犯罪容疑者が本人が意識しないで見せる「なだめ行動」や「マイクロジェスチャー」といった微妙な行動から、相手が隠そうとしている犯罪を見抜く「キネシクス(動作学)」を使う敏腕の女性捜査官・楯岡絵麻シリーズの第10弾が本書『佐藤青南「ホワイ・ダニット 行動心理捜査官・楯岡絵麻」(宝島社文庫)』です。
前巻では絵麻に対抗するように「キネシクス」を使ってファンを操っていたミステリー作家と対決する長編仕立てだったのですが、今回はひさびさの短編集です。
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あらすじと注目ポイント
収録は
第一話 殺人動画にいいねとチャンネル登録お願いします
第二話 指名料はおまえの命で
第三話 天才子役はミスキャスト
第四話 誰がために鈴は鳴る
の四篇。
「第一話 殺人動画にいいねとチャンネル登録お願いします」
第一話は人気カップルYoutubeチャンネル「はるみきチャンネル」のの男性側Youtuber・椎名温大が配信中に殺さるという事件です。事件は、女性側Youtuberの「吉永美貴」の外出中に、椎名が視聴者に「大事なことを離したい」と単独ライブを配信し始めた時に、何者かが部屋に侵入してきた彼を刺殺するというものなのですが、事件後すぐに、一人のストーカー女性「馬場」が犯行を名乗り出ます。
彼女は「はるみきチャンネル」の熱狂的ファンだったのですが、椎名が浮気をしたため美貴が家を出てしまい、チャンネル運営をぶち壊しにしたため、椎名を殺した、と犯行動機を自白するのですが、絵麻は配信されている動画から、3か月前から互いの好意が消えていることに気づくのですが、相棒の美貴は椎名の浮気をはっきりと否定します。
それならば、犯人の馬場が椎名が浮気をしていると思い込んだ理由はそして部屋の合い鍵をどうやって入手したのか、ってなところが謎解きの鍵ですね。
「第二話 指名料はおまえの命で」
第二話は、新宿のホストクラブの新人ホスト・山名が二丁目のビルとビルとの間の細い路地で暴行死しているのが発見されます。
彼はその日、営業終了後、店のナンバーワンホスト・一条銀河が主催する「反省会」と称する飲み会に参加していたのですが、飲み会の途中で二人がいなくなり、しばらくして一条が一人で帰ってきて「山名は具合が悪くなったので帰宅させた」と皆に言った、その40分後に死んでいるのが発見されたという経緯です。
当然、一条が一番の容疑者として浮かび上がるのですが、彼をおだて上げ、油断させ、最後に追い詰める「エンマ」さまの尋問の妙技がしっかりと発揮されています。
一条は、絵麻の尋問で犯行を自白し、普段からやる気のない山名が目障りで、その日も山名の態度にむかついて締め上げているうちに暴行してしまった、と自白するのですが、絵麻のキネシクス(動作学)はここから本当の犯行理由を割り出していきます。
第三話、第四話は
このほか、テレビで人気の天才子役の母親が自宅マンションから転落死した事件の陰の子役一家の冷めた家庭環境と秘められた悲哀が描かれる「天才子役はミスキャスト」、盛り場でたむろしたり、家出してきた女子生徒たちへの熱血指導と補導を続けている元教師の教育評論家の殺人事件に隠された評論家の悪行と、彼を殺した前科者の元暴力団員の男性の本当の犯行理由をエンマさまが見抜く「誰がために鈴は鳴る」が収録されています。
レビュアーの一言
今回はひさびさの「短編集」で、シリーズの最初の頃のエンマさまの、容疑者に媚びを売っていい気にさせ、その後奈落に突き落とす、切れのいい「尋問スタイル」が蘇っています。ただ、あの勝ち誇った「尖塔スタイル」は影を潜めているのは残念ですね。
ちなみにあの「犬猿の仲」であった筒井刑事と妙な協力関係ができあがっているのは注目ポイントですね。さらに、最終話で、絵麻と因縁のある元心療内科医でサイコパス殺人鬼の「楠木ゆりか」が、絵麻の同僚の西野と琴莉夫妻に再び照準をあわせてきているのが次巻以降の要注意ポイントです。
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