死刑囚探偵は自ら封印した過去の犯罪を思い出す=佐藤青南「ストラングラー 死刑囚の告白」

14年前にデリヘル嬢4人の快楽殺人を犯して死刑判決を受けている死刑囚から、自分の罪が冤罪であることを再調査するかわりに、警察が頭を抱えている迷宮入りしそうな事件の犯人を教えると告げられた、被害者の元恋人だった刑事が、そのアドバイスをもとに事件を解決していく「安楽椅子探偵」ミステリー・シリーズの第2弾が本書『佐藤青南「ストラングラー 死刑囚の告白」(ハルキ文庫)』です。

前巻で、死刑囚の明石と、彼の支援者である望月たちと知り合った簑島刑事だったのですが、明石が刑務所のなかで公開情報などに基づいて推理する犯人像に基づいて犯人逮捕に成功するうちに、彼の犯したとされる事件を調べるうちに彼の無実を信じはじめるのですが、その先に意外な罠が待ち受けているのが本巻です。

あらすじと注目ポイント

前巻で、先輩刑事「伊武」が何者かに射殺される場面に遭遇した簑島ですが、彼の今わの際の「。。つ、だ・・・や、つだ・・」という言葉から、彼を撃ったのは嘉永冊関係者だと」確信したため、新しく相棒となった「矢吹加奈子」や、伊武殺しの捜査をしている同僚刑事たちにも心を開けないまま、明石の助言をもとに単独捜査がついづいていきます

まず第一の事件は、小学校三年生の女の子の行方不明事件です。母親の証言によると、午後9時頃、宿題をやったやらないで親子げんかになり、女の子がアパートをとびだしていったきり帰ってこない、というもので、行方不明になってからすでに2日間経過しています。

娘が家出した、と主張する母親なのですが、その母親は娘を着せ替え人形のように扱ってSNSにアップしている状況から、死刑囚安楽椅子探偵「明石」が、母親に事件の謎を解く鍵があるとアドバイスします。

それに従って聞き込みを続けると、その女の子が日常的に、母親から家から閉め出される虐待を受けていたことが明らかになり、行方不明になった当日も・・という展開です。

少しネタバレしていくと、母親は犯人ではなく、女の子を誘拐したのは別の人物なのですが、後を引く印象を残す事件でず。ちなみに、この話で、簑島の元恋人でデリヘル嬢快楽殺人の被害者となった「久保真生子」の心の闇が明らかになります。

第二の事件の冒頭では、前巻で殉職した「伊武」の幻が簑島の前に現れ始めます。「幽霊」というものではなく、簑島の心が作り出した幻覚なのですが、彼の本音を皮肉交じりに暴いたり、明石の獄中妻の「仁美」に対する簑島の恋情を辛かったり、と彼の心を錯乱させる役割をこれから演じてくることとなります。

事件のほうは、獄中の明石のもとへ、彼の信奉者らしい「沖波メイ」と名乗る人物から手紙が届きます。その内容は、「オリジナル・ストラングラー」という異名をとる明石に憧れ、彼を超えるため、4人以上の人間「9人」を無差別に殺す殺人事件を起こすと予告してきます。

「明石」は彼が送ってきた複数の手紙の住所などから、彼が板橋区近辺に住んでいる不登校の中学生か高校生だろうとプロファイリングし、簑島たちは犯人らしき中学生をつきとめるのですが、うまく偽装されて、犯行現場として狙っている小学校の校内への潜入を許してしまうのですが・・という展開です。

三番目の事件では、「パパ活」をしている女子大生が、渋谷のホテル街で喉首を切られて死んでいるのが発見されるのですが、彼女がパパ活をしている最中の殺人であることが謎解きのカギとなります。

その日の彼女の男性がトイレに行っている間に、その場から姿を消して、近くで殺されていたという状況から顔見知りの犯行ではないかと、明石は推理し、殺された女子大生の私生活をひどく束縛していた母親が、事件のキーマンのようなのですが・・という展開です。

四番目の事件は、冤罪を証明するかもしれない、14年前の連続殺害事件の三人目の被害者についての記憶が、明石に甦ってきます。

それは、三番目の被害者となった「西田結」という女の子が、当時、ストーカー化した客に付きまとわれているというもので、明石が結からその相談を受けているときにかかってきた予約の電話の客によって結は殺されてしまいます。

明石は、そのストーカーの客の名前を思い出そうとするのですが、自ら封印をしているようでなかなか思い出せません。ようやく、その男の名前と大手の電機会社の営業マンであったこととを思いだし、簑島たちがその男をあぶりだしてみると、その男はすでに1・・という展開です。

明石の冤罪を証明するはずが意外なモノを掘り出してしまうこととなりますね。

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レビュアーの一言

前巻で簑島刑事の相棒であった、先輩刑事「伊武」が新・ストラングラーによって銃撃されて命を落としたため、今回から登場する相棒が「矢吹加奈子」という仕事に厳しいバリキャリ女性刑事。

こういうタイプは、たいてい巻の途中で犯人側や事故によって命を落としてしまうことが多いのですが、彼女の場合は今巻の範囲ではそういうこともなく、それどころか死刑囚の冤罪再調査ーチームの一員となっていきます。

特に二番目の事件では、部外者には入場が許可されていない小学校の運動会へ入り込むのに、矢吹加奈子の驚異の行動力が発揮しています。

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