日本人の「判官びいき」と「協調性」を脳科学的にみると・・・ ー 中野信子「空気を読む脳」

「サイコパス」「いじめ」「不倫」などに、「脳科学」の立場から、先鋭的かつ刺激的なな分析と論考を展開して、「脳科学」ブームを巻きおこした筆者による、日本人が他の国の人々と違っているとされる様々な特徴について、文化論的なウェットな観点ではなく、脳科学、脳内物質の視点から「ドライ」に解き明かしてみせたのが本書『中野信子「空気を読む脳」(講談社+α新書)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに
第1章 犯人は脳の中にいる~空気が人生に与える影響とは?
 ”カミカゼ遺伝子”は脳内に現代も息づいている
 日本人はなぜ「醜くても勝つ」」より「美しく負ける」を好むのか
 ブランドを身に付けると、なぜ「人生で得をしがち」なのか
 日本人は富裕層になれても大富豪にはなれない?
 不倫もバッシングも脳や遺伝子に操られているのか
第2章 用紙や性へのペナルティ~呪いに縛られない生き方
 女性の容姿への「残酷な心理実験」が映し出す現実社会
 女という「呪われた」性で「婚活」に苦しむ日本人女性
 レールを敷く親ーー子どもを蝕む「毒親」とは?
 同性愛の科学ーー”生産性”をめぐる議論
第3章 「褒める」は危険~日本人の才能を伸ばす方法とは?
 失敗を恐れる脳ーー日本人はなぜ「挑戦」しなくなったのか
 なぜ報酬がいいとヤル気や創造力が減退してしまうのか
 「すぐに返信しない男」と「既読スルーを我慢できない女」
 「超一流」が育ちにくい時代に才能を伸ばす脳の育て方とは?
 20代までも成長し続ける脳が味わう試練と、その助け方
第4章 「幸福度が低い」わけがある~脳の多様すぎる生存戦略
 日本人の脳をつくったのは、環境か遺伝子か?
 「弱み」は人間の生存戦略上なくてはならない
おわりに

となっていて、まずはじめに出てくるのは、日本人が特攻に象徴される「カミカゼ」攻撃にいきやすいのは

これまでは攻撃性の高い人が、拒否率が高いと思われていたのですが、そうではなく、むしろ逆に協調性の高い人で拒否率が高いことがわかったのです。
つまり、普段は誰かのために自己犠牲をいとわず真面目に働く、という人が、いったん不公平な仕打ちを受けると、一気に義憤に駆られて行動してしまうのです。自らの損失を顧みず、どんな手を使ってでも、相手に目にもの見せてくれようと燃え立ってしまうというわけです。
そして実は、日本人の脳にあるセロトニントランスポーターの量は、世界でもいちばん少ない部類に入ります。

と、精神の安定や安心感の源で、それが不足するとストレスや不安がます「セロトニン」を取り込む「セロトニンサポーター」の密度が日本人は低いため、不安な状態に陥りやすい傾向にあるせいだと分析したり、日本人の「「判官びいき」や「「美しい敗北」を好む性向が

美を感じる脳の領域は 前頭 前 野 の一部、 眼窩 前頭皮質と 内側 前頭前皮質だと考えられています。眼窩前頭皮質は前頭前野の底面にあり、眼窩のすぐ上に当たる部分なのでこのように名づけられています
(略)
美しい、美しくないという基準と、利他行動、良心、正邪、善悪等々は理屈のうえで考えればまったく別の独立した価値なのですが、脳ではこれらが混同されやすいということが示唆されるのです

と実は、脳の構造的なものからきているのでは、といった論考は、人間の意識や美意識といったことに抱いている「幻想」をあっかえらかんと破壊してくれて、むしろそう快感があります。

さらに、

ギャンブルに熱くなりやすい、なりにくいで言うと、日本人は比較的熱くなりにくい性質を持った人が多くいる集団です。日本人にはドーパミンの要求量の低い人がほとんどで、高い人の割合は全体の1~5%であることがわかっています。
この人たちは「新奇探索性」といって、リスクを冒してでも新しいものごとや未知の世界に触れたいという性質のきわめて強い人たちです。中国や韓国では日本よりはこうした人たちの割合が多いのですが、東アジア全体で見ると、世界的に多い地域というわけではありません。

といったあたりでは、日本でカジノ法やIRがいまだに認知されなかったり、嫌われていることが多いわけを明らかにしてくれているようであるし、

性的魅力を持っていることと仕事上の評価や成功との関係は、そうクリアには決まりません。複数の研究が、「女性では容姿の良さがマイナスに働き、美人は平均的な女性よりも損をしてしまうことがある」としています。
外見が良いことで性的類型化が起こりやすくなります。このことは男性では有利に働きます。
(略)
一方、女性はそうではありません。「女性的」であることは少なからず消極的であり、堂々としておらず、意欲や決断力に欠け、セクシーすぎる、と偏見を持たれてしまいます。あるいは、そうであるべきだという暗黙の圧力が、異性からばかりでなく同性からも加えられます。
(略)
1979年にコロンビア大学ビジネススクールのヘイルマンとサルワタリが行った調査(では)・・・美しい女性はコミュニケーション能力が必要とされる職種では高く評価されるが、それ以外の場、たとえば決断力を必要とし、強いプレッシャーがかかっている中、高い指導力を発揮して難局を切り抜けていくといった場面では低評価となる」

といったあたりを読むと、美しい女性に対して抱いてる我々の常識にどんでん返しをくらわされますね。

このほか、人は褒めたほうが成長するのかどうか、といったことや、国力や生活レベルが世界有数であるのに、日本人の幸福度はなぜ低いか、などについて、文科系的でないアプローチがされていて刺激的な話が続くので、ありきたりの議論に飽きている「文系脳」の方は、ぜひおご一読ください。

【レビュアーからひと言】

東大出身で医学博士号をもつ輝かしい学歴の持ち主で、美しい容姿にも恵まれていて、その明晰なものいいでマスコミでも注目されている筆者なのであるが、本書の「おわりに」で語られる

まったく論理的ではない原理に基づいて、世界中のあらゆる場所で、みんなが完全に無地下記に行動している。分析的に観察することすら白い目で見られ、許されない。みんなが学ぶ「それ」に、自身が異質であることだけで苦しめられる。

と、集団から浮いて、疎外感を抱いていた若かりし頃の「カミングアウト」は興味深いです。筆者の意外な「開き直り」ぶりに元気づけられる人も多いのではないでしょうか。

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