「おゆう」に恋敵が現れ、宇田川は学者先生として江戸へ潜入する ー 山本巧次「八丁堀のおゆう ドローン江戸を翔ぶ」

現代の東京では、元OLのフリーター、江戸では南町奉行所の同心・鵜飼伝三郎配下の小粋な岡っ引きという、東京と江戸の二重生活をおくる、関口優佳ことおゆうの捕物帳の第4弾が本書『山本巧次「八丁堀のおゆう ドローン江戸を翔ぶ」(宝島社文庫)』。

【構成は】

第一章 堀留の屋根を走る賊
第二章 呉服はしの魍魎
第三章 千住の学者先生
第四章 相州の御城下
第五章 飛鳥山の葉桜

となっていて、八丁堀配下の岡っ引きの女親分姿も板についてきたところで、今回は、繁盛している商家から、美術品などを盗み出す「盗賊」を相手にした捕物なのだが、実はそれに終わらない。

その盗難の影に仇討ちあり、時代劇お決まりの賄賂疑惑ありといったテンコ盛りの展開である。

【あらすじと注目ポイント】

盗難にある商家は、海産物問屋・三崎屋、油問屋・大村屋、呉服問屋・美濃屋、高級料亭・浜善といったところ。これらの商家に、たった一人の賊が忍び込んで、紀伊国屋文左衛門由来の金の仏像、高麗の壺、尾形光琳の蒔絵の文箱といった美術品が盗まれていく。しかも、引き込みに下働きの娘を事前にいれて、鍵を盗み出しておく、という周到な手口である。

これだけなら、単なる美術品泥棒の仕業なのだが、盗まれた方の商家同士が知り合いであるらしいのだが、そのことをひた隠しにする。
さらには、この4人が、4人のうちの一人の「浜善」の隠し部屋で定期的に密会している上に、御側御用取次の林肥後守忠英の家臣ともなにやら怪しいつながりがあるようだ、という、きな臭さがどんどん増してくる設定である。

この林肥後守というのは、11代将軍・家斉の寵愛を受けて、上総貝淵藩の初代藩主となるなど、3000石からの大出世を遂げるのだが、家斉死後、老中・水野忠邦によって粛清され、強制隠居されるという、時代劇お決まりのアップダウンをした人物。徳川家斉の治世は、最初は寛政の改革もあって清廉潔白にスタートしているのだが、牧野忠成が老中首座になったあたりからは、賄賂政治どっぷりといった時代であるので、まあ、本書の設定も、この4人の商人の行動も、賄賂臭がぷんぷんしますね。

事件の方は、この盗難事件のあと、料亭経営の浜善の主人が殺されたあたりから、この4人の過去の素性が怪しげなことがだんだんとわかってきて、事件の背後に彼らの昔の悪行が関係していそうで・・・、といった感じで展開していくんである。

注目ポイントは、伝三郎を巡っての「おゆう」の恋敵となりそうな、お多津という髪結いの登場や、優佳の科学捜査の分析をやっている、分析会社の副社長・宇田川聡史が、江戸までやってきて捜査に協力するといったところで、特に宇田川の行動は、これからもちょくちょくありそうで、次巻以降も楽しみなところである。表題の「ドローン」が江戸を翔んだ理由は、宇田川の江戸行に当然関連しているのだが、詳細は本書で確認してくださいな。

【レビュアーから一言】

今回は江戸の科学捜査とはいっても、指紋や暗視スコープによる張り込み、ドローンによる空中撮影、閃光弾による悪党一味の撃退といったところで、アイテム的には少々地味かな、と思わないでもないのだが、現代の機器が活躍するアンバランスな感じは健在である。

さらに、伝三郎とおゆうの仲は、本書でも一線を越えそうで越えないのだが、「お多津」や「宇田川」の存在に、伝三郎もおゆうもヤキモチをやいていて、まあ、二人の仲は確実に進展しているので、ご安心を。
適度の江戸風味も味わえるので、ミステリーファン、時代劇ファン双方とも楽しめると思いますよ。

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