中山七里「おわかれはモーツァルト」=岬洋介はショパンコンクール同期生の殺人疑惑を晴らす

凄腕の検事正の父親をもち、自らも司法試験でトップで合格し司法修習が終了すれば「法曹」の道へ進むと確実視されていながらも、自分の希望を通してピアニストの道を選んだ名探偵「岬洋介」を主人公にした、音楽ミステリーの第7弾が『中山七里「おわかれはモーツァルト」(講談社)』です。

前巻で司法習生時代の同期生の検事・天生の濡れ衣を果たすため計画されていたコンサートを中止して急遽、日本に帰国していた岬が、かつて奇跡の演奏を行ったポーランドのショパンコンクールでファイナリストとなった盲目のピアニスト・榊場隆平の冤罪を晴らすのが今巻です。

あらすじと注目ポイント

構成は

Ⅰ non tanto ad lib ~あまり自由ではなく~
Ⅱ ancora amarevole ~一層苦しげに~
Ⅲ molto dolente ~非常に痛ましげに~
Ⅳ dorammatico agitate ~劇的に引っ掻き回す~
Ⅴ quieto coda ~静かなる終わり~

となっていて、まずは盲目のピアニスト・榊場隆平が自宅で次の全国コンサートツアーのための練習を重ねているところから始まります。今や世界的なレベルの演奏活動をしている岬と違って、榊場はショパンコンクールのファイナリストながら、活動の場は日本に限定されているようです。これは彼が盲目であるため、生活の支援が必要ということもあるのですが、実母の由布花やマネージャーのTOM山崎、レッスン・トレーナーの潮田という榊場を育て上げてきた周囲のメンバーの「過保護さ」もあるようです。

このあたりは、才能ある若手ピアニストの様子が描かれているのですが、大手週刊誌のインタビュー記事の取材を受け、その取材にやってきたのが、アイドルや有名芸能人のスキャンダルを暴いて悪名の高い「寺下博之」というフリーの記者がやってきたところから事態が暗転していきます。

彼はインタビューの途中から、隆平の眼が見えないのは偽装ではないかという疑問をぶつけてきます。当然、隆平は否定するのですが、寺下は言質をとろうとしてしつこく食い下がるところはマネージャーのTOMが強引に中断するという始末です。

警察関係者の教えてもらったところでは、この寺下という男は、スキャンダルの暴露だけにとどまらず、スキャンダルを捏造して金を出させるという札付きの人物で、過去には彼の捏造記事でアイドル人生を絶たれ、自殺した女性まで出ています。

寺下は隆平たちから金を絞り出すために、コンサートで、隆平の盲目であることを大声で叫んだりといったコンサート妨害もしかけてきて、繊細な隆平はリズムを狂わされてコンサートはボロボロになってしまいます。寺下はこれからも妨害活動を続けると脅してくるため、やむなく、彼と面談することを承知するのですが、その面談日より前に、家の離れにある隆平の練習室の中で殺されているのが発見されて・・という展開です。

自分を脅迫してきた男の死体が、自分の練習室の中で見つかるだけでも疑惑を呼ぶのですが、寺下が着けていた腕時計のガラス面に隆平の指紋がつているのもわかり、隆平は殺人の第一容疑者として警察の取り調べをうけることになります。さらに、殺人の凶器は模造拳銃だったのですが、マネージャーのTOM山崎がミュージシャン当時、バンドメンバーだった女性が模造拳銃の密輸に関係していて、その密輸拳銃の一丁をTOMが隠し持っていたことも明らかになります。

自分が殺人犯として追い詰められていく隆平は、かつてショパンコンクールの開催されたポーランドでおきた過激派の爆弾事件の謎を解いて自分にかけられた濡れ衣を晴らしてくれたコンクール出場者・岬洋介のことを思い出し、彼に今回の事件の様子をメールし、助けを求めます。

そして、隆平が警察に連行されそうになる場面で、旧友の検事・天生の弁護で急遽、帰国していた岬洋介が隆平の前に現れます。

腕時計についた指紋という圧倒的な証拠や、殺された寺下を恨んでいて殺してしまいたい、という人物は多いという真犯人を探し出すには圧倒的に不利な状況。さらに、1週間後に迫った全国コンサートまでで謎解きできず、コンサート中止となれば莫大な賠償金と汚名を隆平がうけてしまうという極度に短い時間的制約の中で、名探偵ピアニスト・岬洋介が見せる鮮やかな推理は・・という展開です。

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レビュアーの一言

今回の事件は、司法修習の同期生で友人の天生検事は嵌められた事件の謎を解いた後、岬がコンサートに復帰するまでのわずかな間の事件解決という制約があったせいでしょうか、いつもは二重三重にしかけられている作者の見せるドンデン返しも少しあっさりめの印象を受けます。
ただ、その分、「えっ、この人が犯人・・」という意外性はありますのでお楽しみに。

ちょっと気になるのはタイトルの「おわかれは・・」で、これから友人の冤罪を晴らすためにコンサートツアーをキャンセルした賠償金を返すために馬車馬のように演奏活動を続けないといけない境遇になった岬洋介が、これから事件推理からの引退はないんでしょうね、というところです。

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