脳科学と行動経済学のコラボで現代人の悩みを解決しようー真壁昭夫・中野信子「脳のアクセルとブレーキの取扱説明書」

シロート的にみると、脳科学と行動経済学という、およそ交わることがないだろう学問分野の第一人者である二人の筆者が、新型コロナ感染症の拡大で、生活スタイルがビジネススタイルが大きく、しかも一挙に変化する中で、現代人が抱える悩みについて、それぞれのポジションからアプローチし、コラボした解決方法を提示してくれるのが本書『真壁昭夫・中野信子「脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略」(白秋社)』です。

構成と注目ポイント

構成は

まえがきー現代人の悩みを解消する最高の組み合わせ
第1章 脳のブレーキと二次レイヤー
第2章 マーケットを脳科学で分析すると
第3章 脳の本質を見極めたマーケティング術
第4章 人も相場も「見かけが9割」なのだ
第5章 体も脳も育てる脳内物質と危険な愛情の関係
あとがきー人生の転換点で役立つ脳のアクセルとブレーキ

となっていて、例えば第一章では、「欲求を我慢できる「ブレーキ」を持った人のほうは所得水準は高い」といった研究結果などを題材に「欲求に対するブレーキが人生成功の鍵となるか」や、第二章では「バブルはなぜ起きるのか」といった、誰しもが関心のある成功の秘訣や社会事象について、行動経済学と脳科学の立場から分析・議論していくという設定です。

こうした異なる学問領域の専門家による「自由な対談・議論」の持つ魅力は、それぞれの専門分野の知識・ナレッジが、化学反応を起こしていくところで、例えば、中野信子先生が

一次の学習にしたがって、自分の行動計画を建てることは、必ずしも間違ったことではありません。が、「その成功体験が、もしかしたら間違っているかもしれないですよ」と感じる二次レイヤーを人間が備えたというところが、他の動物たちと違うところです。
(中略)
そして、この成功体験の二次レイヤー上手に管理できる人が、人生で成功できるというわけです。

という脳科学者の立場で論じれば、真壁昭夫先生は行動経済学の立場から

中野先生がいわれる「その成功体験が、もしかしたら間違っているかもしれないですよ」と感じる二次レイヤーを、経営者を持っているかどうかが重要なのです。
(中略)
私は、日本経済が一九九〇年代以降、ずっと低迷を続けてきた最大の理由は、過去の高度成長期の成功体験にしがみついいたまま、新しいことに踏み出せなかったことが一つの要因ではないかと思います。

と応じて、人間が進化の過程で獲得した動物より優れた形質を備えている度合いが、日本経済の長引く「不況」の原因であることを見抜いたり、

人類の歴史には常にバブルが存在しており、「人類の歴史=バブルの歴史」といってもいいくらいです。買いが買いを呼ぶような状態になると、買えば常に儲かりますから、このサイクルがしばらく続くわけです。

という経済活動の「バブル現象」が

実は、皆と一緒にいることを好む性質は、人間の本質的な特性でもあります。人間は他の生物に比べて丸腰での戦闘能力は低く、肉体も脆弱なので、群れを形成したほうが生き残りやすくなるのです。
(中略)
何万年もかけてこの性質が強化されてきた結果、私たちは「ぼっち」でいることを襲える性質をいまだに持ち続けています。私たちが、仲間とともにいることが自然だと感じてるのは、理由のないことではないのです。

と、「善悪」あるいは「何か」に踊らされたり浮かれて「バブル経済」が起きるのではなく、人間の脳の本質に根差した原因が隠れてていることを示唆してくれていて、私たちの認識に、新鮮なショックを与えてくれています。

さらに、第四章の「パチンコにタバコに酒ーやめられない人にはどうする?」の節の

そもそも何かを禁止されると、その禁止されたものに注意が向きます。
(中略)
「してはいけない」といわれると、「背外側前頭前皮質」がブレーキをかける状態を頑張って維持しているのに、その頑張りを維持できないほど、禁止されている物事への期待度が高まってしまうのです。
ですから、本当にそれをしてほしくないときには、「禁止」という形委で注意を向けさせてはいけません。

というところを読むと、ギャンブル中毒になっている人に対する記述とはわかっているのですが、度重なる「禁令」の呼びかけで、その効果が薄れていく政府の「新型コロナ対策」に思いがいってしまうのは私だけでありましょうか。

このほか、最初に示された数字が条件が基準となって、その後の判断が無意識のうちに左右されてしまうという行動経済学の「アンカリング理論」や「人間はせいぜい一桁のものの中からしか選ぶことができない」という人間の脳のワーキングメモリ―の数の話ですとか、新型コロナ下で見られた「自粛警察」に心理構造などの私たちの身近な行動が、行動経済学理論や脳科学でわかりやすく分析もされているので、専門的知識がなくても楽しめるつくりとなっています。

レビュアーから一言

本書の最後では、

本書は、不確実性が高く、不安心理が惹起されやすい現代に、自分の欲求に対し、きちんとアクセルとブレーキを踏み分けることの重要性について触れてきました。
災厄の時ぢ兄は、政治リーダーが「利他的」であることを積極的に呼びかけ、集団が一致団結しようとする性質を利用して、自分たちの権益を守ろうとすることもあります。

と警告しています。人類が未だかって経験したことのない状況の中にあるからこそ、人間心理や脳の特性によって陥りがちなことをしっかりと把握して行動していくことの重要性を新ためて教えてくれる一冊です。

脳のブレーキとアクセルの取扱説明書: 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略
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