江戸、甲州、蝦夷で大バトルが同時発生。蝦夷にはロシアの陰も=今村翔吾「風待ちの四傑 くらまし屋稼業8」

「依頼は必ず面通しの上、嘘は一切申さぬこと」「決して他言せぬこと」「捨てた一掃を取り戻そうとせぬこと」といった七箇条の約定を守りさえすれば、現在の暮らしから、だれでも「くらます」が、この約上を破った時は、この世から「くらます」ことを生業とする「くらまし屋」シリーズの第8弾が本書『今村翔吾「風待ちの四傑 くらまし屋稼業8」(時代小説文庫)』です。

前巻では、すでに死んでいるはずの歌舞伎の名優のくらましの仕事を請けたことから、くらまし屋のメンバーの一人・赤也の実家と彼の以前の役者稼業が明らかになったのですが、今巻は江戸のくらましと、北海道でのアイヌやロシアとの大バトルが展開されます。

あらすじと注目ポイント

構成は

序章
第一章 越後屋の切れ者
第二章 長屋の絆
第三章 白銀の狩人
第四章 四三屋の利一
第五章 暗黒街の地図
第六章 比奈の旅立ち
第七章 猿橋の上で
第八章 豪と疾
第九章 玄人の詩
終章

となっていて、まず、江戸でのくらまし稼業から物語は始まります。

今回、くらましの対象となるのは、店前現銀商いで呉服の商売形式を大転換させ、大店となった「越後屋」の奉公人の「比奈」という20歳過ぎの女性です。

彼女はもともと日本橋界隈で菜を売る棒手振りの娘だったのですが、父親の死後、小さな呉服屋勤めをしていたところ、その働きぶりと気配りを偶然、店にやってきていた越後屋の手代に見出され、越後屋に引き抜かれたという設定です。当時、越後屋は多くの従業員と傘下の他業種の店を抱え、江戸時代版の大コンツェルンを形成していて、今回、そのうちの「千代屋」という日光街道・奥州街道で流通や買い付けを行っている店の手伝いに行かされたことがきっかけで事件に巻き込まれます。

その店で手代の伊八郎とともに手伝いをしていたのですが、上司の伊八郎が、千代屋で何か不正が行われている気配をつかみます。といっても利益をごまかしている、というのではなく、取引量に比べて売り上げが各段に多い、というもの。帳簿をこっそり調べた伊八郎は、仕入れにからくりがあることをつきとめ、それを伊八郎の上司の番頭・富蔵へ密告しようと彼のもとを訪ねようとするのですが、そこで行方がわからなくなり、しばらくして死体となって見つかります。

伊八郎が千代屋の疑惑を調べていたことを、番頭の富蔵に告げる比奈だったのですが、富蔵の態度から彼が伊八郎を殺した黒幕では、という疑惑を抱き逃げ出します。そして、長屋の知り合いを通じて、くらまし屋とわたりをつけ・・という筋立てです。

ところが、番頭の富蔵が関わっていた千代屋の不正には、幕府のお偉方の絡んでいる大きな悪事の一環で、自らの命を守るため、富蔵は、四三屋の利一に「比奈」と「くらまし屋」を始末することを依頼して、利一に抱える仕事人たち60人と「くらまし屋」との死闘が甲州街道を舞台に繰り広げられていく、という展開です。

ただ、これだけではなく、比奈を匿っていた越後屋の商売敵の「大丸」が、比奈に害を咥えようとする者の始末を炙り屋に依頼したものですから、炙り屋・万木迅十郎と、富蔵が頼んだ用心棒たちと「虚」の九鬼段蔵との大バトルもあわせて展開されていきます。

一方、今巻の仕掛けはこれだけに終わらなくて、蝦夷の地に建設が進められている「夢の国」でも、その建設用地の確保のために土地を追われたアイヌの人々と争いがおきています。当初は「虚」の剣客・榊惣一郎の活躍で圧倒していたのですが、アイヌ側に弓の名手・レラが参戦し、戦況は混とんとしてきます。

「夢の国」守護のため、レラを倒そうと惣一郎は雪原へ彼を追い詰めていくのですが、その死闘の最中に、数十人規模でこの蝦夷の地へ侵攻してきている「ロシア」の勢力と出くわし、彼らとのバトルが勃発し・・という展開です。

江戸、甲州、蝦夷の地で、複数の勢力が絡み合った、大バトルが展開されていきますので、アクションシーンの好きな方にはたまらない筋立てとなっています。

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レビュアーの一言

くらまし屋シリーズの時代設定は、11代将軍・徳川家斉の実父であるい一橋卿・徳川治斉が陰の権力を握っていたころですので、ロシアのレザノフが国交の樹立を求めて長崎に来航したり、北方での毛皮貿易の拠点づくりのため、オホーツク海沿岸に積極的に進出してきていた時期と重なってきます。

当時、蝦夷地には松前藩が置かれていたのですが、北海道全域を実行支配していたとはいえず、日本、アイヌ、ロシアの勢力が対峙していた頃といえますので、今巻のような争いの勃発もフィクションとはいえないようですね。

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