カルチャースクールは謎でいっぱいー円居挽「日曜は憧れの国」

学園ミステリーの舞台というと、定番のところは「学校内」で、ちょっと変化球のところでもクラブ活動の部室とか遠征先というところまで、主人公の多くは高校生で、ちょっとはずして大学生というのがフツーなのですが、舞台は東京都内の民間カルチャースクール、主人公は、家庭環境も性格も全く違う4人の中学生が繰り広げる「日常の謎とき」ミステリーが、円居挽の「日曜は憧れの国」(創元推理文庫)です。

収録と注目ポイント

収録は

「レフトオーバーズ」
「一歩千金二歩厳禁」
「維新伝心」
「幾度もリグレット」
「いきなりは描けない」

となっていて、物語は、都内の中高一貫のお嬢様学校の中学二年生「暮志田千鶴」が四谷にあるカルチャーセンター「四谷文化センター」の料理教室の体験講座に出席するところから始まります。大人しくて、スポーツもそこそこ、勉強もそこそこという、平凡過ぎる娘に何か特技を身に着けさせようとして、このスクールのお試しの体験チケットを使って娘にいろんな経験をさせようという意向のようですね。
で、「千鶴」がこのカルチャースクールで出会ったのが、同い年の、明るい性格で勘が鋭いが、見た目は小学生と間違えられる「先崎桃」、お調子者をきどりながら実は計算高くて要領のよい「蒲原真紀」、スタイルバツグンの美女ながら、かなりKYなお嬢様「三方公子」という三人の中学生です。この4人の女子中学生が、メインキャストを入れ替えながら、このスクールでおきる「日常の謎」を解いていくというのが本シリーズです。

第一話「レフトオーバーズ」

第一話の「レフトオーバーズ」はシリーズ最初の話なので、シリーズのメインキャストとなる4人の紹介と、カルチャースクールの様子など出だしのところから始まるのですが、謎解きは、4人が講座をとった料理教室でおきた、お金の盗難事件です。

講座生の主婦グループと高校生グループの感情的ないさかいで起きる事件なのですが、謎ときのほうは、その後始末で、講師が弁償して事を収めた理由です。講師謝金もそんなに多くないはずなのに、なぜそこまで・・という謎ですね。

謎解きのヒントは、この料理教室では、用意されている食材を各グループがチョイスして料理をする、という仕組みになっている、というところです。ちなみに「レフトオーバーズ」は英語で「残り物」の意味ですね。

第二話「一歩千金二歩厳禁」

第二話の「一歩千金二歩厳禁」で4人が二番目にとった「将棋教室」での出来事。

その教室で、講師の孫の女子小学生・駒子が対戦相手になる「多面指し」に4人が挑戦するのですが、英才教育で幼い頃から将棋をプロの祖父から習っている「駒子」に「桃」があやうく勝ちそうになります。「桃」はあまり裕福でない実家のことを慮って、成績の良かった有名私立中学受験の塾をやめたり、家計に負担をかけないようお小遣いを断ったり、とても「良い子」なのですが、気を回しすぎて墓穴を掘ってしまう傾向があります。さて、駒子に勝ちそうになった桃がとった手は・・、という展開ですね。

気を回しすぎる「桃」の思いもかけない失敗が描かれます。

第三話「維新伝心」

第三話の「維新伝心」は、三番目の受講した「歴史教室」で、講師が倒れてしまうトラブルが起きるのですが、倒れなければ何を講義しようとしていたのか、という謎解きです。

その講座では「江戸幕府」の歴史を振り返るものだったのですが、幕府というシステムについて「完成させた者」「維持した者」と話し、最後の「崩壊させた者たち」というところで倒れてしまった、という筋立てですね。この謎解きは、講師が最近まで、このカルチャースクールの理事をしていたのを、親会社の意向でその地位を追われた、という伏線とともに進んでいきます。

この謎解きで、人生をゲームと割り切って、要領よく渡っていくことを第一優先にしている「真紀」が自分の処世術を疑い始めることになります。

第四話「幾度もリグレット」

第四話の「幾度もリグレット」は小説の創作講座でのお話です。

その講座は美人で成績優秀な優等生の文学少女・三方公子のチョイスだったのですが、そこで出された課題は、講師の出した短い物語の「その先」を書け、というものですが、その講師が尊敬する現役小説家なので、彼女に注目されようと「公子」はあれこれ悩んで文章をつくろうとするのですが、思うように仕上がらず結局、未提出に終わります。

そして、講師から一番の出来と褒められたのが、大人しくて、いつも自身のなさそうな「千鶴」の文章で、公子はすっかり自信をなくしてしまいます。しかし、実は、公子が自覚していない彼女の「弱点」が分かれ目になっていて・・という展開です。

第五話「いきなりは描けない」

最終話の「いきなりは描けない」では、いままで同じ講座を受講していた四人がそれぞれ別の講座を受講することになります。

それは、彼女たちが、最後の1枚のチケットでどの講座を受講するか相談しているときに、飛んできた、「たすけて」と文字の書かれた鉛筆画を誰が描いたか、の謎をとくため結果としてそういうことに。その絵の出どころを突き止めるため、千鶴が気象予報士講座、桃がペ^パークラフト講座、真紀がスケッチ講座を順番に受講して、謎を徐々に崩していきます。

そして、最後にバトンを託された「公子」はその絵の作者のところを訪ねるのですが・・、という展開です。公子が最後に残ったスクールの受講チケットをとう使ったか。は原書でのお楽しみに。

レビュアーから一言

性格も全く異なる4人の女子中学生がカルチャースクールで偶然に出会い、それぞれの欠点を自覚しながら、それぞれに刺激し合いながら成長していく物語なので、キャストのそれぞれが不器用に頑張っていく姿に自分の昔の姿を思い出して、今の自分のエールを贈りたい人にはもってこいのミステリーだと思います。殺人とか第事故のような血なまぐさいところはないので、サスペンスが苦手な人にもおすすめですね。

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