高田崇史「采女の怨霊 小余綾俊輔の不在講義」=橙子は、采女祭の陰に隠された古代日本の闇を暴く

東京の大手出版社のフリー編集者をしながら、日本伝統芸能の評論家を目指して活動している加藤橙子が、日枝山王大学で民俗学の教官をしている小余綾俊輔の協力と示唆をうけながら、日本の歴史の埋もれてしまった真相を明らかにしていく歴史ミステリー「小余綾俊輔」シリーズの第2弾が『高田崇史「采女の怨霊 小余綾俊輔の不在講義」(新潮社)』です。

前巻では、清盛系の平氏が滅亡し、義朝系の源頼朝が幕府を開く契機となった「源平の戦」の陰に、北条氏を中心とする関東の平氏たちの陰謀や、池禅尼の頼朝助命嘆願に藤原氏の企みがあったことを暴いたのですが、今回は「春日大社」の祭から、日本古代史の謎を暴いていきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
九月十一日(木)仏滅 望月
九月十二日(金)大安 十六夜月
九月十三日(土)赤口 立待月
九月十四日(日)先勝 居待月
九月十五日(月)友引 臥待月
エピローグ

となっていて、今回は橙子の担当している作家・三郷の新作の打ち合わせで京都へやってきたついでに、中秋の名月の頃に開催される奈良の春日大社の「采女祭」を見物するところから始まるのですが、橙子はこの祭りに妙な「違和感」を感じて、というスタートです。

本来、このシリーズは、探偵役である「小余綾俊輔」の示唆に従って、橙子たちが日本のあちこちにフィールドワークにでかけて、それを小余綾が再構成して「日本史の秘史」を暴き出すという流れなのですが、今回は、小余綾が所要で連絡がつかず、橙子が独自に突出行動を始めて、5日間の謎解きのフィールドワークをしていくというストーリーです。

彼女が訪れた「采女神社」というのは奈良市観光協会のサイトによると

猿沢池のほとりにある、春日大社の末社。『大和物語』によると、奈良時代に天皇の寵愛が薄れたことを嘆き、猿沢池に身を投じた采女(うねめ。身の回りの世話をする女官)の霊を慰めるために創建されました。

ということなのですが、鳥居を背にした後ろ向きの神社です。橙子は、「小余綾俊輔」の「春日大社は、本当に藤原氏を祀るためだけの神社なんだろうか?」という問いかけに影響されて、この「采女」の正体や、春日大社のついて調べていくのですが・・・という流れですね。

この後、彼女は「源平の怨霊」でタッグを組んだ「堀越誠也」と一緒に調査を進めていくのですが、「采女」つながりで大海人皇子(天武天皇)の母親が「伊賀采女」という地方豪族の娘で、当時としては身分の高くない女性であったことから、壬申の乱で敗者となった「大友皇子」へと話が飛んでいき、謎解きは古代随一の争乱といえる「壬申の乱」へとつながっていきます。

そして、二人の調査は、大友皇子が本当は実質的には「帝」になっていて、大海人皇子はクーデターを起こしたのではないか、という疑惑に始まって、弟でありながら、当時の記録に従うと兄の天智天皇より年上になってしまう天武天皇の正体、そして、天智天皇の「死」の真相を明らかにしていき・・と古代史に隠された秘話を明らかにしていきます。

ついでにいうと、628年に即位した舒明天皇か壬申の乱の間には、歴史から抹殺された天皇が4人いて、それは聖徳太子の長子・山背大兄皇子、舒明天皇の長子・古人大兄皇子、斉明天皇の娘・間人皇女、天智天皇の長子・大友皇子だという説も紹介されていて、彼らを闇に隠してしまった対抗勢力は・・ってなことを考えても面白いかもしれません。

Bitly

レビュアーの一言

本巻で橙子が訪れる「采女祭」は、奈良県の観光協会のHPによると

午後5時から花扇奉納行列があり、秋の七草で美しく飾られた2m余りの花扇と数十人の稚児、御所車に乗った十二単姿の花扇使や姉妹都市 福島県郡山市から参加いただいているミスうねめ、ミス奈良などが天平衣装をまとって市内を練り歩きます。午後6時から春日大社神官による厳かな神事の後、花扇が奉納されます。 午後7時 南都楽所の奏する雅楽が流れるなか、花扇をはじめ、花扇使・ミスうねめ・ミス奈良を乗せた2隻の管絃船(龍頭・鷁首)が、猿沢池に浮かぶ流し灯籠の間をぬ って池をめぐり、最後には花扇を池中に投じる雅やかな行事です 。

といった華やかなお祭りのようですが、新型コロナウィルスの影響で規模縮小されたり、中止になっているようです。橙子が見たような優雅なイベントがまた見られるようになるとよいですね。

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