二人の高齢名探偵は、今度は東京で大暴れー中山七里「銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2」

中山七里ミステリーで年齢をものともせず悪党たちに立ち向かう高齢者の代表が、女性で20人目の裁判官として活躍した「静おばあちゃん」こと、「高遠寺静」と、名古屋の経済界の大立者で、不動産屋兼デベロッパー会社の経営者である「要介護探偵」こと「香月玄太郎」なのですが、この最強に近い二人がコンビを組んで、日常に隠された謎や事件を解決していくシリーズの第2弾が本書『中山七里「銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2」(文芸春秋)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 もの言えぬ証人
第二話 像は忘れない
第三話 鉄の柩
第四話 葬儀を終えて
第五話 復讐の女神

となっていて、名古屋の法科大学で学生を教えていたところに、司法修習所から教官に招聘され、久々に東京に帰るとともに、「野蛮人」の代表格である「玄太郎」じいさんと離れることができたと喜んでいた「静おばあちゃん」だったのですが、就職前の健康診断で訪れた病院で、大腸がんの検査で上京していた「玄太郎」じいさんと再会し、今度は東京へ舞台をかえて、二人の活躍が始まります。

「第一話 もの言えぬ証人」の読みどころ

第一話の「もの言えぬ証人」は、二人が検査を受けにきている病院で、大腸がんの権威とされている楠本医師に、医療ミスの疑いがかかるという事件です。この楠本医師は、玄太郎じいさんが、検査と治療を頼む予定にしていた医師で、その行きがかりから、二人が捜査に乗り出すこととなります。
事件のほうは、小さな町工場を営んでいた老人男性が、点滴バックの取り違えで死亡した、というもので、楠本医師が点滴バックをすり替えて点滴してしまったのでは、という疑いがかかっています。
死亡した男性の営んでいた町工場は経営難のためにすでに畳んでいるのですが、自宅もまだ借金の抵当に入っている上に、工場閉鎖後は家族と揉めることも多くなったらしく、別居している印刷会社勤務の孫娘との関係は良好だったようですが、同居している息子夫婦との折り合いはよくありません。被害者の死因が点滴によるものが明らかなので、担当の久留米刑事はICUの監視カメラを見れば点滴バッグすり替えの映像が残っているはず、と自信満々だったのですが、再生してみると、誰も点滴をすり替えた様子はありません。困り果てた久留米刑事の前で二人が指摘した真犯人は・・・という筋立てです。死亡した被害者が実は息子夫婦や孫娘のことを嫌っておらず、彼らの暮らしを護るために安楽死を望んでいた、というあたりが謎解きのヒントです。

「第二話 像は忘れない」の読みどころ

第二話の「像は忘れない」は、精密検査の結果、大腸がんがみつかり摘出手術を受けたために、東京の病院での入院治療が長引くことになった、「玄太郎じいさん」のもとに、東京の建築の業界団体のお偉方が助けを求めてきます。内容は、その頃、マンションの耐震の構造計算の不正が「カイザ建設」の建設したマンションで明らかになっていたのですが、その建築士・鳴川は他の会社のマンションの設計も手掛けていて、仮にほかのマンションも同様に偽装が行われていたとすると業界の浮沈に関わる大事件となります。当事者の一方のカイザ建設の介座社長は、偽装には一切関わっていないと国会で証言するのですが、この会社の今までの所業から信用するものは多くありません。そんな中、真相を知っている鳴川が、歩道橋から落ちて転落死しているのが発見されて・・・という筋立てです。建築士の転落事件の謎解きは、第2回目の証人喚問で、反省の意を表すためか、丸坊主になって証言台に立った介座社長の本当の狙いにあるのですが、これとあわせて、鳴川建築士が構造計算偽装を行った理由も、これとセットで明らかになっていきます。

