連続毒殺事件に潜む「薩摩」の陰を暴け=山本巧次「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 司法解剖には解体新書で」

元OLのフリーター・関口優佳が、祖母が遺した東京下町の古い家の押入れから江戸時代へとタイムスリップし、江戸と東京を行き来しながら、南町奉行所の同心・鵜飼伝三郎配下の小粋な岡っ引きとして、江戸市中の事件を解決していく「関口優佳」こと「おゆう」の捕物帳の第9弾が本書『山本巧次「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 司法解剖には解体新書で」(宝島社文庫)』

前巻では、21世紀の東京が新型コロナウィルスの感染拡大で外出禁止となる中、江戸へ自主隔離したおゆうが、子供の誘拐事件に潜む財産争いの事件を解決したのですが、今回は21世紀では新型コロナウィルスの感染による緊急事態宣言の出る中、江戸でおきる連続毒殺事件の謎を解き明かします。

構成と注目ポイント

構成は

第一章 長崎の黒い影
第二章 腑分けは禁じ手
第三章 巫女と毒薬
第四章 薩摩の大罪

となっていて、まず第一の事件は、おゆうが、鵜飼伝三郎と目明しの源七とともに、彼女のずっとずっと上の上司である南町奉行筒井和泉守が長崎美行であったときの同役・間宮筑前守の配下の河合右馬介というお侍の変死事件の捜査を命じられるところから始まります。

そのお侍は、直前まで普段と変わらない様子だったのですが、料理屋で知り合いと夕食をとったあと、屋敷へ帰り、床に就いて間もなく、苦しみ出して急死したというもので、医者の見立てでは心臓発作ではないか、ということなのですが。彼と長崎在勤当時から親しかった唐物商・平戸屋が同じころ、同じような症状で急死したことがわかり、にわかに事件性が疑われてきた、ということのようです。

おゆうたちは、河村たちが夕食をとった料理屋や、彼らと同席していた廻船問屋・玄海屋の聞き込みにまわるのですが、その時に、「蜻蛉御前」と名乗る美人ながら怪しい雰囲気の巫女姿の鬼頭氏が店の前にたち、悪行の報いで玄海屋の主人は死ぬだろう、と騒いでいるところに出くわします。

その騒ぎをおさめようと、その女を取り押さえようとするのですが、するりとかわされ、王すがろうとしても意外に足が速く追いつけないまま逃げられてしまいます。

そして、聞き込みにまわった翌日、その玄海屋が河村や平戸屋と同じ症状で死んでしまいます。玄海屋は河村と平戸屋が変死したという話を聞いた後、急に蔵前の札差と浅草西町の亀屋という料理屋で会合し、夕食をとって帰宅後に死んだということで、料理屋へ異なるもののシチュエーションは同じです。

三人の死因は毒によるものが疑われるのですが、この時代に毒殺に使われていたトリカブトや石見銀山とはまったく症状が違っていて手がかりがつかめません。おゆうは、21世紀の分析起業家・宇田川の助言をうけて、死んだ玄海屋の司法解剖を、平戸屋の検死をした蘭方医・里井瑛伯の執刀で行うこととなるのですが、当時、刑死した囚人でない者の腑分けは御法度で・・という筋立てです。

このあたりの展開で、日本初の解剖医書「ターヘルアナトミア」の編纂に関係した大槻玄沢が登場したり、と、このシリーズ特有の大物が登場してくるのですが、詳細は原書のほうで。

ちなみに、もしこれが実現していれば、日本初の検死解剖となるはずだったのですが、奉行所に情報がもれてあえなくストップをかけられてしまいます。実はここらに、この連続毒殺事件の犯人が隠れているので御注意を。

そして、この後、連続毒殺事件の被害者となった役人や商人たちが、薩摩による密貿易に関連しているのでは、という疑いもでてきて、一挙に話は幕府を揺るがす事件へと発展していきそうな気配がでてくるのですが、ここからの詳細は原書のほうでどうぞ。

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レビュアーの一言

今回、連続毒殺事件の黒幕として疑われる薩摩のお殿様が、島津斉彬の曾祖父・島津重豪です。彼は11代将軍・徳川家斉の正室・広大院の父親で、高輪下馬将軍と呼ばれて権勢をふるったほか、蘭学などの学問に造詣の深い「蘭癖大名」としても有名です。

薩摩に天文の観測所である「天文館」や医学所をつくったり、これらの学問所は郷士階級にも開放し、薩摩藩が明治維新の時に、多くの才能あふれる人物を生み出した基礎を作った人ともいえます。

この物語の頃は、残念ながら彼の華美好みによ財政悪化が問題となり、長男へ家督を譲らざるをえなくなった少し前のあたりかと推測します。

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