上手な「キレ方」は、一級の交渉術 ー 中野信子「キレる!」<その2>

中野信子さんの「キレる!」では、相手になめられたり、相手の都合のいいように利用されて、自分だけが損をしないために、「適切な場所で、適切な相手に、適切にキレる」ことを推奨しているのだが、この「適切にキレる」コツを、交渉術の観点から、その効果を検証してみた。

「交渉術」については、いろんな流儀が乱立している状況でちょっと迷うところなのだが、「藤沢晃治氏の『「交渉力」を強くする(ブルーバックス新書)』という本では

〇交渉に新青する10の原則
〇交渉の五大原則
〇交渉で勝つための16の基本原則

がアドバイスされていて、その3つ目の「交渉で勝つための基本原則」として

①欲しがらないふりをせよ
②交渉決裂の恐怖に耐えよ
③正しい根拠で主張せよ
④相手の期待値を下げよ
⑤巧みにふっかけよ
⑥効果的に脅せ
⑦相手をあせらせよ
⑧相手の話はよく聞け
⑨相手に共感を示せ
⑩相手を助けよ
⑪「相手の譲歩案」を自ら提案せよ
⑫自分の譲歩は高く売れ
⑬譲歩は小出しにせよ
⑭成果を欲張るな
⑮第三の道を探せ
⑯メールだけの交渉には注意せよ

があげられている。

この「交渉術のキモ」的なところが一番奇をてらっておらず、網羅的で、なおかつオーソドックスなようなので、これを使わせてもらうことにしよう。

(それぞれの基本原則の詳細については原書のほうで、具体の事例を引用して、悪い交渉と上手い交渉とを例示してあるので、興味ある方は原書のほうで)

まず、「キレる!」のP160に

日本はみんなと仲良くすることがプライオリティの高い文化なので、正々堂々ハンドの優劣で勝敗を決めるというのが、”正しく”て、駆け引きやはったりで相手にゲームを棄権させるのは”狡い”という思いがあるのかもしれません。
しかし、ポーカーはゲームです。勝ち負けが目的ですから、勝つために使われるクブラフ″は、戦略的に、強く自分の意思を相手に伝えるもので、つまり戦略的に多キレるクことと同じコミュニケーションテクニックだと言えます。
(略)
カモにならないための方法としては、相手がはったりできたときに、降りるばかりでなく、勝負できるかどうかを見極める冷静な計算力を持つことです。

という記述があって、これが「上手にキレる」ためのコツの一番目。要点は、相手のブラフに動揺することなく、またブラフに対して、正しいか間違っているかといった「正悪」の基準でなく、冷静に戦力分析しなさいよ、ということで、「勝つための交渉術的には、

①欲しがらないふりをせよ
⑤巧みにふっかけよ
⑧相手の話はよく聞け

あたりが該当しているようですね。まあ、相手の戦力や戦術をきちんと把握して、自分のそれと比較しておくのは基礎中の基礎といえるようですね。

次にP105から書かれている「上手なキレ方」のコツの二番目

日本人はキレることも喧嘩も慣れていません。
″喧嘩はいけない″という文化ですからナイーブで、キレられたときの対処が訓練されていません。日本人は反論されるとシュンとなってしまい議論も苦手です。
(略)
”人を論破する!のではなく、”論”を破る、”主題を論破する”のです。
(略)

勢いや激しさで相手を黙らせることではなく、攻撃した相手が「なかなかやるね」と一目おいてくれたり、この人は言う時には自分の意見を言うのだ、という”あなどれない人間”だという見方をされるキレ方を目指しましょう

気持ちでキレても言葉ではキレない

というところは

⑨相手に共感を示せ
⑩相手を助けよ

あたりでしょうか。こちらの要求のキモをのませたり、相手がこちらの領分を侵略してくるのを止めればよいことなので、相手をせん滅してしまうことが目的としていけません。

そしてP174の

キレていても相手をフォローするひと言を忘れない

やP180の

キレるときに、相手の人格ではなく、相手の行動だけを否定する

はまさに

⑩相手を助けよ
⑮第三の道を探せ

といったところですね。

こうしてみると、「上手にキレる」戦術は、上手な交渉のキモをおさえていることがわかります。「キレる」ことを自分の感情表現の一手段の側面だけでとらえておくのではなくて、「交渉」のテクニックとして、技術を磨いておくのがよいようですね。

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