忘却探偵はアリバイ作りには向かないー西尾維新「掟上今日子の挑戦状」

ショートカットの髪は総白髪、小柄な美人という風貌で、年齢は25歳前後にして、警察から事件を短時間で解決する「最速探偵」として依頼の絶えない「置手紙探偵事務所」の所長。しかし、彼女には、眠ってしまうとその日体験したすべての出来事を忘れてしまうという秘密があります。
なので、毎日、まっさらの状態で事件の依頼を受け、(ほぼ)一日で事件を解決し、しかも事件の内容も謎解きも忘れてしまうので秘密が漏れることのない探偵なのですが・・という「忘却探偵」掟上今日子の「推理」と「活躍」を描いたシリーズの第三弾が『西尾維新「掟上今日子の挑戦状」(講談社文庫)』です

構成と注目ポイント

「掟上今日子の挑戦状」の構成は

第一章 掟上今日子のアリバイ証言
第二章 掟上今日子密室講義
第三章 掟上今日子の暗号表

となっていて、第一弾は「隠館厄介」、第二弾は「親切守」という不運にとりつかれているようなフリーターの男性二人が語り手だったのですが、今回は今日子さんが依頼を受ける警察の担当警察官が語り手になります。

第一章の「掟上今日子のアリバイ証言」では、スイミングスクールのインストラクターをしている「鯨井」という男性が、カフェにいる今日子さんに近づいてきます。彼は今日子さんを利用して「アリバイ」、殺人現場にはいなかったという証明をつくるつもりです。
その事件というのは彼の以前からの知り合いのオリンピック候補になっている水泳選手が、自宅の浴室で感電死したというもの。バスタブの中にドライヤーが落ちて感電したようですが、普通、バスタブに浸かりながら、ドライヤーは使わないわけで、警察としては殺人事件として捜査を開始したわけですね。
で、容疑者として浮かび上がったのが前述の「鯨井」という人物で、彼は被害者と仲が良くないことで知られているというわけ。その彼が、犯行推定時刻ごろ、今日子さんと会っていたというアリバイをつくろうとしているわけですが、肝心の今日子さんの眠ったら記憶がなくなるという特異体質のため、その時の記憶をきれいさっぱり「忘れて」いて、アリバイ証言が成立せず・・という”不幸”な筋立てになっています。
ただ、その「アリバイ証言」騒動がもとで、警察から謎解きの依頼を受けた今日子さんがたどり着いた事実は、鯨井の殺人を暴くものではなくて、彼が行ったのは被害者が亡くなった現場の・・・という予想外の真実が明らかになります。
今回は、実は物語の途中で、今日子さんは睡眠をとっていて、一回、記憶をリフレッシュするのですが、それが事件の真相にたどり着く要因になるとともに、警察との料金交渉を有利にすることにもなりますね。

第二章の「掟上今日子密室講義」では、都心のアパレルショップ内のフィッティングルームの中で起きていた殺人事件の謎解きです。
その店の常連の若い女性客が頭をその店特製のハンガーで撲殺されていたのが見つかるのですが、白昼の開店中の店の中で、誰にも見つかることなく、狭いフィッティングルームの中でどうやって犯行に及んだか、ということと死体発見時、その試着室の両横には誰も入っていなかったことがわかっています。そして、店に設置された防犯カメラには、店の衣装を何点かもって入り、また出ていく、派手なファッションをした被害者の姿が映っていて・・という展開です。
鍵とかはかからないのですが、ヒトの目で作り上げられた「密室」の謎を、今日子さんがどう解き明かすのか、という展開です。

第三章の「掟上今日子の暗号表」は、今日子さんが:被害者の残した「ダイイングメッセージ」を解き明かし、犯人を追い詰める、倒叙ミステリ―ものです。
事件のほうは、人と人とのマッチング事業を経営している会社の社長・結納坂が、ビジネス上のトラブルから創業以来の友人の共同経営者を撲殺するのですが、被害者は死の間際に

丸いと四角いが仲違い
逆三角形では馴れ馴れしい
直線ならば懐っこい

というダイイングメッセージを残します。犯人の結納坂は、このメッセージが犯人を示しているのかもしれないが、彼が探している仕事の重要情報が入っている「金庫」の暗証番号を示すものかもしれないと思っています。
警察のほうは、そのダイイングメッセージをあまり重要視しておらず早急に解読しようとしないので、結納坂は警察から推薦された「置手紙探偵事務所」に解読を依頼することとなります。
そして、彼女は、その暗号が「円周率」を表していると推理するのですが、暗号の本当の意味は・・という展開です。少しネタバレすると、円周率の3.1415926533という数字の連続には全く意味がありません。

レビュアーから一言

今日子さんは、若いながらも。「置手紙探偵事務所」という一城の主ですので、意外と、短手料など「お金」には細かく、厳しいのがこのシリーズのあちこちででてきます。
本巻では、捜査の合間に担当の警察官から豪華なディナーや高価なバーで御馳走になってますし、第一章では、もともと約束していた料金割引の約束を巧妙にスルーしています。
他の巻では、「私の服を買うお金を、私が出すんですか」といった謎の言葉も言っています。
一人で事務所を運営していて経費もかかっているのは間違いないですが、大半は、同じ服で登場したことがない、と言われる彼女のドレス代とアクセサリー代につぎ込まれていると思うのですがいかがでしょうか。

掟上今日子の挑戦状 (講談社文庫)
鯨井留可は完全犯罪を目指さない男。そんな彼がアリバイ工作のために声をかけたのは、白髪の美女。なんと彼女は眠るたびに記憶を失ってしまう忘却探偵・掟上今日子だった! 完璧なアリバイ、衆人環視の密室、使者からの暗号――不可解な三つの殺人事件に、今...

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