江戸と現代の東京を、祖母が残した家の押入れの奥の階段を使って行き来して暮らしている、現代の東京では失業OL、江戸では女十手持ちの、関口優佳こと「おゆう」さんの推理シリーズの第三段。
今回の構成は
第一章 本石町の蔵破り
第二章 根津の千両富
第三章 蔵前の活劇
第四章 板橋の秋日和
となっていて、「富くじ」をめぐる事件の謎解きである。
もともとの発端は、女とどこかに消えてしまった金細工師・猪之吉の行方を、細工師の女房から頼まれるところからスタート。
もっとも、その依頼とは関係なく、最初の事件は、「蔵破り」。しかもその手口が、七年前に、その見事な手口で世間をを騒がせながら、忽然と姿を消した、有名な盗賊・疾風の文蔵の仕業に似ている、ということで、当時、その盗賊を捜査していたベテランの岡っ引き・茂三や、強請などで庶民から金を搾り取っている悪徳十手持ちの長次とかいう輩も登場してきて、結構賑やかに始まる。
その後、最初の「天城屋」の蔵破りに始まって、骨董屋の木島屋と蔵破りが続くのだが、どうもその蔵の錠前を開けたのが、猪之吉らしいといった風で、最初の依頼事に結びついていく。さらには、猪之吉は失踪前に家に「富くじ」を残しているとともに、猪之吉は10年ほど前に、さる寺の富くじの掛け金を修理したことがあるらしく、彼の失踪も「富くじ」に関係しているようなのだが、なんとも霧の中といった具合である。
そして、この蔵破りの事件と並行して、「富くじ」系では、明昌院という寺がかなり大規模な「富くじ」を始める。ここの住職の「玄璋」は貧乏な小寺の住職から明昌院の住職に出世し、さらに上の門跡寺院を目指しているらしいのだが・・という噂の強欲坊主。しかも、この坊主は、前述の悪徳十手持ちの長次と関わりがあるらしく、おゆうの想い人の同心・伝三郎とと配下の源七が監視を強める最中、その長次が変死を遂げる。
さて、蔵破りの事件と、富くじと長次の変死は、どう結びつくのであろうか・・・、というところで、七年前の「疾風の文蔵」一味が姿を消した本当の理由へと突き当たってくる展開である。
ネタバレ的に付け加えると、「玄璋」を捕まえる際の、寺社奉行所と町奉行所の網の張り方と、盤の詰め方は結構、読みどころでありますし、この寺社奉行が、後の老中・水野忠邦で、「富くじ」を禁止した張本人というのも、結構凝った設定でありますね。
本書では、優佳の祖母の江戸生活の話も聞くことが出来て、このシリーズ、だんだんと円熟味が増してきましたね。
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