「親子関係」に悩む全ての親と子に読んでほしいー中野信子「毒親」

悩んでいても、他の人や家族に相談できないのが、「自分と親」あるいは「自分と子ども」との親子の人間関係ではないでしょうか。とりわけ、今までの家族関係が揺らいでいる今、あらためて「悩み」を深めている人も多いと思います。
そんな現代的な人間関係の課題に、「サイコパス」や「不倫」など、脳科学者の立場から、様々な人間心理を捉えなおしてきた筆者が

家族関係や人間同士のつながりが、ネットの登場やテクノロジーの発展により大きく形を変えようとしている今、ふたたび、科学によって人間関係を冷静に捉えるここr身を振り返る必要があるのではないでしょうか。
そして、この人間関係の基本にあるのが、まさに親子関係なのです。

という視点で、自らの経験を振り返りながら「親子関係」を分析したのが本書『中野信子「毒親ー毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ」(ポプラ新書)』です。

構成と注目ポイント

第1章 子を妬む母
第2章 愛し方がわからない父
第3章 愛が毒に変わるときー束縛する脳
第4章 親には解決できない「毒親」問題

となっていて、こうした「親子の関係」の分析というつ、まず「親」の行動であるとか心理構造に目がいくのですが、本書では

毒親、というのは、「自分に悪影響を与え続けている親その人自身」というよりも、「自分の中にいるネガティブな親の存在」といったほうが適切かもしれません。

として、現実的な「毒親」をどうするか、というよりも、自分がどう振る舞い、毒親に対処するか、という視点からのアドバイスになっているところが特徴的です。つまり「親側」の

虐待する親は、子を調子に乗らせててゃいけない、という感情を、ごく自然な感情とし自認しているのです。

というパラドックスへの対処法ともなっているように思えます。で、こうしたスタンスからのアドバイスは

家族は仲良しでなければいけないというのは根強い考え方だけれども幻想だということです。仲良きことは美しきことだと数学の定理のように決まっているわけではありません。

であったり、

本来なら、理想的な形としては子どもを守って育て上げるための仕組みである家というユニットが、機能不全に陥り、却って凶器になってしまう。その理由が、家というものの価値が高すぎ、絆が強すぎるため、というのは皮肉です。

と言った感じで、今までの「家族制度」や「親子意識」に辛口になってしまうのはしょうがいないところなのでしょうか。

ただ、最終章で「毒親育ちである自分を解放できるのは、親ではなく、自分自身であるということを私は言いたいのです」という、自助論的な宣言はされているのですが、本書の

毒親によって傷つけられてしまうのは、目に見えない絆だけではなかったのです。実際に、脳も傷ついてしまっていることが、現在では明らかになってきたのです。そして、できてしまった脳の傷は、学習意欲の低下やうつ病等の原因になることがあります。
脳内で傷を受けてしまう場所としてわかっている具体的な領域は、幾つかあせんとようたいりますが、そのうちでも線条体と呼ばれる脳の領域に与える影響は重要なものです。
この部分の働きが弱くなると、やる気や意欲など、前向きな気持ちがなくなっていってしまいます。

であったり、

子どもたちは特定の養育者でなく、不特定の複数の大人によって世話を受けると、自分が愛情を示すべき相手が定まらなくなり、やがて感情や情緒の表現をしなくなってしまうというのです。また、こうして育った子どもたちは、大人になってからも誰とも親密な関係を作らず、関係を築こうと近寄ってくる人に対して回避的に振る雑います。

といった実験結果を読むと、自らが主体的に取り組むアプローチも、脳科学的あるいは心理学的な知識をもちながらのものでないとうまくいかないように思えてきます。

レビュアーから一言

親子の心理関係の軋轢や諍い、あるいは虐待心理については、「親」の心理分析の方向からなされるものは増えていると思うのですが、親子という非常にウェットな話であるため、「子」のベクトルからされているものや、「子」として「毒親」問題にどう向き合うか、という側面から論じられているものは少ないように思います。本書が、その貴重な一冊となっていることは間違いないので、「親子」関係に悩む人は、一度目を通しておいて損はないと思います。

Bitly

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