名古屋の少女連続誘拐事件の謎を解くドタバタ痛快ミステリーを楽しもう=秦建日子「女子大小路の名探偵」

女性にだらしない上に、生活力もない、自称探偵の弟・広中大夏と、母親の介護のために名古屋の錦のナンバーワンホステスの座を捨てて岐阜に帰郷した姉・広中美桜が、小学生の女の子を狙う卑劣な犯罪に挑む、アクション系痛快ミステリーが本書『秦建日子「女子大小路の名探偵」(河出書房新社)』です。

あらすじと注目ポイント

物語の主な舞台となるのは、1963年まで中京女子短期大学があったことに端を発し、長さ280mほどの短い通りに居酒屋、スナック、ゲイバー、ホストクラブ、外人パブなど、多種多様な業種の店が集まり、「栄ウォーク」という行政御推奨の名前はあるのですが、誰もその呼称を使わない、名古屋を代表する歓楽街「女子大小路」と岐阜で、まずは、物語の主人公・広中大夏が、女子大小路にある空き店舗だらけのペンシルビルの4階にある「タペンス」というスナックの店長兼バーテンダーとして雇われるところから始まります。

雇用の条件は開店時に最初に流す音楽は、必ずジャクリーヌ・デュプレのチェロ協奏曲にする、ということだけで、給料は何時間働いても一日一万円、そのかわり営業成績はまったく問わない、いう、破格なのかいい加減なのかわからない条件です。

もともと勤労意欲はほとんどなく、そのくせ女性にはだらしない大夏は、それなりに店を開けていたのですが、ある時の店にやってきた「麻実子」という女性と付き合ったことから、ストーカーと間違えられて、「麻実子」の友人・加納秋穂から警告を受けます。

麻実子は自分に惚れていると勘違いしている大夏は、秋穂の誤解を解こうとして、彼女の肩を掴んだことがきっかけで、女性暴行犯として検挙され、さらには、女子小学生連続拉致事件の重要容疑者として警察からマークされるようになり・・という筋立てです。

で、彼が重要容疑者となる事件は、名古屋市内の小学生の女の子が、下校途中に何者かに、首を絞められて失神させられ、騒がないように口に粘着テープを貼られて拉致され、数時間の空白のあと、名古屋市内の公園の遊具の上に置き去りにされるという事件が密かにおきていたものです。

ただ、被害者の少女の親たちが外聞を気にして被害届を出すのを渋っていたため、警察の捜査の動きが鈍かったところに、一人の少女が粘着テープを口に貼られていたときに嘔吐をし、その吐しゃ物が喉につまって窒息死するという事態に発展したため、世間から非難の的となった警察がシャカリキで捜査を始めたところに、現場近くで女性暴行(?)事件を起こした「大夏」が運悪く網にひっかかった、という訳です。

そして、大夏のストーカー行為が誤解であったことを知った秋穂からおわびのショートケーキを渡したいと彼女のアパート近くまで行った大夏は、その近くの公園で、滑り台の透明ドームの上に置き去りにされている第二の被害者の死体に出くわします。さらに、その時、公園からでてくる不審な男も目撃し・・ということで、幼女殺人の容疑者から一挙に重要参考人へと昇格していきます。

そして、正義感にかられた大夏は、秋穂といっしょに被害者の近辺を独自捜査し始めるのですが、その動きを妨害するように「ヤマモト」と名乗る謎の人物が介入してきて、大夏の命も脅かされる事態となってきます。

この出来の悪い弟の危機に、最初、母親が認知症となったため、助けを求められ、名古屋の錦のナンバーワンホステスの座を捨てて、岐阜にかえってきたにもかかわらず、弟がバックレて名古屋に逃亡したことを根に持っていた大夏の姉・美桜も否応なしに巻き込まれていき、弟の救出と小学生女子連続拉致&殺害事件の真犯人探しに乗り出していくことになるのですが、彼女がつきとめた犯人は実は一人ではなく・・という展開です。

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レビュアーの一言

この作品は、最初、主演の美桜役をする予定だった本仮屋ユイカさんがドタキャンして、急遽、剛力彩芽さんにキャスト変更されて映画化が進められるというドタバタになっているのですが、原作のほうは、場面転換も目まぐるしく、また、たよりのない「大夏」や、名古屋の錦と岐阜の柳ケ瀬どちらでもナンバーワンホステスの姉・美桜の威勢のよさ、さらには大夏にからんでくる口の悪いフィリピーナたち、と個性的な魅力あふれるキャラ満載の痛快ミステリーになっています。

なんとなく気分がどんよりしているよね、という時の気付け薬がわりにおススメのミステリーですね。

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