アマチュア音楽家二人が洋上の密室殺人の謎を解く=宮ケ瀬水「推理小説のようには行かない」

名古屋港で行われた名古屋市と横浜市との交流イベントに参加した横浜市の演奏ボランティアのメンバーに横浜港への帰り道におきた連続殺人事件の謎を、ボランティアに参加していた横浜市内の大学のミュージックサークルのバイオリン担当とピアノ担当の二人の女子大生が、名古屋港から横浜港までの限られた時間の航海の間に推理をめぐらして犯人をつきとめていく、洋上密室ミステリーが本書『宮ケ瀬水「推理小説のようにはいかない ミュージック・クルーズの殺人」(宝島社文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

Prologe 事件のその後
事件篇
第一章 ミュージックフラスコは海をゆく
第二章 合奏と死
第三章 血の雨は三号室に降る
解決編
第四章 一年は短すぎる
Epiloge 利佳の依存

となっていて、物語の探偵役をつとめるのは、横浜市内の「青琳館大学」の数学科に通う「三澤利佳」と、文学部に通う葛原卯月という二人の女子大生です。「利佳」は実は、国内の有名な音楽コンクールでピアノで二年連続優勝しているという経歴の持ち主なのですが、なぜか音楽科には進まず、理学部の数学科というピアノに全く縁のない道を選択している変わり種です。

もう一人の「卯月」はミステリ好きでバイオリンが趣味なのですが、音楽サークルで出演するボランティア演奏の時に、必ずなにかトラブルをひきおこすという、これまた一種の変わり種です。

この二人が、音楽サークルに依頼のきた名古屋市で開催される、横浜市との交流記念イベントのボランティア演奏で、ミュージックフラスコという金属製のフラスコ型の新作楽器を演奏するボランティアメンバーのバック演奏を務めることになったのですが、利佳は卯月がまた何かトラブルを引き寄せるのでは、気が気でなくて・・という筋立てです。

で、事件のほうは、横浜港から出航して、名古屋港でイベント演奏をして、記念の彫刻の贈呈式をすませた帰りの航海中におきます。このイベントの演奏メンバー6人はバック演奏を務める利佳と卯月以外全て公募で集められていて、演奏経験もバラバラなうえに、それぞれの関係性はないように見えます。

そして名古屋港へついて演奏が終了するまでは何事もなかったのですが、帰路についた航海中、演奏メンバーの一人、今田明日香という女性がミュージックフラスコで後頭部を殴打された死んでいるのが発見されます。さらに、彼女の部屋にはないはずの「彫刻」も置かれているのも見つかって・・という展開です。実は、この部屋はもともと卯月に割り振られていた部屋だったのですが、船酔いがするという今田の頼みで、窓のない部屋と交換していた、という経緯があって、ひょっとすると犯人は今田ではなく、卯月を狙っていたのでは、といった疑惑でてきます。

一方、この船内での殺人事件の伏線となる事件が横浜のほうでおきています。中目黒の閉鎖された病院の中で若い男が心臓を刺されて死んでいるのが発見され、その容疑者として、被害者がつきあっていた女性が浮上し、警察の捜索が始まるのですが、どうやらその女性は彼女の出身地でもある名古屋で開かれた、利佳と卯月が演奏ボランティアで参加したイベントへも顔をだしているようで・・、という筋立てです。。

もうひとつ、船内殺人に絡んだ伏線として、両市の交流の記念となる彫刻を途中の船内で盗み出そうとするグループがいるわけですが、このグループが輸送用に使おうと名古屋港へ係留していた船が、先の中目黒の死体遺棄事件の捜査の流れで港を捜査していた警察に不審をいだかれ検挙される、という事態もおきてきます。

そして、この後、現場保持のため立入禁止にした「今田」が殺害された部屋で演奏メンバーの一人・平原が首の動脈を切られて死んでいたという第二の殺人事件が発生します。

船は後悔中なので、船に乗り込んでいる人の中に犯人がいるはずなのですが・・という密室殺人の謎を、少し天然系の「卯月」が解き明かしていきます。

Amazon.co.jp: 推理小説のようにはいかない ミュージック・クルーズの殺人 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) : 宮ヶ瀬 水: 本
Amazon.co.jp: 推理小説のようにはいかない ミュージック・クルーズの殺人 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) : 宮ヶ瀬 水: 本

レビュアーの一言

少しネタバレしておくと殺人事件の謎は、『これは「クローズドサークル」の殺人事件なのか~』という声が少し洩れてしまうトリックなのですが、最期のほうで、利佳から「ボランティア演奏の時にトラブルを引き寄せる」と言われている卯月の秘密が明らかになるというおまけがついていて重層的なミステリ仕立てになっているので、まあよしとしましょう。

殺人事件は発生するのですが、二人の女子大生の謎解きのかけあいが軽快な、ライト・ミステリなので、残酷なシーンの多いミステリの苦手な人も安心して読めます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました