者」では、竜頭岳に登山に来ている4人組の登山仲間で、七年前に福島県にある「嶺雲岳」で行方不明になった青年の話から始まります。彼は、投資話を4人にもちかけ、お金を巻き上げた末に行方をくらましているとのことですが、昔のビデオに写った風貌が、絵里のバイト仲間の「石飛」に似ていて・・という筋立てです。石飛がその姿を4人の前に表すことがきっかけで、7年前の青年の失踪の真相が明らかになっていきます。

第六話の「竜頭岳と消えた看板」は、本書の舞台である「琴乃木山荘」の看板がいつの間にか外されて、竜頭岳のピークに運ばれていた、という謎解きです。看板は大きなもので、運ぶには4人がかりになる大きさと重さなのですが、どうやって外して運んだのか、と、何の目的で、という謎解きです。少しネタバレすると、この時の山荘の宿泊客に弟の遭難を契機に「山」をやめようというクライマーがいるのですが、山仲間はそれをかなり残念がっている、というところですね。

最終話の「棚木絵里と琴乃木山荘」は、絵里の山荘でのアルバイトも終盤に近づき、彼女は、来年もまた山荘でバイトをするか、本業であった雑誌の編集部に復帰するか悩んでいます。というのも、二年前に。彼女が勤めていた編集部の女性編集長が、絵里に、「二月二十一日正午 石垣島 ハバロフスク 富士山」という謎掛けを出して帰宅途中に事故死したということが引っかかっている、という筋立てです。その女性編集長の夫から新しい雑誌社に誘われているのですが、その謎掛けが気になって踏み切れないというわけですね。

バイト仲間の石飛が、この謎掛けが「気象通報」に関連していることに気づいて謎解きを始めるのですが、女性編集長の事故死の真相を暴くことになり・・という展開です。

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レビュアーの一言>山小屋暮らしを知りたい人へのオススメ本

「山登り」は、ハードな「山岳ミステリー」や、山の怪の出る「ホラー・ミステリー」の題材になることは多いのですが、本書のような「日常の謎」を扱うコージー・ミステリーの舞台となることは少ないのですが、「琴乃木山荘」のほんわかとした雰囲気が町中のコージー・ミステリーとは一味違う味わいを見せてくれています。

本書で、「山小屋」暮らしのもっと詳しい様子を知りたくなった方は『やまとけいこ「黒部源流山小屋暮らし」(山と渓谷社)』や『小屋番三六五日(ヤマケイ文庫)』、『鈴木みき「山小屋で会いましょう! 楽しみ広がる「お泊り登山」(講談社)』『吉玉サキ「山小屋ガールの癒やされない日々」(平凡社)』あたりはいかがでしょう。ビフォー・コロナの時代のものですが、山小屋暮らしの楽しさが伝わってきますよ。

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