歌舞伎の未上演脚本が連続殺人を招く=芦辺拓「鶴屋南北の殺人」

歌舞伎の狂言作者と聞かれると、正直、たくさんの人物名は答えられなくて、せいぜい近松門左衛門、河竹黙阿弥、鶴屋南北といったところぐらいしか思い浮かばないのですが、そのうちの「東海道四谷怪談」を書いた四代目鶴屋南北が遺した幻の脚本をめぐって、現代の大大学内の劇場でおきた殺人事件と過去の鶴屋南北とその弟子・花笠文京の芝居が交錯する歌舞伎ミステリーが本書『芦辺拓「鶴屋南北の殺人」(原書房)』です。

あらすじと注目ポイント

構成の大項目だけを拾うと

一番目 銘高忠臣現妖鏡
中幕
二番目 六大洲遍路復仇

となんとも味気ないものになってしまうのですが、実は目次自体がしっかりと芝居仕立てになっているので原書で確認してみてくださいね。

物語のほうは、まず探偵役である、東京で弁護士事務所を開いている森江春策のもとへ、有名劇場ゆかりの演劇研究機関の研究員・秋水里矢という年齢三十前後、黒髪をきれいに切りそろえたオカッパ頭で現代風にアレンジした着物をきた女性が奇妙な依頼をもってくるところから始まります。

まあ、女性の格好じたいから奇妙ではあるのですが、その依頼というのが「鶴屋南北」を取り返して欲しいというものです。詳しく言うと彼女がイギリスのロンドンで開かれていた古書市で発見した江戸後期の歌舞伎作家・四代目鶴屋南北の未上演脚本の「中身」を、京都にある洛陽創芸大学の劇場の監督をしている「小佐川歌名十郎」という歌舞伎俳優に盗まれたので取り返して欲しいという依頼です。脚本そのものは秋水の手元に残されているので、奇妙な依頼に間違いないですね。

で、依頼を引き受けた森江は京都の大学を訪ねると、その劇場で小佐川が主導する舞台では、秋水が「中身」を盗まれたと主張する歌舞伎(「銘高忠臣現妖鏡」)が上演に向けて練習が重ねられているところです。森江は「中身」を取り返す手段として、その脚本が秋水がロンドンで発見したことを上演資料にいれてくれ、と頼むのですが、にべもなく断られます。

難航する交渉をまとめるため、京都に滞在して大学敷設の劇場へ通う森江だったのですが、ある日、その芝居(「銘高忠臣現妖鏡」)の最後のシーンの練習場面に遭遇します。それは、舞台の上の高師直の屋敷を再現したセットを一瞬にして崩落させてしまうという「屋台崩し」のシーンだったのですが、本来中に人はいないはずのところを、小佐川が目をかけている弟子・志筑望夢が入り込んでいて、セットの崩落に巻き込まれて死亡してしまいます。

彼の事故死で、この芝居の上演が危ぶまれる事態になるのですが、今度は、事故の情報を聞いて東京から来ていた秋水が、京都市内の神社の境内で白い紙でつくった大量の紙吹雪の中で絞殺体となっているのが発見されます。おまけに、彼女の姿を途中まで追っていた森江は、何者かに冷凍倉庫の中に閉じ込められるというおまけもついてきて・・という展開です。

この後、この洛陽創芸大学を牛耳っている上念理事長を追い落とすクーデターをしかけた、官僚出身の理事が、大学の新キャンパス建設地で、クレーンで首を吊られて殺されているのが発見され、といった具合で、歌舞伎の舞台さながらの派手な殺人が連続しておきていきます。

そして、この現代でおきる事件に、幕末の鶴屋南北が未上演であった脚本に込めた「秘密」がオーバーラップしてきて・・という展開です。

Bitly

レビュアーの一言

今巻は、現代の事件展開の合間合間に、江戸時代の鶴屋南北の挿話が入るので読みにくいところはあるのですが、双方の話が互いに入り込んでくるところが、出来のいい干物を噛んでいるような味わいがあります。それがまた、古き時代の「歌舞伎」っぽさを醸し出しています。

少しネタバレをしておくと、鶴屋南北の未上演脚本の創作秘話のほうは、田沼意次と松平定信の対立や、意次の息子の意知の暗殺秘話も盛り込まれていて、歴史ミステリーとしても楽しめます。

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