「キレる」ことへの対処法は、現代人必須の技術 ー 中野信子「キレる!」

最近、あなたは相手の些細なことに反応して急に感情的になってしまったことはないだろうか、あるいは、知り合いやビジネスの相手方が思ってもなみないところで急に怒りだした場面に遭遇したことはないだろうか、もし、両方ともないなら、あなたはとても幸運です。
だが、そうしたあなたがいつ遭遇したり、自分がやってしまうかわからないのが「キレる」という現象である。
そうした「キレる」行為に対しての、全般的な「処方箋」をアドバイスしてくれるのが、本書『中野信子「キレる!」(小学館文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 損するキレ方、得するキレ方
第二章 キレる人の脳で起こっていること
第三章 キレル人との付き合い方
第四章 キレる自分との付き合い方
第五章 戦略的にキレる「言葉の運用術」

となっているのだが、本書は、「キレる」行為をすべて封じ込めてしまう手法を教えてくれる本ではないところにまず注意しておこう。本書によれば

前述した″テレビ文化人にとどまらず、政治やビジネスの世界でも、自分のポジションを築き、成功している人は、怒らない人、キレない人ではなく、怒るべきときにきちんとキレることができる人です。
怒るべきときに怒らず、つまリキレないで、その怒りをため込むのではなく、上手にキレることで、多くの人の心をつかみ、自分の立場を手に入れています。
キレることは、激しい感情の発露ですから、それだけ人の心も揺さぶることになるわけです。
つまり、キレるという行為は、上手に使うことで、人間関係において自分の居場所をつくり、成功するためには欠かせないコミュニケーションのスキルであると言えます

ということで、「キレないけれど搾取される人」ではなく、「キレるけれど尊敬される人」のススメである。

で、上手にキレるためには「キレるメカニズム」を解明しないといけない、ということで、ノルアドレナリンやアドレナリンの作用や、テストストレンやセロトニンといった内分泌ホルモンの仕業などについても、 筆者専門の脳科学の立場から解説してくれている。筆者の他の著書とダブルところもあるのだが、ここらは復習を兼ねて読んでおこう。最近、よく起きる「児童虐待」や「毒親」の行動についても、脳科学的に解き明かしてあるので、「雑談ネタ」としてもおさえておきたいところですね。

そして、こういったことを踏まえての「キレた人」への対処として、ケースごとに具体のノウハウが示されていて、例えば「他人の子どもの才能をねたんで嫌がらせをするママ友」には、その妬みの感情が発生している素に着目して

対処法としては、”獲得可能性″と”類似性”を遠ざけるということが有効です。
しかしながら、性別や年齢などは変えることができませんから″類似性″を下げることは難しいと言えます。
この相談の場合は、多獲得可能性″を下げることが考えられます
″獲得可能性”を下げるための方法は、相手の保護者に「あそこまではできない」「あの娘にはかなわない」と思わせることが最も効果的です

であったり、怒りっぽくなっている老人、特に老親への対処は、老化によって「記憶の定着」が難しくなっていることに着目して

脳細胞は使わないと定着ができないので、前頭葉や海馬に楽をさせないことが重要です。
年をとると、だんだん人とコミュニケーションをとるのが億劫になったりしますが、どんどん新しい人に会うなど、認知負荷がかかることをやらせてあげるとよいでしょう。
(略)
さらに、精神を安定させ、脳の機能を高めるセロトニンを分泌させるために、セロトニンが増える食べ物を食べさせるなど、脳の栄養を補うように心がけましょう。
セロトニンを分泌させるためには、その材料となるトリプトファンを摂取するため、肉やナッツは積極的に食べさせましょう

といったことが有効であるようです。お悩みの方は試してみるとよいでしょう。

このほか、「最近、キレやすくなってるな」と思い始めている人に向けての自分でできる処方箋であるとか、他人にいいように利用されないための「キレる方法」とかもアドバイスされているので、ここらは原書で確認してくださいな。特に「日本人はキレることも喧嘩も慣れていません」と本書にもあるように、うまく「キレる」ことを覚えないと、グローバル社会の中では損することが多いようなので、海外とのビジネスが多くなる若いビジネスパーソンはぜひとも身に付けておきたい「テクニック」といえますね。
ちなみに、うまい「キレ方」の例として、筆者は「深夜のダメ恋図鑑」という人気漫画の会話例を推奨しているので、興味のある方は読んでみてもよいかも。Amazonのレビューでは「悪口が過ぎる」という評判もありますが、当方が読んだところでは、毒を含んだ「切れ口」が堪能できます。

【レビュアーからひと言】

「和をもって貴しとなす」の時代は遠くなってしまったようで、「キレる」人が日常茶飯事的に出現し、さらには喧嘩慣れしているグローバル・ビジネスの渦の中に放り込まれている環境の中では「キレる」ことへの対処法も、大事な処世術の一つとなってきているようだ。
本書を読んで、その一端でも身に付けておきたいところですね。

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