新米研修医の語られなかったエピソード再び=知念実希人「祈りのカルテ 再会のセラピー」

前巻の「祈りのカルテ」で精神科や皮膚科、小児科などで貴重な研修医経験を積んで、ようやく循環器内科への専門研修の途を選んだ新米医師の諏訪野良太が、彼の友人で、筆者の別作「天久鷹央」シリーズで、変人医師兼天才的名探偵である天久鷹央の下僕という扱いをされている小鳥遊優の後輩医師・鴻ノ池舞の専攻選びのアドバイスをするのですが、第一作で登場しなかった診療科のエピソードが語られるのが本書『知念実希人「祈りのカルテ 再会のセラピー」(角川書店)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
救急夜噺
幕間1
割れた鏡
幕間2
二十五年目の再会
エピローグ

となっていて、時間剪定的には、天久鷹央が「不死の少女」事件を解決したあとぐらいのようなので、「天久鷹央の事件カルテ 久遠の檻」のあとぐらいでしょうか、内科学会にあとの飲み会で小鳥遊と一緒になった諏訪野が鴻ノ池に、彼が研修生当時の変わった経験を話す、という設定です。

第一話 救急夜噺

まず第一話めの「救急夜噺」は救命救急部での研修経験です。冒頭では、進行したがんを治療中なのですが、たびたびふらっと救急外来を受診してくる「広瀬」という患者が紹介されています。この患者は、本編を通じて重要な役割を演じることになるので覚えておきましょう。

本編のほうでは、新橋の路上で倒れて助けを求めていた「秋田竜也」という50歳代半ばの男性が搬送されてきます。この患者は昨年も軽い胃腸炎で救急車を呼んで来院し、入院させろとごねて居座って騒ぎになった、という前科をもっています。

今回もそれと同様で、たいした病気ではないと考えていた良太だったのですが、診療中に、突然秋田がけいれん発作をおこします。

彼はその後も、治療で落ち着いたかと思うと発作をおこし、入院棟にも連れていくことができない状況になるのですが、果たして、彼の突然の発作の原因は?、そして、1年前は執拗に入院に拘っていたのですが、今回は、救急部に居座ることが目的のようで・・という展開です。

第二話 割れた鏡

二話目の「割れた鏡」では形成外科が舞台となります。ここにアイドル出身の女優で、人気回復のために何回も美容整形を重ねている女性が通院してきます。彼女は今回はあごのラインを細くしてほしいとやってきたのですが、すでにそこは何度も削ったり、プレートをいれていて、手術が失敗する可能性が非常に高くなっています。

しかし、彼女は執拗に手術を迫り、手術してくれないなら退院して、やってくれる病院を探すと言い張ります。彼女は顔の手術をするたびに、人気が甦っていて、おそらく今回もそれを狙っているのと、醜形恐怖症にかかっているのでは、と形成外科医の指導医・三上は推察し、最小限の手術をした後、精神科に渡すことを計画しています。

しかし、良太は、彼女が過去に双子の妹とユニット組んでデビューしていたのですが、彼女のスキャンダルで妹の人気を台無しにしてしまったことがきっかけで、彼女と絶縁状態になっていることが、彼女が自分の顔を「別人のように」変えたがっている原因では、と推理し・・という展開です。

第三話 二十五年目の再会

三話目は、すでに循環器内科の後期研修に入ることを決めていた良太の最期の前期研修科となる、終末期医療を施す「緩和ケア科」です。

彼はここで、第一話に登場した、「悪性中皮腫」を患い、死期の誓い「広瀬」の担当医となります。良太は広瀬に生き別れになった子供がいることを知り、死ぬ前に一度会ったらどうか、と勧めるのですが、彼は自分は「強盗」の前科者だから、としり込みします。それでも会うよう勧める良太に広瀬は、「自分の強盗犯は実は冤罪なので、それを晴らしてもらえたら」という条件を出し、良太は冤罪をするべく、25年前の事件を調べ始めるのですが・・という展開です。

この広瀬の強盗犯が冤罪かどうかわかったところで、さらに大きな秘密が明らかになります。それは良太にも関係することで・・という筋立てです。

Bitly

レビュアーの一言

2022年10月からスタートした「玉森悠太」さん主演のテレビドラマでは、今のところのキャストを見る限り、今巻の小鳥遊優や鴻ノ池舞らしきキャストは見つからないのですが、どこかで「天久鷹央」シリーズとのセッティングを試みてほしいところです。

その節は、天才的な知力と計算力をもちながら、運動音痴で採血もできず、27歳ながら童顔のため高校生か中学生に間違えられるというキャラ設定から、あの女優さんにお願いしたいところですね。

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