「第三話 鉄の柩」の読みどころ

第三話の「鉄の柩」は高齢者の運転事故に関する事件です。出だしは、70歳ごろの元警察官の男性が車を運転中、目的地近くで暴走するのですが、近くを集団で散歩していた保育園児を避けてコンビニに突入した事故が起きます。この事故を興した男性は、第二話で事件を担当していた砺波という刑事の先輩で、彼が事故の真相究明を静おばあちゃんと玄太郎じいさんに依頼してくる、という設定です。
この男性の息子はオレオレ詐欺の「受け子」をした罪で服役しているのですが、この息子と面談し、さらに事故現場を訪れた静おばあちゃんと玄太郎じいさんは、園児が散歩していたところにある痩身美容の店が実はオレオレ詐欺の元締めであることに気づきます。事故を起こした男性が退職金を全額どこかの団体に寄付していたことと、彼の住んでいた部屋が妙に片付いていたことから、二人はこの事故の真相に気づくのですが・・・という展開です。

「第四話 葬儀を終えて」の読みどころ

第四話と第五話は、静おばあちゃんが現役時代に主審・陪審としてともに死刑判決を下した裁判官仲間に起きる事件です。その事件は三人を殺害した女性へ下した判決なのですが、結審後、被告の子供が「お母さんっ」と悲痛な声を上げた裁判でもあります。まず第四話目はその裁判の右陪審を務めた多嶋判事におきた事件です。彼は退官後、息子夫婦と同居していたのですが、認知症の傾向が出、万引癖が頻発したために別居先で孤独死しているのが発見されます。死因は熱中症のようで、エアコンが部屋のブレーカーが落ちたために止まり、暑さのために死亡したという様子なのですが、孫娘の発言から死因に疑念を抱いた静おばあちゃんが、検死をするよう、監察医の判断を覆します。このへんで検死判断をする監察医務院の役人との少バトルがあって、静おばあちゃんが撃退するのですが、このあたりはちょっと痛快です。
そして、調査をしていると、この親子は介護サービス会社のアドバイザーの指示に従って、父子で遠慮なく話し合ったあたりから人間関係が破綻していて、さらに、その検死結果によると・・・といいうことで、事故死にみせかけた事件の真相が明らかになります。

「第五話 復讐の女神」の読みどころ

第五話は、死刑判決を下した裁判で左陪審を務めた牧瀬判事が何者かに襲われて失血死する事件です。彼は、裁判所からの帰宅途中にある公園内で腹部を刃物で刺されて殺されているのが発見され、静おばあちゃんがこの犯人探しに取り組むこととなるのですが、そこには、牧瀬判事に思いを寄せる検察事務官の女性の熱烈アプローチが絡んでいて・・・という展開です。この事件の影に、犯人に嘘の情報を与えて犯意を煽り立てた女性の存在が浮かび上がってくるのですが、物語の前半ではその正体は明らかにならないままですね。
そして後半部分に至って、今度は静おばあちゃんのもとへ、「裁かれる気分はどうだ」という脅迫の電話がかかってきます。どうやら、多嶋判事と牧瀬判事の死を企んだ何者かがいるようですが、その正体は・・・という展開です。ここでは、事件の解決に、玄太郎じいさんの乱暴なやり方がピッタリとマッチすることとなりますね。

レビュアーから一言

今巻では、静おばあちゃんの司法修習所の教え子として「岬洋介」が登場したり、第五話では、静おばあちゃんの娘夫婦が飲酒運転の車にはねられて死亡し、孫娘の「円」と同居を始めたり、エピローグのところでは、治療が終わって名古屋に変える玄太郎じいさんたちを見送った後、これが「今生の別れ」のような気分に襲われたり、といった描写がありますので、「さよならドビュッシー」の前の時期で、「もういちどベートヴェン」の頃と考えればいいかと思います。名古屋に帰ってしばらくしてから玄太郎じいさんは、孫娘とともに火事に遭うこととなりますし、静おばあちゃんのほうは、これから4年後、孫娘の「円」が高校卒業のときに肺がんでなくなることとなっていますので、この静おばあちゃんと要介護探偵シリーズもここで打ち止め、ということなのかもしれません。

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