サイコパス悪女二人がしかける連続大量殺人の動機は?=中山七里「嗤う淑女二人」

中山七里さんが生み出したサイコパス・殺人鬼のキャラは数々あるのですが、ひときわ目をひくのが、その美貌を存分に使って、関わる他人を弄び、破滅させていく「蒲生美智留」と、悪徳弁護士・御子柴礼二の医療少年院時代の知り合いで、ピアノ教師の仮面をかぶりながら「カエル男」として連続殺人を行った「有働さゆり」の、二人の「悪女」でしょう。

それぞれ、事故死にみせかけて行方をくらましていたり、医療刑務所を脱走して逃亡生活に入っていたりと、潜伏生活に入っていたのですが、この二人がタッグを組んで、連続凶悪犯罪を展開していくのが本書『中山七里「嗤う淑女二人」(実業之日本社)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

一 日坂浩一
二 高濱幸見
三 大塚久博
四 古見千佳
五 有働さゆり

となっていて、5件(最後の一件は未遂ですが)の凶悪大量殺人の惨劇が今巻では繰り広げられます。

まず第一の事件は、若手の国会議員・日下浩一の出席した中学生時代の同窓会でおきます。彼は中学時代は、冴えない悪ガキだったのですが、大学卒業後、与党の有力議員の秘書となり、国政に進出し、現在、秘書へのパワハラや同僚女性議員との不倫で世間のひんしゅくをかいながらも辞職はおくびにもだすことなく、派閥内の権力闘争のまつわるい裏金のパシリの運び役としてマスコミに狙われている、という状況です。

なので、この同窓会も選挙運動の一つで、出席している同級生も、なかば彼を敬遠しながらも、ひさびさの同窓会なので出席した、というところですね。

そして、惨劇は同窓会で日下の挨拶が終わり、乾杯のあとに起きます。それぞれに乾杯のドリンクを飲んだ出席者が一様に異常を訴え、倒れ込んでいきます。ホテルから出された飲み物に青酸化合物が混入されていて、出席した20人のうち、日下議員を含め17人が毒死するという大量毒殺事件となります。

日下議員は派閥の裏金疑惑のキーパーソンでもあったので、その線からの動機も疑われたのですが、めぼしい手がかりは見つかってきません。一つわかったのは、このパーティーのスタッフにホテルの従業員意外の女性が紛れ込んでいて、彼女が毒をもったらしいことが防犯カメラの映像で類推できるのですが、その女性が、「連続カエル男殺人」で医療刑務所に収監され、看護師から制服を奪って脱獄した、サイコパス殺人鬼「有働さゆり」に似ていて・・という流れなのですが、犯人の行方や犯行動機は皆目わからないまま捜査が難航していきます。

第二の事件は、温泉地への一泊旅行へ向かう「観光バス」でおきます。30人ほど参加者の集まったバス・ツアーは、新宿のバスターミナルから長野の温泉地を目指して出発するのですが、途中の松代パーキングエリアでトイレ休憩をとります。

通常なら、買い物時間も含めて25分の休憩後、出発するのですが、参加者の一人の女性がバスに戻ってこなかったため、30分遅れで、その女性が乗らないまま出発します。

ところが、バスが発車して長野インターチェンジまであと数キロと迫った時、車内に残されていた、運転士の後ろに保管してあった、その女性の手荷物が突然火を噴いて爆発し、バスは制御を失って、高速道路の防音壁に真正面から突っ込み、炎上するという大事故となります。今回も30名近い被害者のうち、生存者は3名という悲惨な事故となるのですが、爆弾をしかけたらしい、途中下車の女性の行方と犯行動機は不明のままです。

そして、その後、都内の中学校に忍びこんだ男が殺された上、その中学校が爆破されるという事件や、寂れた銭湯を改装したフィットネスクラブで、ボイラー室で爆発が起き、溜まっ洩れていたメタンガスに引火して大爆発をおこし、来ていた客数人が爆死するという事件が起きます。

いずれも「有働さゆり」が絡んでいるらしいことは状況証拠で推測されるのですが、確実な証拠と動機が全くわからず・・と捜査は混迷を極めます。

読者のほうには、途中で、「有働さゆり」の犯行の独白や、彼女の犯行の背後に「蒲生美智留」がいることが示されるのですが、犯行動機については「霧の中」状態のまま物語が進行していきます。

そして、「蒲生美智留」のいう「最後の犯行」計画が示されるのですが、それはなんと新幹線内でのナフサ爆弾の爆破で・・とという展開です。

レビュアーの一言

少しネタバレをしておくと、今回の事件は、途中で挿入される「蒲生美智留」と「有働さゆり」の会話を聞くと、犯行の都度、死亡する被害者の一人に「1」から順番の番号カードが渡されるので、一連の事件が連続犯行の順番を示すとともに、被害者になんらかの関連性があるのでは、と捜査陣と読者の推理を試される雰囲気なのですが、ここらあたりに罠がしかけられているので、ご用心ください。

さらに、最後半で思ってもみない悪女二人の静かな大バトルが展開されるので、そこも注目ですね。

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