悪徳弁護士・御子柴礼司が 保険金殺人裁判をひっくり返すー中山七里 「贖罪の奏鳴曲」

少年期に少女誘拐殺人の犯罪者となり、少年院入所。出所後、司法試験に合格し、弁護士となって、高額な報酬と引きかけにどんな相手の弁護も引き受けるという異色の主人公・御子柴礼司シリーズの第1弾が『中山七里 「贖罪の奏鳴曲」(講談社文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一章 罪の鮮度
第二章 罪の跫音
第三章 贖いの資格
第四章 裁かれる者

となっていて、まず、御子柴が死んでいる男から上着やズボンを脱がせて、車のトランクに入れて埼玉県に運ぶところからスカートします。狭山市の市街地の中にある市民運動場付近の入間川に死体を遺棄するのですが、わざわざ都内から埼玉県へ運ぶのは、同じ筆者の法医学ミステリー「ヒポクラテス」シリーズででてくる理屈なのですが、このためにこの巻では、「犬養」チームではなく、「埼玉県警」チームが捜査側となります。

この「御子柴」は、どんな悪辣な犯罪者の弁護も報酬次第で引き受けるという評判の弁護士という設定で、これは最初のところで、振り込め詐欺で逮捕されている人物の弁護を引き受けるシーンが描かれているのですが、けして金に目が眩んで引き受けているのではなく、逆に依頼人を脅してリードしているところに注意しておいてくださいね。

で、物語のほうは、御子柴があくどい商売のカモフラージュをするためなのか引き受けている、報酬が少なく、裁判の勝ち目の少ない「国選弁護」の裁判劇へと展開していきます。今回、引き受けているのは、小さな町工場・東條製材所の経営者・東條彰一の保険金目当てに妻・美津子に殺された、という事件です。この経営者は、工場前で製品の積荷の倒壊事故にあい、意識不明の重体になっていたのですが、闘病中に生命維持装置の電源が切れ死亡した、というもの。脳に障害がある十八歳の息子・幹也の将来の生活費と治療費のために、夫にかけていた多額の保険金目当てに、この機械のスイッチを切った、という疑惑がもたれているのですね。機械のスイッチ部分に、この奥さんの指紋もついていて、犯行は間違いないと思われているのですが、まわりまわって弁護がもちこまれてきた御子柴は、なんとかして殺意を否定して無罪を勝ち取ろうと企んでいる、という設定です。

ここのあたりは、依頼人の息子が唯一自由になる左手で、オートマチック化された工場を見事に動かして、実家の正業を切り盛りしている様子や、携帯によって「会話」をする場面など、健気に「家」を支えているシーンが描かれていて、御子柴が「金で動く」だけの弁護士ではない印象をあたえてくれます。

ここで、最初の被害者が取材のターゲットから金をむしり取っている札付きのジャーナリストであることが判明し、中山七里ミステリーのレギュラー出演者である埼玉県警捜査一課の渡瀬と古手川が、この事件の捜査にあたります。そこで、 そこで、このジャーナリスト・加賀谷が、前述の 東條製材所の取材をしていたというところから、「御子柴」に疑惑を持ち始めます。東條一家にはゆすり取る財産もないので、狙いはそちらではなく、御子柴のほうを強請っていたのでは、ということですね。これは、御子柴に幼女殺害の前科があることが早々にわかるので、まずます疑惑が深まります。

そして、圧巻の場面は、 美津子の無罪を勝ち取るための法廷闘争の場面です。東條彰一の保険について美津子が誘導したという証言を揺さぶったり、事件の時に関する医者の証言の信ぴょう性を下げたり、生命維持装置が停止したことを、彼女がスイッチを切ったことによるのではなく、機械の事故によるものである可能性を持ち込んできたり、とあの手この手で検察側を揺さぶり、裁判官の判断を弁護側へ引き寄せていくところは読みごたえがありますね。

この御子柴の弁護で東條美津子の機器停止による夫殺人の裁判の行方は大きく方向を変えることになるのですが、この機器停止を起こした本当の犯人は意外にも・・・という展開です。

ただ、ここで作者が張り巡らした仕掛けがさらにあって、事件の真相はこのさらに先に隠されているので、そこは原青のほうでご確認ください。

レビュアーからひと言

今巻は、これからシリーズ化される第一弾として、御子柴礼司が犯罪を犯した後、どういう経過で弁護士を目指すことになったのかの回想譚がでてきます。。彼が少年院に入って、院内のイジメや逃亡事件で友人を次々と失い、そして彼が自分の犯した犯罪を後悔し、出所後に弁護士を目指すきっかけとなった教官と出会い、といったところがかなりの分量で描かれています。ここを読むと、彼がなぜ高額報酬にこだわるのか、といったあたりがわかってくるので、読み飛ばさないようにしてくださいね。

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