舞子は幼稚園の動物連続虐待と園児殺害の謎を解くー中山七里「騒がしい楽園」

園児連続殺人の犯人として獄中で病死した父親の贖罪をするために、其の幼稚園に赴任した娘の奮闘と父の冤罪を晴らした幼稚園を舞台にしたお仕事ミステリー「闘う君の唄を」の続編となるのが本書『中山七里「騒がしい楽園」(朝日新聞出版)』です。

前作では、埼玉県秩父地方の幼稚園が舞台だったのですが、今回は、都内の世田谷区の幼稚園を舞台にして、田舎の幼稚園とちがって、周辺住民からの騒音クレームや、待機児童の保護者に悩みながら働く中で、幼稚園を揺るがす事件が勃発します。

構成と注目ポイント

構成は

一 デジタルウーマン
二 悪の進化論
三 権利と義務と責任と
四 ガーディナー
エピローグ

となっていて、今巻の主人公となるのは、前作の主人公・喜多嶋凛の同僚で、同じ年少の別の組の担任だった、音大でののクールな教師・神尾舞子です。最初のシーンが、都内にある幼稚園初出勤する舞子が、レディースカーの中で辺り構わず子供に食事をさせ、自分は化粧をする母親をたしなめるところで、前作とかわらない理路整然としたクールなところを見せています。設定としては、前作で勤務していた神室幼稚園の園長の過去の園児殺害と犯行隠蔽が明らかになったため、人心一新のため、幼稚園グループの本社が、この幼稚園に勤務していた舞子と池波智樹を、この世田谷区にある「若葉幼稚園」に転勤させてきた、というものです。

前勤務地では、園の運営に口を出してくる保護者会に悩まされてきた舞子だったのですが、今回、彼女を待ち受けていたのは、大手人材派遣会社の社長の奥さんと弟がその会社の派遣社員当時に過労死した姉という保護者間の喧嘩腰の対立であったり、園児の声が騒音だと訴え立ち退きを要求する昔から住んでいる住民たちとの交渉とか、二年続けて入園試験に落ちていて、どんな手をつかってでも息子を入園させようとする母親であるとか、秩父の「神室幼稚園」とは違う環境にほおり込まれることになります。
ここでも、相手と一定の距離をおいて、「冷徹」に対応する舞子のスタンスが揺るがないのは流石です。

しかし、こういうクールな舞子のスタンスを揺さぶる出来事が次々と起きます。まずは、池に毒物が入れられ、飼育していたメダカたち水生動物が全滅したことに始まり、死んだアオダイショウが投げ込まれていたり、飼っていた「アヒル」が首を切られて殺されていたり、縊死させた野良猫が園庭にぶら下げていたり、と動物虐待の常習者かあるいは園へのいやがらせと思わせる事件が連続します。
舞子の同僚の池波は、「被害が魚類→爬虫類→鳥類→哺乳類と進化している」と不吉な予言をします。
幼稚園のほうでは、池波や舞子の助言もあって警察に届け出、捜査を依頼するのですが、動物被害にとどまっているので、地元の世田谷警察署のほうでは真面目に捜査してくれません。そのうちに、いやがらせが「進化」するのでは、という不吉な池波の予言通りに、舞子の担当するクラスの女子園児が殺されて園の正面玄関に遺棄されるという事件がおきます。
その園児が保護者間でトラブルのあった人材派遣会社の経営者の娘であったり、犯行の起きた日が舞子と池波が幼稚園の職員による自主パトロールの当番の日だったのですが、異常を感じなかったたため、30分繰り上げで終了していたことが問題となったり、と事件以外のもろもろの揉め事を起こしながら展開していきます。

30分のエスケープが保護者と園関係者に非難され窮地にたった舞子と池波は、同じく捜査の遅れから批判されていた世田谷署の古尾井刑事と動物連続殺害と園児殺害事件の犯人を突き止めるため、協力して捜査を始めるのですが、おびき出されてきた真犯人は・・・、という展開です。

少しネタバレしておくと、事件の犯人は一人じゃないといったところで、今回も筆者お得意のドンデン返しは用意されてますので最後までお楽しみください。

レビュアーから一言

前作は父親の冤罪事件を晴らすというものながら謎解き要素は少なかったのですが、今回は、それに比べてミステリー色は強くなっています。が、やはり主な印象は「教育魂に火がついた」的なノリのほうが強いですね。クールで、文部省の教育カリキュラムや保護者の意向に忠実に学力アップの教育を重視する舞子先生が、熱血になっていく様子が描かれていて、特にエピローグのところの亡くなった園児の机に飾った供花についてのクラスの園児と舞子先生のやりとりは「うるっ」とくる仕上がりです。

騒がしい楽園
埼玉県の片田舎から都内の幼稚園へ赴任してきた神尾舞子。 騒音や待機児童など様々な問題を抱える中、幼稚園の生き物が何者かに惨殺される事件が立て続けに起きる。 やがて事態は最悪の方向へ――。 中山七里デビュー10周年連続刊行企画、第一弾!

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