天才浮世絵師「北斎」の娘「阿栄」がよい働きをいたします — 山本巧次「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ」(宝島社文庫)

シリーズも4作目となると、現代の東京での分析ラボの連中とか、江戸時代での、なかなか最後の関係まで行かない伝三郎を始めとする南町奉行所の面々とか、登場人物も設定も落ち着いてくる反面、マンネリ感が出てくるのだが、今回は、サブキャストに工夫して、それを防いでいる。
構成は
第1章 青山の贋絵
第2章 六間堀の絵師
第3章 神田の廃物問屋
第4章 本所のクリスマス
となっていて、大筋のところは、新美術館の目玉商品である北斎の肉筆画の真贋を鑑定する話なのだが、すでにその作品が、新美術舘の目玉として宣伝されているので、ここで「贋物」となると大騒ぎに、といった事情を抱えての真贋認定である。
真贋騒動の発端は、郷土史家から古文書が出て、その文書には、「鶴仙堂永吉」という当時の絵双紙屋の名で「その絵は、貞芳という絵師が自分の描いたものを北斎の贋の落款を入れてすり替えたものを自分が、贋物と気づかず中野屋という大店に売ってしまった。今回、本物の絵を八方手をつくして探し出したので、あなたに本物を売ります」と書いてある。新美術館の所蔵するのは、その「中野屋」所蔵のものだったからさあ大変、という始まり。
もちろん、「おゆう」こと北村優佳に絵の真贋が鑑定できるはずがないから、「江戸」へのタイムスリップと江戸での人脈をフル活用してのお仕事である。
ただ、ここで「真贋騒動」とは違った方向にいくのは、絵の作者である北斎当人が中野屋所蔵の絵は自分の描いた本物を証言し、真贋騒動は結論が出るのだが、それを、現代にいる依頼者にどう説明・信用させるか、が新たな難題になる。
そこで、「おゆう」は、贋物だ、という文書を書いた「鶴仙堂」に接触するが、黒幕に、唐物屋の「梅屋」とか「西海屋」といった、長崎由来の品を扱う商人の大物も現れてくる。彼女が操作しているうちに、「鶴仙屋」や偽絵を描いたらしい貞芳の娘絵師も殺され・・、といったのが大筋の展開。
今回は、江戸の「大物」(オランダのカピタン)はでてくるものの、あくまで原因をつくった人物としての登場で、本作の重要な狂言回しは、途中、「おゆう」に殺人の疑いがかかったり、伝三郎たちの「おゆう」への不信感の払拭するのにいい働きをする、北斎の娘「阿栄」であることは間違いない。
しかも、彼女自身が絵師であるので、当時の浮世絵をめぐる世界を垣間見ることができて、珍しく「江戸趣味」を感じることが出来た。
さて、巻きを進めるにつれ、「おゆう」と「伝三郎」の関係はどこまで進展するのか、という別の楽しみもでてきた。現代の技術を使って「江戸」の事件を解決する、変わり種の「捕物帳」をお楽しみあれ。

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