大門剛明「正義の天秤」=事件の隠された真実を、二軍弁護士たちがあぶりだす

都内にある有名弁護士ファームである「師団坂法律事務所」はその創設者・佐伯の急死によって、運営基盤に大きな影響を受けていたのですが、とりわけ影響の大きかったのは、佐伯がリーダーを務めていた「ルーム1」と呼ばれる刑事弁護専門のセクション。佐伯の一人娘で、自らもルーム1の弁護士として働く佐伯芽衣は、運営の建て直しを図るため、元医師でニューヨークの大手法律事務所で活躍する弁護士・鷹野和也をルーム1のリーダーとして招聘します。

しかし、チームの安定を望んでいた芽衣の期待を裏切り、鷹野が真っ先に行ったのはなんと、所属の弁護士の大リストラで、と冒頭から波乱含みで始まるのが、刑事専門の二軍弁護士たちの活躍を描く弁護士ミステリー『大門剛明「正義の天秤」(角川文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一話 ブレーメンの弁護士たち
第二話 カルネアデスの方舟
第三話 マアトの天秤
第四話 悪魔の代弁者
第五話 アメミットの牙
第六話 正義の迷宮

となっていて、まず第一話では、師団坂法律事務所の創設者の娘・佐伯芽衣に助っ人として呼ばれた敏腕弁護士・鷹野和也が「結果の出せない弁護士は首にする」と爆弾宣言をするところから始まります。もともと、彼が招聘されたチーム1は刑事弁護専門で、採算よりも人権優先の傾向のあるところで、しかも、チームの柱であったベテラン弁護士を辞めさせる提案なので、彼に対する反発は相当なものです。そして、彼のリストラ方針を受け入れるかどうか、その時、事務所が抱えている難事件の弁護の結果で決めることとなるのですが・・という筋立てです。

双方の「馘首(クビ)」をかけて、鷹野が担当するのが、リストラされた会社員が交差点で待っている歩行者の集団に車でつっこみ、一人を死亡させています。犯人の藤間はその後、現場から逃亡して三日後に逮捕されているのですが、当時の記憶がない、と主張しています。事故現場にはブレーキ痕はなく、藤間がリストラされたことに腹をたてて、故意につっこんだものと思われているのですが、という事件です。

誰もが、この弁護は、意識喪失で故意がないことを主張して、死刑から減刑を狙うのが本筋と思っていたのですが、鷹野が目をつけたのは、事務所でトラブってリストラされた後に意識がなくなったと主張していることで、実はそこに事件をひっくりかえす新装が隠れていて・・という展開です。

第二話の「カルネアデスの方舟」は、荒れた海の危険水域に入ってしまった釣り船から、船長と乗客が海に投げ出され、乗客が溺死してしまった事件です。乗客側は、船長が無理やり浮き輪を奪おうとしたと主張するのですが・・という筋立てです。目撃証言がないと思われいたのですが。ニート上がりの弁護士・杉村の推理で、近くを航行していた遊覧船乗客の撮影した動画が見つかり、それには船長から浮き輪を奪おうとする乗客の姿が映っています。これで、船長の殺意はなかったと弁護できると思えたのですが、船長の死んだ息子の勤務先がその乗客の経営する店だったことを知った鷹野は、これが殺人事件だ、と言い始め・・という展開です。

第三話の「マアトの天秤」は、大手広告代理店の社長のドラ息子が犯したストーカー殺人の弁護です。この事件は他の事務所の弁護士・鈴木が依頼を受けていたのですが、急病になり、「師団坂」にまわってきたという経緯なのです、鈴木はひっ国が犯行を認めているにも拘わらず無罪にできるといっていたということで、今回事件を担当する、師団坂の裁判燗上がりの弁護士・桐生にも無罪をかち取れ、と強要してきます。

どうやら取り調べの際の違法性をついて無罪を勝ち取る方法で、以前の弁護士・鈴木のセッティングどおりその仕掛けは動き被告は無罪の判決を得るのですが、被告人の悪辣さが許せない桐生は別の奥の手を用意していて、その被告に罪を償わせるため・・といった展開です。

第四話の「悪魔の代弁者」は、6年前の傷害致死事件で服役し、出所後、その事件の裁判員となっていた女性が裁判について書いたブログ記事を見つけ、頭にきてその女性を探し出して問いつめたところ逆切れされ、突き飛ばして殺してしまったという被告の弁護です。

今回の事件を担当したのは、刑事上がりの弁護士・梅津なのですが、行き違いから家出している自分の娘と重ね合わせながら事実関係を調べていくうち、被害者の見た目や過去の非行歴とは違う、真面目で親孝行な様子がわかってきます。そこから、彼は6年前の事件とその真犯人に気づきます。6年前と同じように犯人をかばおうとする被告人に告げた事実と、彼の心を動かした言葉は、被害者の姿で・・という展開です。

第五話の「アメミットの牙」は、4年前、少女を殺害し少年院に送られた後、町工場で働いていた少年・松田が、4年前殺された少女に父親によって殴り殺されます。この父親の弁護が師団坂法律事務所に依頼されるのですが、弁護を担当するのは、チーム1ではなくて、事務所内のライバルとなるチーム2のエースの美人弁護士の波多野です。被告は犯行を認めているので、量刑がポイントと普通は思うのですが、彼女は、担当検事の一ノ瀬が現場を何度も再捜査するの見て、捜査に問題があって松田を殺したのは別人では、と考えます。裁判での一発逆転を狙って、公判でその方向で弁護を進めるのですが、実はそこに一ノ瀬検事の巧妙な罠と4年前の事件の真相が隠されていて・・という展開です。

第六話の「正義の迷宮」では、ニート上がりのチーム1の弁護士・杉村が、強盗殺人事件で起訴されている被告人・中江雄聖の裁判で、減刑をかち取ります。これはチーム1の敏腕弁護士・桐生でも難しいことなので、チーム1のリーダーは、杉村に司法取引をしてないか糺すのですが、彼は否定します。実は、司法取引をしたのは被告である中江と担当検事の間だったのですが、担当検事がそれに応じた理由は・・という展開です。

Bitly

レビュアーの一言

本シリーズは大手弁護士事務所のリーダ弁護士の急死で弱体化した弁護士チームに招聘された、元医師の鷹野弁護士が転職するきっかけとなった、迷宮入りしている女性弁護士の殺人事件の謎を解いていく物語であるとともに、前歴がニート、冤罪事件を起こした刑事、元裁判官という異色の経歴をもち、けしてエリートとは言えない弁護士たちが、弁護士事務所の創設者の娘で、お嬢様育ちで泣き虫の弁護士・佐伯芽衣とともに成長していく物語でもあります。

それぞれにコンプレックスや過去の後悔をかかえながら、それを逆用して事件の真相に辿り着いていく、「二軍」弁護士たちの活躍はなかなか感動的ですよ。

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