ナンバーワン・メイドの幽霊とオタク警官、無教養イケメン警官の「アキバ」ミステリー ー 西條奈加「秋葉原先留交番 ゆうれい付き」

幽霊になってしまったメイド・カフェのナンバーワンの渡井季穂が、秋葉原駅から徒歩七分ほど、中央通りを西に折れ、蔵前橋通りに面した「先留交番」に駐在する警察官二人と彼女が死んだ真相と秋葉原に起きる数々の事件の謎を、解決していくのが本書『西條奈加「秋葉原先留交番 ゆうれい付き」(角川文庫)』である。

なんの因果か、季穂の幽霊姿は「足」だけになってしまっていて、ナンバーワン・メイドの魅力は全く発揮できない上に、出会った二人の警察官は頭脳明晰ながら、オタクで、風貌は「メガネトド」という警察官・土橋と、女性にモテモテのため、とあちこちでピンク・トラブルを起こすイケメン・教養少なめ警察官・向井という、個性あり過ぎのメンバーと繰り広げる、ちょっと変わった「アキバ・ポリス・ストーリー」である。

【収録と注目ポイント】

収録は

「オタクの仁義」
「メイドたちのララバイ」
「ラッキーゴースト」
「金曜日のグリービー」
「泣けない白雪姫」

となっていて、第一話の「オタクの仁義」は、足だけの幽霊になったしまった季穂と秋葉原先留交番に駐在するオタク警察官・土橋と、女性問題で謹慎中の無教養イケメン警察官・向井が出会うところからスタート。まずは異色のキャストの登場である。
で、第一話の事件のほうは、有名フィギュアのひったくり事件。オークションで落札した被害者が、品物を受け取った後、秋葉原内の雑居ビルでそれを脅し取られる、というものだのだが、同様のフィギュアひったくり事件がほかでも2件起きていることで一挙に連続事件の様相を見せ始める。しかも、同一の出品者から出されたフィギュアであることがわかり・・・、という筋立て。お見込みの通り、フィギュワ・オタクの絡む事件なのだが、犯行動機も、解決策もオタクらしいのが「アキバ」テイストといったところですか?

第二話の「メイドたちのララバイ」では、季穂が「桃飴屋(ピンク・キャンディー・カフェ)」でメイドになった経緯や、「玲奈」という芸名で、クールビューティー系の売れっ娘だったといったことがわかってくるのだが、メイソカフェ基礎知識篇的なところもあって、初心者には嬉しい。
事件のほうは、「萌え系・童顔」で「胸の大きい」メイドさんたちが連続して、抱きつき魔に襲われる。後ろから抱きつかれて、胸を揉まれるという犯行なのだが、めいどさんたちの危機を救うため、オタクたちによって「自警団(ガーディアン)」が組織されるところが現代的である。ところが、抱きつき魔の犯行は、ガーディアンが見回りするエリアを微妙に避けて起きる。どうやら、ガーディアン内に、犯人か犯人の関係者がいるのでは、という疑いが出てきて・・・という展開。犯人をおびき出す囮捜査のあたりに、季穂を幽霊にした犯人の手がかりも隠れているようですね。

第三話の「ラッキーゴースト」は、季穂がアキバの街で出会った父親と息子の「愛情ストーリー」。その父親はギャンブル狂で、妻から離婚された後、仙台で働いている時に事故死して幽霊になっている。そして、幽霊になって東京へ帰り、そこで再会した息子・輝の登園拒否を治すのだが、「輝」が最近、父親の姿が見えにくくなったと訴えはじめる。息子に見えなくなる前に、幽霊の父親を息子を「不忍池」近くの公園につれて行きたがるのだが、その理由は・・、という筋立て。ダメンズの父親が、妻と息子を思いやるあたりにちょっとウルウルしますね。

第四話の「金曜日のグリービー」と第五話の「泣けない白雪姫」は、季穂が幽霊になった理由がこの二話で明らかになる。
とはいっても、クールビューティー系の美人メイドを自分のものにしようとしたオタクが彼女を襲って、、、と想像していたアナタ・・・

違います。

事件の真相は、季穂が、学生時代に封じ込めていた、学内の「イジメ」事件に発端の原因が一つと、姿を消してしまった彼女の母親と季穂の家出をしなければならなかった理由(季穂の父親が根本の理由なんだけどね)がもう一つの複合的なもの。「幽霊になった」と書いたのは、単純な「殺人」ではないからなのだが、ネタバレはここまで。本書の肝となる謎解きなので、ここから先は原書で確認してくださいな。

【レビュアーから一言】

結末のほうは、ちょっと物悲しくて、謎が解けてもハッピーエンドという訳にはいかない。ちょっとモヤモヤ感は残りますね。
ただまあ、オタクのメガネトド警官と無教養イケメン警官と仲良くなって、季穂ちゃんも幽霊になりながらも「元気」になったようなので、良しとしておきますか。

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