仕事ができる人ほど身に着けたい「聞く」技とは ー 澤村直樹「聞き上手の法則 (NHK出版 生活人新書)

「仕事ができるのは認めるけれど、こっちの言うことを遮ぎって自分の主張ばかり」や「話をどこまでs真剣に理解しようとしてくれているのかわからない。」などなど、職場の人間関係がぎくしゃくしたり、コミュニケーションがうまくいかない原因の多くは、「相手の言うことをよく聞かない環境」にあることが多い。

そんな大事な「聞くこと」について臨床心理カウンセラーでもある筆者によって

聞き方は、話し方以上に人間関係を左右する。
ちょっとしたコツを掴むことで、誰でも聞き上手になることができる。

として、「そのコツを15にまとめ、分かりやすく解説」してあるのが本書である。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに
1 相手の「得意なフィールド」を尊重する
2 自分の「承認欲求」と「防衛反応」を知る
3 話し手が使ったキーワードを共有する
4 無能なって聞き、無知になって終わる
5 相づちは「話し手のトーン」に合わせる
6 「同調効果」の実用的な使い方
7 相手の意見を「受容」でいてから「共感」する
8 言葉の意味よりも「気持ち」に耳を傾ける
9 求められていないアドバイスをしない
10 話し手の存在価値を大きく感じさせる
11 前向きさを取り戻させる技術「リフレーム」
12 「見えない言葉」で相手の気持ちを伝える
13 話し手のキャラクターを尊重する
14 相手が「評価してほしい部分」を評価する
15 「聞き方のクセ」と「心のクセ」を知る
【付録】「聞き方のタイプ」を知る簡易エゴグラム

なっているのだが、本書の特徴は、いわゆる「理屈」によるアドバイスではなく、筆者のカウンセラーとしての経験を活かしたアドバイスがされているところで、例えば

私がカウンセリングや傾聴の勉強をしているときに出会った考え方で、もっとも納得し、今でも人の話を聞くときに気をつけているのは、「無能になって聞く」ということです。
本書でここまでに挙げてきた悪い例を見ても、会話がギクシャクし始める一つのパターンは、「聞き手が有能感を出そうとしたとき」であることが分かると思います。

であるとか

話し手が聞き手に好意や信頼感を持つのは、言葉足りない部分を補ってもらったり、的確なアドバイスをしてもらったりしたときより、まず自分の話すベースや雰囲気を大事にしてもらったときではないでしようか

といったあたりは、相談をもちかけたはずなのに、上から目線で「聴取」される経験を思い出して、「そうそう」と頷く方も多いのではないだろうか。このあたりは、聞き手のスタンスといいうものにも関わってきて、どうかすると、相談者、話し手に張り合う気持ちがもたげてくるところなのだが、筆者によれば

「無能になって聞き、無知になって教わる」という傾聴スタイルの最大の利点は、相手に自然な形で優越感を持ってもらえることだと思います。
その優越感も、「この人といると居心地がいい」という印象につながる大切な要素です。
話し手に優越感を持ってもらうことは、決して「負ける」ことではありません。
それは人間関係における絶対的な上下関係ではなく、話し手と聞き手の役割の違いです

ということで、「良い聞き手」であろうとすれば、グッと堪えねばならないところであるらしい。とはういうものの

「うんうん―」「そうですよねえ!」といつた大げさすぎる相づちを打ったり、無理やり言葉のバリエーションを増やしたりするのも、相手にとって話しやすい雰囲気をつくることにはつながらないかも知れません

であるようなので、「心のこもらない」対応は、簡単に見透かされるということであろうか。

さらには

「受容←共感」というプロセスは、人間関係を深める上で極めて重要なものですが、この順番を逆にしようとすると、不思議なほど上手くいかないことが多くなります。
つまり、「共感←受容」という順番で人間関係を深めるのは難しい。
相手の価値観や物事の捉え方をよく聞く前に共感を深めるには、「自分はこう思うから、相手もきっとこう思うだろう」と思い込むことが必要になり、それが誤解の元になるのです

であったり、

話し手の気持ちを受け止めるときには、「求められていないアドバイスをしない」ということも重要です。
それがなぜ良くないのかは、求められていないアドバイスをしたくなるのがどんなときか考えてみると分かると思います。
それは、有能感を出そうとしているとき、相手の能力を低く評価しているとき、相手の話を聞くよりも自分が話したいとき、のいずれかである場合が多いのではないでしょうか

といったところは、相手の言いたいことを聴いているはずが、いつの間には自分の考えを主張している、いわゆる「デキる人」がよく陥入りがちな事態。特に仕事のできる人は、相手の言うことも半分も聞かないうちに結論を出してしまいがちなので、要注意ですね。

このほかにも

話し手の目を見ることが苦手な人は、目の色を見ようとするといいと思います。
目線を合わせられないのは、じつは相手の目を見ることが苦手なのではなく、自分の目を見られることに抵抗感がある場合が多いので、「目の色を見る」という具体的な目的を持つことで、「見られる側」から「見る側」に意識を変えやすくするのです

といった具体的なテクニックもあちこちに紹介されているので、「理論」より「使える手法」を求めている人向きの「聞く」ためのノウハウ本を求めている方におススメでありますね。

【レビュアーからひと言】

方向性が見えない、あるいは価値観が乱立している現在ほど、「人の話を聞く」ことが大事になってきている時はないように思う。特にステークホルダーがたくさんいるビジネス環境の中で、よりベターな選択肢を選ぶことが求められるリーダーには「聞く技術」が必須のものになっているといっていい。
そうそう簡単に身につく技術ではないので、こうした「実践書」で、感覚を磨いていくことが一番の近道であるように思います。

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