ピザ屋の冴えない宅配店員のコロナ下での華麗な推理=猫森夏希「ピザ宅配探偵の事件簿」

新型コロナウィルスが猛威をふるい、都市住民を中心に「外出自粛」と「引きこもり生活」が強いられていた頃、ピザ店の「ピッツァコスタ」の宅配ピザの配達先で起きる事件の数々を、骸骨のような細い体と幽霊のように薄い存在感の、およそ探偵らしからぬ風貌のピザ配達店員が、華麗に解き明かしていく、コージー・ミステリーが本書『猫森夏希「ピザ宅配探偵の事件簿」(宝島社)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

第1話 車輪の上で
第2話 十一月のサンタクロース
第3話 ノーマスク殺人事件
第4話 五月の太陽とまがいもの

の四話。

第1話の「車輪の上で」は、本作の探偵役の勤務するピザ店「ピッツァコスタ」の店内で、由良、岸本が、二日前、同じアルバイト仲間である「谷田部愛菜」の財布から三千円が抜き取られていたことを話しているところからはじまります。一応断っておくと、この三人は「探偵」ではなくて、由良が宅配のチューター役を務めている新人店員「橋口昇」という30歳過ぎの男性が探偵役となりますので覚えておきましょう。

で、時期的にはちょうど新型コロナの影響で、外出禁止が解除されたものの、自粛が続いている時でリモートワークやオンライン授業が大流行りになって、それと併せて、テイクアウトや宅配サービスがうなぎのぼりになっていた頃です。

彼らが勤めるピザ店もその例外でなく、たくさんの注文がはいてきて由良たち宅配バイトは大忙しといった状況なのですが、バイト仲間の岸本が生来の放浪癖が出てあてもなく旅に出る、といってピザ店を辞めてしまったため、由良や橋口に宅配業務が一挙に押し寄せてきている、という状況です。

そんな折、線路わきにある大きな住宅に住む「下田」という人物の家からピザとワインの注文が入り橋口が配達を担当するのですが、同じころ、バイトを辞める岸本のところへ餞別のピザを届けに来ていた由良のところへ、橋口から注文のワインを間違って、由良の配達バッグにいれてしまったと電話がかかります。由良は岸本にピザを渡した後、下田邸へ向かうのですが、そこで見たのはガラス戸が破られ、腹に包丁が突き立てられて死んでいる下田の死体で・・という筋立てです。

下田邸の防犯カメラに映っていたのは由良と橋口だけで、彼らが容疑者として疑われるのですが、警察へ出頭した二人は、岸本が指名手配中の子強盗殺人犯で、自宅kら少し離れた畑のビニールハウスの脇に右足を切断された状態で死んでいたのが発見された、と伝えられます。そして下田を殺した桃岸本らしく、さらに下田が秘蔵していた「金塊」がなくなっているということも。

岸本は由良と会った後、どうやって先回りして犯行を行ったのか、そして金塊の行方は・・といった展開です。

冒頭に書いた「骸骨のような細い体と幽霊のように薄い存在感」のほか、黒いマスク、黒いTシャツ、黒いジーンズという、探偵役やピザ店員というより、不審者のような風貌の「橋口」が見事な推理を展開していきます。

第2話の「十一月のサンタクロース」はリモート勤務をしている会社員におきた事件です。しなりを制作会社の社員・恵は新型コロナの中、最近はフリーランスのライター「梅原麗奈」とオンライン会議室で打ち合わせをしながら仕事を進める毎日なのですが、その麗奈に同棲相手ができたせいか、シナリオの出来が落ち、締め切りを守らないことが多くなっているのを心配しています。それとなく注意するのですが、同棲相手に夢中になっている麗奈には馬耳東風で・・という筋立てです。

ところが、その同棲相手というのがかなりの悪党で、今まで多くの女性に貢がせては捨てて、という暮らしを続けている男・理紀人で、もちろん彼が自称する「IT会社の起業準備中」というのも大嘘。今回は大きな屋敷とアパートを含めた財産をもつ「梅原家」に入り込んで、財産の名義人である麗奈の母親が死んだあと、遺産をかすめとろうという魂胆なのですが、麗奈も彼女の母親もそんなことにはまったく気づいていません。

理紀人は女性からだまし取った金が底につきそうになると、今まで疎遠にしていた元カノに電話をかけ、依りをもどすようなそぶりで金を巻き上げているのですが、最近、彼と会った後、変死してしまう女性がふえています。女性の中には警察に訴えて、指名手配にもなっているのですが、この頃の外出自粛のおかげで警察の目をかいくぐっているという状況です。

しかし、麗奈の仕事相手の「恵」がオンラインの画面で見かけた彼の姿が街角の交番で指名手配の写真に酷似していることから警察に通報したことから、麗奈の身に危険が迫り・・という展開なのですが、最後にわかる真犯人にはきっと驚くと思いますよ。

このほか五階建てマンションの最上階の廊下でおきた殺人事件の意外な犯人と消えたマスクの行方(「ノーマスク殺人事件」)やピザ店「ピッツァコスタ」の入っている雑居ビルの2Fにある「革工房」で起きた職人殺人事件(「五月の太陽とまがいもの」)が収録されているのですが、最後のほうで今巻の探偵役「橋口」の意外な正体が明らかになります。

レビュアーの一言

本巻のようなトリックもののミステリーは、不特定多数の出没を押さえ、いかに犯行に関係してくる登場人物をしぼるか、というのが一つの課題になっていて、たとえば動く列車内であるとか、航海中の船、雪にふりこめられた山荘といったように様々な工夫がいままで考案されているのですが、今回は「新型コロナウィルスの外出自粛」という滅多にない現象を使って、事件現場を出歩いている人も、目撃する人もほとんどいない、「街中」を半ば密室にしてしまったというのが斬新的です。

物語の最後で、探偵役の「橋口」は「寿司屋の出前持ち」に転身しているようなので、続編があるとすれば、今度は「寿司屋探偵の事件簿」となるのでしょうかね。

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